謁見室にて
滴宮家の翠の両親は宮殿の謁見室で王の仲介により、珊瑚と引き合わされた時、翆が軽く眉根を寄せたのを見逃さなかった
初めて見るわが子の表情だった
翠もこんな顔をするのか…と思った
両親はそれを若い男が美しい娘を前にした時の動揺と言うか照れ隠しだと好意的に受け止めた
翠の母の萌黄は珊瑚の美しさに舞い上がった
翠もどちらかというと女顔だ
これは…可愛らしい子供が生まれてくるに違いない
私は女の子が欲しかったのだけれど、子供は翆一人しか授からなった
孫は…一人は女の子が欲しい
萌黄は想像のなかの可愛らしい女の子に着せる衣装などを考え幸せなひと時を過ごした
父親の英は翆にこの美しい娘を与えた柊王に、翆への愛情を感じ、それをありがたく思った
謁見の間にいた皆はそれぞれ満足を感じていた
翆以外は
柊王はこの時珊瑚に注目していた
珊瑚は翆に会った時ぱあっと頬を染め、その後すぐ戸惑ったようにうつむいた
うつむくとまつ毛の長さが際立つ
そのまつ毛がまばたく度に何とも言えない風情を生む
珊瑚を気に入らぬ男などいないだろう
珊瑚も翆を気に入ったようだ
本宮の隣に建てている新居ももうすぐ完成する
翆の幸せな新婚生活が始まる
せっかくの新婚生活を邪魔しないように、楓と杏には注意しておかなければなるまい、と柊王は考えた
楓も杏も初めて珊瑚を翆に紹介された時はその美しさに驚いた
特に杏は自分が美形なので女性を見ても美しいと感じたことがなかったのだけれど、さすがにこの娘は美しいと脱帽した
同時にチクリと胸が痛んだ
貿易相手である西の大国からも客を招いて翆の結婚式は盛大に行われた
夏の初めの結婚式だったので、異例のことではあるが、花嫁衣装として珊瑚には袖のないドレスを着せた
その分胸元は詰めた形になっている
珊瑚の肌は絹の白さと変わりなく、遠目には服を着ているのかどうか分からない
皆、珊瑚の美しさにうっとりした
女たちは自分もこう生まれて来たかったと思ったし、男たちはこんな美しい娘を妻にできる次期国王はなんという果報者なのだろうと思った
本宮の南に建てられた2階建ての若宮殿で、珊瑚との生活が始まった時、言いようのない不安を翆は感じた
皆が言うように珊瑚が美しい娘に思えない
私はどこか人と感覚がずれているのだろうか
いや、美しくなくてもいいのだけれど、何か…嫌な感じがするこの娘
ここから今まで悩みとは無縁だった翆の苦しみが始まる
もともと翆の新婚生活を邪魔するつもりはなかったが、柊王に釘を刺されたとき、杏の心はまたチクリと痛んだ