青磁
青磁は悩んでいた
柊王の花嫁である麦穂に若宮の花嫁になる珊瑚の侍女をしてくれないかと打診されたのだ
青磁は一年前まで楓の2つ下の妹、菖蒲の侍女をしていたのだが、どうも菖蒲との折り合いが悪く、侍女を解任されて、今は王宮の給仕として働いている
歳は楓たちと同じ17歳だ
青磁は賢く気ばたらきもするが、性格に癖があり、菖蒲だけではなく王宮の他の使用人たちからも疎まれている
青磁自身も感情が顔や態度に出てしまう自分に手を焼いていた
確かに給仕より侍女のほうが身分が上だしお給金もいい
でも翆の花嫁の侍女は…
青磁は菖蒲の侍女をしていたある日のことを思い出す
菖蒲の寝台を整え、枕元に水びょうを用意し、その日の仕事を終え退出しようと王宮の廊下を歩いているとき、楓の部屋から話し声が聞こえた
その日は楓の部屋に翆と杏が泊まりに来ていた
青磁は話の中に自分の名前を聞きつけつい部屋の前で立ち止まる
楓と杏は侍女たちの人物談議をしていたのだ
この時三人は大人たちに内緒で酒を飲んで、少し酔っ払っていた
「美人と言うなら多分青磁が一番だろうけど性格が悪すぎる」
「他の侍女たちからの評判も悪いしな」
「青磁が侍女では菖蒲もかわいそうだ」
という楓に対して杏は
「楓らしくないな、そんな人のことを悪く言うなんて」
「酒のせいかな」
と少したしなめるような口調で言った
青磁は涙が出てきた
明るくて華やかな楓が割りと好きだったのにそんな風に思われていたのかと
そのとき翠が
「青磁は自分の気持ちが押さえられないところもあるが、とてもきれいだ」
と言った
青磁は雷に撃たれたような気がした
今までは「きれいだけど、」という言葉の後に散々けなす言葉を受けてきた青磁だった
翆の今の言葉はそれとは違う
さっきとは違う涙が青磁の頬を伝った
翆のあの時の言葉は青磁の心を虜にした
青磁はそれからずっと翠が好きだった
翆の花嫁候補の70人に自分が選ばれた時は本当に嬉しかった
だけど…
あの美しい珊瑚の前では私は割れた茶碗の欠片のようだった
珊瑚を見て自分がみじめになったのは私だけではないだろう
あそこにいた者たちは幼い頃から容姿を褒められ、それを自負してきた娘たちだ
美しさを誇って生きてきただろうに、珊瑚を見てそのプライドが粉々になったに違いない
珊瑚の侍女になればいつも翆のそばにいられる
割れた茶碗の欠片として
でもそれはあまりにも辛い
やはり断ろう