表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

西条院凍雨の持論

クラスメイトたちから逃げた優と西条院。傷心の優に、西条院が意外な言葉をかける。

 7


「君がいない十日あまりの間、私なりに情報収集していたわけだよ。他でもない君の身に起きた不幸だからね、それなりに興味――いやこういう言い方は失礼かな。ともかく気になっていた。今のご時世、一人で情報収集なんて座ってでもできるからね、便利だ」

 先輩はいつも通り、噴水に座り、僕もその横にいた。結局ここに来るまでの間、僕は一言も発しなかった。

「君といつもいた子だろ、覚えているよ。言葉をかわしたこともあるよ。優をたぶらかさないでくれますかって、明らかな喧嘩腰で。怖かったなあ。でも、すぐにわかったよ。優しくて、友達思いのいい子だって。時々廊下から睨んできてね。いやはや、懐かしい」

 先輩は空を見上げながら、太陽に手のひらをかざして、指の隙間からの日差しを眩しそうに浴びていた。

「……悲しいかい?」

「……当たり前です」

 ようやく会話らしい会話をしたけど、それだけで、後は続かない。先輩はなんと言葉をかけていいかわからないって感じじゃなく、何も言わないのが正しいと確信している様子で黙っていた。

「どうして、僕を連れ出したんですか?」

「どうしてもこうしてもないね。おおよそ、君が迫害されること、それに抵抗すること、両方とも予想できていたからそれを止めに行ってたのさ。悲しいことに、魔法少女への迫害は私が一番知っているから、どうなるかくらいわかった。行って正解だったよ。しかしあの校舎ってあんなに広かったかな? 久しぶりすぎて、迷ってしまったよ」

 どうとでもないという感じで先輩は軽く笑った。今朝教室に入った段階で、十日前と雰囲気が違っていたことがすぐにわかったのに、ここは、先輩はかわっていない。

「もう君の居場所あそこにはないらしいよ。悪いことをしたね。けど安心してくれていい、君ならここの一角を貸してあげるから」

「いいですよ。きっと、ここに来たってなんかしてきます。もう、いいです」

「まあ、君が諦めるなら、それは君に任せる。彼女の死も、そうやって諦めるかい?」

 どきっとした。先輩を見ると彼女も僕を見つめてきた。先ほどまでとは違う、少し威圧感のある視線を送ってくる。

「警察が捜査をやめたそうだね。魔法少女の事件ではよくあることだ。それで君はどうするの?」

「どうするって……」

「諦めるならいいんだけどね、勝手にすれば。私は君を奮い立たせに来たんじゃない、そこまで熱くなれない体質なんだ、熱処理の関係でね。ただ、それしきの感情しか抱いてないなら、心配無用かな」

「それしきって」

「だって、十日間ショックで寝込んでいたのかなんだか知らないけど、それで状況は好転したかい? そしてこれからしそうかい? すると思うのかい?」

 矢継ぎ早に質問してくる先輩に対して、僕は口をむずむずと動かすだけで、何も言い返すことができなかった。そんな反応に、先輩はわざとらしいため息をつく。

「しないよ。断言してあげる。するわけない。犯人は野放しにされ、被害者が報われることはない。それがこれからの未来だよ。私は知ってる、いや、思い知ってる。この世界がどれだけ魔法少女に厳しいか、残酷か、恐ろしいか。私達がどれだけ無力か、脆いか、弱いか」

 先輩は自分の右の手のひらをじっと見つめていたが、言い終えると悔しそうにそれをぎゅっと力強く閉じて、拳を作った。

「いつだって、そうなんだよ……」

 先輩が自ら魔法少女と名乗るようになったきっかけは、以前居住していた場所で秘密がばれてしまい、ひどい仕打ちを受けたからだそうだ。信じていた人たちが、たったそれだけの事実で手のひらを返してきたという。

 あんな思いはもうしたくないから、私は隠して生きない。いつだったか、先輩がそう語っていた。彼女がここに篭っているのも、少し厭世的なのもの、誰も信じたくないという思いからだ。

「それで、改めて問うけど、君はそれでいいんだね? つまり君も他と何も変わらない、魔法少女なんて死んでも構わないと思っている部類の人間なんだ」

「そ、そんなわけないっ!」

 力強く否定しても先輩は驚きもしないで、さっきと同じ調子だ。

「どうだろうね。だって君は彼女の死を悼んでいない気がするよ。ただただ、事件に巻き込まれた自分に酔っている。悲劇のヒロイン的なあれだ」

 あまりの言葉に体温が上がっていき、顔が赤くなるのが自覚できた。拳を作って、それをお構いなく噴水に叩きつける。痛いのは僕の拳だけど、怒りのせいでそんなことどうでもよかった。

「悔しいですよっ! 何もできなくて、苦しいですよっ! 先輩にはわからないでしょつ! 私だってっ、何かできるならなんとかしたいですよっ!」

 気づけば、この十日ずっと溜め込んでいた感情を、一気にここで爆発させていた。はあはあと荒い息遣いになってしまっている僕を、先輩はやはりさっきと同じ様子で見ていた。ただ、僕は彼女を睨んで、次の言葉を待つ。

 すると先輩は立ち上がり、僕の前に立って手をのばしてきた。

「これは孫の手で、猫の手さ。君が必要なことをしてあげる。必要なら掴むといい。何でもしてあげるよ」

 太陽が逆光になっていて、先輩の表情がよく見えない。ただ、自分が試されているのはわかった。

 考えてなかったわけじゃない。捜査が終わったと聞いたところで、なんとかしたいという思いはあった。だけど、何をしていいかわからなくて、何かできる自信もなくて……。

 先輩の手を迷うことなくて掴んだのは、そんな自分が嫌になったからかもしれない。

「うん、いい返事だね。さて、なら行くとしようか」

次回は二人が捜査を始めます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ