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第22話 空はこんなに広いのに、エンカウントはしっかり起こる。

新章突入しました。この章からヒロインも出てきますのでご期待ください。

 やってきました、初めての陸地探索当日でございます!

 テンションが高い? 大丈夫、これは単なる気紛れだ。……この場合の“気紛れ”は、気分によってころころ変わる行動の事ではなく、気を紛らわせたい一心での考えの結果、という意味だ。

 省略すればどちらも気紛れ。意味は違ってもどうせ僕の中で完結するんだから僕が納得できていればそれでいいのだ。


 飛び立ちやすいように自宅の遺跡から孤島上部側へと抜け、空が見える位置で立ち止まる。


「さて、と……【擬態】!」


 ぐにょん、と。姿を鷹へと変える。

 とはいえ今の僕のサイズはかなり大きくなり、大型のサメイルカを一回りほど上回るサイズになっている。

 鷹は鷹でも、本来の鷹のサイズよりはかなり大型になっているため、ここまでくるともはや別の生命体だ。

 別段、体色にこだわる必要性も感じないので姿形だけは鷹だが、その色合いは薄水色な上に中心に核が見える状態だ。


「よっ、と」


 翼を広げ、飛び立とうと両腕にあたるだろう部位を動かす。

 ぐっと浮力を得て浮き上がる体に【加速】を使用して上空へ。

 青く澄み渡った空は広く、湖の中とはまた違った爽快感をもって僕を迎えてくれた。

 雲は少なく、空の上特有の冷たい風も【極寒耐性】のお陰かまるで気にならない。

 適当なところで上昇をやめ、滑空するように翼を広げて風を拾いつつ眼下の光景へと目を向ける。


「う、わぁー……すっげー!」


 どうやらここは島であったらしい。広い広いと思っていた世界が案外狭かった事に驚くとともに、それでも僕の体感としてみるならば島自体が十分すぎるほどに広いと感じさせる大自然の光景に圧倒されてしまう。


 湖はちょうど島の中心に位置しているようで、四方に広がる森はまるで緑色の海のようだ。

 東から北部にかけて雪が積もっており、純白の森が日光を反射して宝石のようにすら見える。さらに遠く、島の東端のほうには雪を孕んだ雲に煙る山が見えていて、おそらくはあの冷水が噴出す地下水脈はあの山から流れてきたものなのだろうと推測できる。


 西は深い、いっそ樹海と呼んだほうが良いほどに鬱蒼と茂る緑の絨毯が濃さと密度を増してかかっているようで、上空からではそこに何があるのかを見通す事はできそうにない。


 北側にはほかよりも背の高い木々が密集していて、その部分だけ草原の丘のように盛り上がって見えた。後々探索してみるのも面白いかもしれない。


 南は森がやや浅く、所々に開けた場所が見て取れる。

 時折木々の間に動くものがあるので、動物か魔物かが生息しているのは確かだと思う。

 実際に湖に給水しにきたイノシシなどは以前美味しく頂いている訳だし、ほかの動物などについても期待したいところだ。


「――?」


 湖の上をぐるりと何週かしていた所で、恐らくは珍しい見た目なのが気を引いてしまったのだろう、ハーピーと思しき魔物の番が僕のほうへやってくるのが見えた。

 人間の胴体の腕部分に猛禽類を想像させる翼、足は膝から下が鳥の様に細くなっており、鉤爪が鋭く尖っている。

 顔は……なんと言えばいいのだろう。よくある可愛らしい女の子の顔がついていたり、精悍な青年の顔がついているか、逆に全部が鳥そのものの顔ならばまだよかったんだけど……。


『みたことのないエサだ!』

『やわらかそうなエサだ!』


 番の片方――おそらくはメスは、細かい羽毛が人間の髪のように生え、目元はつりあがってやや勝気な印象を受ける美少女の顔をしたソレは、なんと口だけが見事に鳥だった。

 やや丸みを帯び、太く逞しい印象の嘴が妙にアンバランスに感じるが、たしかあれは木の実を中心に食べるような鳥特有のものだったはずなので、そこまで考えれば女の子らしい……んだろうか。

 もう片方の男の方も、りりしい顔つきに似合っているのがまだマシだが、口が猛禽類の嘴になっていて、カチカチと音を鳴らしながらこちらを威嚇してくる。


「あー。はろーはろー?」


 言葉を話せるということはそれなりの知能があるのだろうが、これ、会話通じるんだろうか。

 【索敵反響】を用いて、現在【擬態】している鳥の発声器官を震わせて音を紡ぐ。

 同じ鳥類? なのだから、通じてくれると祈ってはみたものの、


『ごはん』

『ごはん!』


 どうやらダメらしい。


 言葉を話せるということはそれなりの知能があるんだろうけど、できれば理解などしたくなかったな。

 妙に食べることに罪悪感が沸いてしまう。

 【言語理解】は便利だと思ったけど、こういうところで弊害があるのか。


「最後通告だよ。退くならよし。退かないなら――」


 言いかけたところで、ハーピーの番は僕を挟み込むように左右にわかれて速度を上げてきた。


「……仕方ない」


 言葉が分かるなら、できれば話し合いで解決したかったんだけどね。

 僕はまだ死にたくない。エサになってあげるつもりもない。

 だから身を守るために戦う。


「とはいえ地の利を渡したまま戦うほど、僕は強い自覚はないからね」


 羽ばたくのをやめ、直角に高度を下げる僕を追ってハーピーの番が後ろをついてくる。

 湖面すれすれを飛ぶように翼を広げ、急激にかかる制動と負荷に耐えつつ水の上を走れば、ハーピーも当然のごとく追って来ていた。

 水面を走る傍ら、意識を水へと集中させて術を練る。


「<水織り成せ(ウォーター)囲い込む檻を(・ケージ)>!」

『!?』

『!!』


 急速に湖面が弾けて立ち上り、僕を素通りして後から追いかけてきたハーピーだけを囲い込むような檻が形成される。

 上空に逃げる隙も与えずに作り上げられた水檻にハーピーを閉じ込めてしまえば、水は湖から独立して空中で渦を巻いていた。


「ふぅ。上手くいった」


 当然ハーピーも脱出しようと体当たりを繰り返しているが、外から内側へと流れるように作られた水の檻を脱出するだけのパワーは持っていないようだ。

 というか、空を飛ぶためにはそれなりに軽量である必要があるだろうし、飛行生物の突進力っていうのは基本的に助走ないし、飛行速度ありきだと思うので、それだけのスペースのない水檻の中では完全に詰みだろう。

 戦闘も終了し、すでに立地はこちらが圧倒的有利な湖面であることもあって、余裕を持って観察できる。

 逆巻く水がハーピーを飲み込んで巨大な球となって宙を浮かぶ様はまさにファンタジーといったところだ。


 ……まてよ?

 湖から水が独立してるってことは、ある程度はなれていても操れるということなのでは?

 気になったことは即検証。もうこちらの勝利は確定しているし、これで逃げるなら逃げたで仕方ないという割り切りを済ませた後でハーピーを一旦解放する。


『!』

『ニゲル、ニゲル?』

『あいつキケン、あいつたおす』

『!』


 どうやら戦意は失われてないらしい。

 そのほうが、僕としてもありがたい。


「逃げる相手を撃つなんて、ちょっと気が引けるしね」


 今度は宙に飛散した水に対して【水術】を使う。


「<水よ奔れ驟雨の如く(アクア・バレット)>!」


 空中に飛び散った水が、ふわりと一瞬静止して宙に浮く。

 その様子はさながら雨の日を写真に収めたようで、大小無数に浮かんだ水が陽光を反射して煌いている。

 だが、そんな綺麗な光景も一瞬の事だ。

 刹那の写真は弾け、次の瞬間には嵐のような水の暴力が湖の上空を支配した。


 荒れ狂う水が風もないのに宙を縦横無尽に飛びまわり、ハーピーの番をまとめてなぎ払う。

 弾丸のうちいくつかが急所を捉えたのだろう。ぐらりと傾いで落ちてゆくハーピーが湖面に落ちる音と、力を失った水滴がざぁぁぁと雨のように湖面に降り注ぐ。


「……うん、やっぱり攻撃に関しては要練習だね」


 明らかにオーバーキルだ。水の中でない事も含めて気持ち強めに術を使ったらこの有様である。

 加減を覚える事もまた、必要な作業になりそうだった。

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