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第20話 美味しい石と不味い蟹

◆2/3◆


お年玉企画、同日投下の2本目です。

本日最後は18時を予定しております。

 というわけで翌日。

 運よくイノシシをゲットしたり鷹親子を捕食できたこともあってお腹も膨らみ、生簀に大量の魚を放り込めたことで後顧の憂いを無くした僕は、以前探索を後回しにした湖の東側へとやってきていた。


「ううー……人間じゃなくてよかった」


 以前も、どちらを探索するかで悩んだ際に東側の水温が低いように感じたことを理由に――あの時は食べ物を、つまりは魚を優先して探索したかったが故に暖かいほうを選んでいた――後回しにしていたが、どうやら予想というか、体感は的中していたようだ。


「寒い……けど、まぁ、なんとかなるかな」


 この辺りは湖の水温がとても低い。

 東の端に向かうにつれてやや傾斜が深くなり、水深が深くなっていくのも原因のひとつだろう。

 ただ、それだけでは納得しきれないだけの水温の落差に、これは何か在るかもしれないなと内心思いつつ、水温などをまるで考慮せずに済む自分の体をありがたいと思うのだった。


「これが人間だったらと思うとゾクッとするじゃ済まないよね。所々氷みたいなの浮いてるし」


 最初こそゼリーというスライムですらない最下級種族に生まれて人の真似すら出来ない現状に嘆いた事もあったけど、今を思えば中々悪くない。

 体は柔らかく自由で、努力しだいで何にでもなることができる可能性を持ち、人では到底耐えられない温度差や水深に適応するだけの生命力。

 今では下手にゴブリンなどの普通の魔物に生まれなくて良かったと思うくらいだ。


「~~♪」


 悠々と泳ぐ僕の周囲に生き物はいない。

 湖底近くを泳げば赤い水草に隠れるように蠢く赤黒い蟹――大きさは先日いただいたイノシシと大差ないので巨大すぎる部類である――がいたので味に興味はあったのだが、先に探索を終わらせないと今までの経験上、ご飯だけで一日を使ってしまいそうだったので敢て無視する事にした。帰りは何匹かつまみ食いしつつ南の探索をしたいと思う。


「予想はしてたけど……やっぱりちょっと寂しいなぁ」


 東側は水温が低い所為もあって生き物が少ない。

 ただ、さらに今向かっている先には大きな水の流れのようなものがあるので、この先に何かがあるのは間違いなさそうである。


 水流が近くなり、【索敵反響】の精度に鈍りを感じ始めて暫くたった頃だった。


「うわー……すっげぇー」


 思わず目の前の光景に感嘆が漏れる。

 コポコポと体内で気泡が出来るだけなのだが、それでも僕なりの感動表現だった。

 きっと前世では、いや、この姿でなければ見る事は叶わなかっただろう。

 こんな光景をこれからも見る事ができるのならば、不定形生物(スライム)というのも存外悪くないものだなと、僕は思った。




 ごうごうと音を立てる冷水の激流が湖底近くの外壁からふき出して、気泡を含んだ水が撹拌されて光を反射している。

 その周囲だけ、水の勢いと冷たさの所為だろう。

 動物も、草も、一つとして存在していない、絶対の領域。

 代わりに、水晶のような透明度のある青白い結晶が砂のように細かく砕かれて水に踊り、光が反射してその部分だけが湖底であるにも関わらず一定の光度を保っている。

 流れで続ける水は冷たく氷の様だが、結晶は氷の粒ではない。

 試しに近づいて口に含めば、ひやりとした食感とブルーハワイのカキ氷の様な味が広がって、僕の体液自体にも色が移ったように淡い光が宿った。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 新たにスキルを獲得しました。


 【極寒耐性】


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 どうやら氷属性の鉱石だったらしい。新たに追加されたスキルは耐性系スキルだった。

 内容はおおよそ予想がつくものの、一応のつもりで確認する。見落としって怖いもんね。


 【極寒耐性】

 寒冷に対して高い耐性を示す。


 今度はどうやら氷属性に耐性を持ったようだ。

 これは嬉しい事である。何故なら、現在の僕の弱点といえば、体の中心で浮いている(コア)とも言うべき赤黒い球体が有力ではあるが、それ以外にも、体液が蒸発してしまうような高熱や、一瞬にして体液が凍りついてしまう様な冷気は致命的なはずだから。

 それらの内、冷気だけにも耐性がついたというのは生きていくうえでも十分有り難い事なのだった。

 やはり新しい場所には発見があるものだと愉快な気分になりつつ、舌があれば真っ青になりそうな味の鉱石を飴のように楽しみながら南へと足を向ける。

 もちろん、後で食べるようにと氷鉱石の粒が大きいものを選りすぐって体内に収納することは忘れない。


 思いのほか東の探索がはやく終わってしまったこともあり、今日中に北側の探索も終わらせてしまおうと進路を北へとる。

 その際に蟹も捕食してみたが、残念なことにスキルは得られなかった。何度か捕食していたら取れたのかもしれないが、残念なことに味がいただけない。

 何故かと言われれば、こう答えよう。腐った魚介類を好んで食べる趣味はない。と。


「あー……ひっどい味だ。蟹のくせに、期待させたくせに、ほんとに、どうしてくれようか」


 それでもまだスキルが有用そうなのを持っているならばいい。我慢して食べようというものだ。

 だが、蟹にいたってはやや硬そうな甲殻とハサミしか見所がなく、かつ、そのハサミすら【極彩鎧鱗】を纏った僕に傷一つ付けられなかったので、無理してまで得たいと思えなかったのだった。

 それにだ、今日の予定はまだある。

 今日中に湖の探索を終えるためにはこんなところで立ち止まるわけにはいかないのだった。

 Name:【-----】


 種族:アクアスライム・天恵種(てんけいしゅ)


 スキル:【●●の記憶】【言語理解】【無差別捕食】【消化吸収】【猛毒耐性】

      【毒素生成】【水中適性】【索敵反響】【高速鋭利化】【幽体特効】

      【呪術耐性】【擬態】【加速】【極彩鎧鱗】【激流障壁】

      【極寒耐性】<New!>


 スペル:【水術】


 称号:【転生者】【哲学する軟体生物】【水陣の御手】

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