三人の嫡子
雲宮家、滴宮家、溜宮家の嫡子は他の兄妹とは違い、学び舎には10歳までしか通わず、その後は三人だけ特別な教育を受けた
雲宮家の楓は王の息子であるし、溜宮家の翠は王になるものであるし、溜宮家の杏はいずれ王になる者の父になる
三人は森の主様と呼ばれる長老知恵者を始め、その道の知恵者に歴史、地理、物理、数学、天文学、修身、帝王学などの幅広い知識を教え込まれた
楓、翠、杏は同い年だったこともありとても仲良く本当の兄弟のように育った
三人は王宮の別の棟で暮らしている
砂漠地帯の青国で暮していた頃は、天湖族もテントを連ねたものを王宮としていたが、白国では豊富な木材を使って建てた重厚な建築物を王宮としている
天湖族は木材の扱いに長け、また建築技術も発展していた
今は王宮の中央部の本宮に雲宮家が、東宮に滴宮家が、西宮に溜宮家が暮らす
楓は活発で明るかった
湖族特有の黒黒とした瞳と口角の上がった口元がその印象を強くした
なんでも思った事を口にする
いつもどこかはねてる短く段のついた黒髪も人に親しみを感じさせる
杏は頭脳明晰で自信家だった
きれいな輪郭と通った鼻筋、形の良い眉が特徴的だ
容姿端麗と表現するのが適切だろう
杏は天湖族の男にしては珍しく腰のあたりまで髪を伸ばしそれを右の耳の下で縛っていた
翠は…
翠は取り立てて特徴のない容姿だった
平均的な湖族の顔をしている
特別美形でもなければ不器量でもない
ただ左のこめかみに小さな傷跡がある
髪型は楓と同じだったが、サラサラとした髪質は翆の素直な性格を象徴しているようだった
一人でいるところを見れば特に秀でたところは無いように見える
ところが集団の中に入ると翠は目立つ
人の中にいるとその人格の輝きのようなものが際立つ
なにか冒し難いものを感じさせる
事実、翠はおとなしい性格でありながら子供の頃から現在まで人にからかわれたり馬鹿にされたりすることがなかった
楓は杏に馬鹿にされたり、杏はクラスの乱暴者に泣かされたりしたことがあったのだが…
もちろん翠はいずれ王になるものであったので大人たちには尊重されたが、子供の世界にそれは通用しない
翠は人を嫌わない
だから人も翠を嫌わない
翠を知るものはみんなゆるく翠が好きだった
クラスでどんな揉め事があっても翠だけは巻き込まれずいつも中立で、皆の止まり木のような存在だった