(短編) 盾と矛 - 4,600文字
漆黒の暗闇の中で声が響く。
──こんにちは、みなさん!
若干エコーの掛かったとても通る男の声が聞こえる。
──皆さん、今日は『BBB』ことブラッディ―・バーニング・ブレードのクローズド・ベーター・ファイナル・イベントの終戦祭に参加して頂きましてありがとうございます。
──とは言っても、ここコロシアムに居る参加者は私を含め3人しか居ないのですが。ア~ッハハハハ!
漆黒の闇の中、かすかに見える赤い光が浮かび上がる。その光はどうやら人の形をかたどっているようだ。
そしてその光にスポットライトの強烈な光が当たる!
──参加者は、審判を務めるこのわたくし、シニアGMの『Hiroxx』と、みなさんご存じのこのお二人!
会場のどこかでどよめきが起こる。
ドン!ドン!ドコ!ドン! ドンドンドン!……。
BGMとしてアフリカの先住民族の音楽の様な野太い太鼓の音が一定間隔で流れる。
──武器としては最高峰の性能を持つ完全攻撃貫通の剣。
──魔剣『ラグナロック』をベーターテスト中に竜王Shadowを討伐して手に入れた~
ガコン!
ソレノイドリレーの風の効果音と共に暗黒騎士にスポットライトが当たる。
漆黒の鎧の中に赤いラインが映える鎧を着ている。
体型はかなり無骨でマッチョな感じだ。
GMが大声で煽る!!
──漆黒の爆砕暗黒騎士、デ~~ッスッナァイットォォォ~!
今まで何もなかった暗黒騎士の上空の空間にステータス情報が映し出される。
そして効果音として弦をかき鳴らすリードギターの音。
Desunaito
HP 2480
MP 562
ATK 1712
DEF 101
Weapon Ragnarock
会場のどよめきが歓声に変わる。
「ウォォォォ!」
「スゲェーー!!」
「アニキィィー!!」
歓声は鳴りやまない。
GMは調子に乗りプロレスのリングアナウンサーの様な口調で煽る。
──清々しいほどの完全攻撃重視のステ振りぃ~。
──ネームの綴りがぁぁ~『DeathKnight』じゃない所がぁ~、少しおちゃめなセールスゥ~ポイントゥゥ!
GMは一息入れて続ける。
──対するは、防具として完全攻撃防御の最高峰の性能を持つ盾。
──聖盾『イージス』をベーターテスト中に神龍Goddesを討伐して手に入れた~。
ガコン!
神聖騎士にスポットライトが当たる。
純白の鎧の中に金色のラインが映える鎧。
体型は痩身長身でかなりクールな感じだ。
──神聖騎士、ブゥロンットゥ~!
神聖騎士の上空の空間にもステータス情報が映し出される。
そしてまたもや弦をかき鳴らすリードギターの効果音。
Bront
HP 6120
MP 5980
ATK 98
DEF 1682
Shield Aegis
会場の歓声がますます大きくなる。
「ウォォォォ!」
「カッコィィ!!」
「旅団長~!!」
歓声は鳴りやまない。
──防御重視で鉄壁の盾。
──ベーターでは最大規模のチーム『神聖旅団』を率いる頭脳派リ~ダァァ~!
GMは続いて叫ぶ。
──そして、ギャラリーは~ッ!
──ベーターテストに参加してくれた~ァァ!
──遠くバーチャルスタジアムからこの会場を観戦する45,000人のベーターテスタァァ~!!
すると今まで漆黒の闇だった天空にギラギラと輝く太陽が昇り、空は雲一つない青空に、漆黒の大地は固まった砂地に変わり、その上にはローマ時代の純白のコロシアムが現れる。
そして今まで見えていなかったギャラリーが可視化されてスタジアム外周にある観客席で波打つ。
──本日は、この2人に、こちらのレアアイテム、レッド・ゴールド・プラチナ・アーマーを賭けて戦ってもらいます!
──このアイテムはBBB内で最強の装備となっていて、
──なんとステータスは『全ステータスMAX!』
──『完全ガード!』
──『完全回避!』
──『移動速度3倍!』
──『通常攻撃:16回攻撃』
──『アイテムドロップ8倍』
ギャラリーの歓声が怒号に変わる。
「ウォォォォ!」
「カッコィィ!!」
「スゲェェー!!」
「欲しいィィ!!」
「よこせェェ!!!」
──正に神が着るべき超ド級の装備性能です!!
──なお、VRMMOと言う性質上、長時間の対人戦は精神に重い負担が掛かる為、2分で勝負がつかない場合は参加者でダイス勝負をして勝者を決定させていただきます。
会場にミュートの音声効果が掛かる。
辺りに静寂が訪れる。
GMが言う。
──それでは両者位置について!
そして叫ぶ!!
──ファイ!
ミュートの音声効果が切られ、辺りに歓声が戻る。
そしてBGMはBBBのメイン戦闘BGM「聖戦の譜系」激しいオーケストラサウンドBGMが辺りを覆う。
最初に仕掛けたのは暗黒騎士であった。
「死ねーーーーーぃ!!! 俺の研ぎ澄まされた刃を喰らいやがれ!!」
暗黒騎士はダッシュと共に、最も隙の少ないウェイポンスキルの3連撃を仕掛けた。
ガゴン!
ガゴン!
ガゴン!
大地ごと切り裂くと思えるほどの凄まじい剣圧で攻撃が繰り出される。
盾と剣からは尋常ではない程の火花がほとばしる。
GMの実況が入る、
──剣と盾がぶつかり合い激しい火花をあげております!
──おお!
──これは!
──なんと、イージスの盾を持った神聖騎士のHPが減っている!
神聖騎士の頭上のステータス情報のHPを見ると攻撃が当たる度にHPが500ずつ減っている。
──神聖騎士のHPは合計1500減ってHP4620!
──現代の最強の矛と盾の戦いは、矛に軍配が下るのか~!
暗黒騎士の激しい攻撃を盾に受けた衝撃で神聖騎士の顔が歪む。
──このまま削りきるのか、削りきられてしまうのか~!!
ギャラリーから発せられた歓声と悲鳴が会場を異常な音圧をもって包む。
暗黒騎士は、ガードをお構いなしになおも猛攻を続ける。
「塵になれ!! 砕けろ!!」叫ぶ暗黒騎士。
ガゴン!
ガゴン!
ガゴン!
なおも続く凄まじい剣圧の3連撃。
「ぐっ!」一般プレイヤーならガードしただけで消し去りそうになるほどの剣圧を必死に耐える神聖騎士。
聖騎士はガードする度に衝撃で1mぐらいずつジリジリと後ろに追いやられる。
真っ白な火花が激しくあがり、目が眩む。
──神聖騎士のHPが目に見えて減ってきた~!!
──HPは3120。
「潰れろ!! その盾ごと鉄塊にしてくれるわ!」叫ぶ暗黒騎士。
ガゴン!
ガゴン!
ガゴン!
暴力的な剣圧は全く衰えることが無い。
「がっ!」必死に耐える神聖騎士。
顔には苦痛の表情が滲み出す。
──これはこのまま一方的展開で終わってしまうのか!?
──HPは1620。
──後がもうない~!!
「消えろ!! トドメだ!!!」
トドメの3連撃を放つ暗黒騎士。
神聖騎士の碧眼が怪しく光った。
「バカめ、罠に掛かったな!!」そう叫ぶ神聖騎士。
ガゴン!
ガゴン!
ガゴン!
その3連撃の最後の攻撃が当たる刹那、神聖騎士は「喰らえ! シールドバッシュ!!」と叫ぶと暗黒騎士の凄まじい剣圧の攻撃を盾ではじき返し跳ね返した。
ドゴン!
今までとは全く異なる金属音が鳴り暗黒騎士は己自身の暴力的すぎるほどの攻撃で体を弾かれ120mほど飛ばされ会場の反対側の壁に叩きつけられた。
暗黒騎士は、壁に叩きつけられて衝撃で白煙を上げ身動きが出来ないようだ。
「やったな。」そうつぶやく神聖騎士。
GMの実況アナウンスが入る。
──さすが、頭脳派リーダー!
──最大規模のチームを率いるリーダーだけあって頭がキレる。
──あの猛攻の2撃目まで受けて3撃目のみを弾き返す頭脳プレイ!
暗黒騎士の頭上のステータス情報のHPが穴の空いた桶からこぼれる水の如く一気に減る。
HP2000
HP1500
さらに減るHP。
HP1000
HP500
ガンガン減るHP。
HP100
HP90
HP80
HP70
HP60
HP50
だが神、われわれが言う悪魔は暗黒騎士に味方した。
HP42
そこで暗黒騎士のHPの減りが止まった。
──お~っと!ギリギリのところで耐えた暗黒騎士!
──残りHP、僅かに42。
「ちっ! 仕留めそこなったか。」
神聖騎士は悔しそうにつぶやく。
暗黒騎士は、ガラガラと鈍い金属音を鎧から出しながらふらついた足で起き上る。
──神聖騎士HP120、暗黒騎士42 どちらも一度攻撃を受けたら終わりだ~!!
神聖騎士と暗黒騎士のにらみ合いが始まった。
神聖騎士は攻撃を受ければHPが全て削りきられてしまう。
暗黒騎士は攻撃をすればシールドバッシュでHPを全て削りきられてしまう。
もちろん他の攻撃を出すことも出来るが技のモーション中に敵の通常攻撃でかたが付く。
どちらかが先に攻撃を出したら負ける。
そんな状況になってしまった。
隙を見せたら負ける。
すり足でさえ動けない。
神聖騎士と暗黒騎士の静止したにらみ合いが始まった。
動くものは呼吸をする胸と、額を流れる汗のみ。
睨み合いが永遠に続くかと思われた時、
ガンガンガンガン!
試合終了を鋭い金属音のゴングが告げる。
試合時間の2分が経過した。
──DRAW
競技場に立つ2人の頭上に非情な4文字が表示された。
突然の幕切れだが、この戦闘での精神の負担を考えれば妥当な時間だっただろう。
──なんと~ 引き分けだ~~!!
──故事と同じに現代の最強の矛と盾の戦いは引き分けに終わった~!!
うなだれる二人。
──それでは2人の健闘を祈り握手でしめてもらいたいと思います。
コロシアムの中央にで握手をする2人。
「次は製品版で叩きのめしてやる。」再戦の挑戦状を叩きつける暗黒騎士。
「製品版で楽しみにしてるよ。」クールに挑戦状を受け取る神聖騎士。
──それでは、参加者の皆さん、ダイスをお願いします。
「ダイス!」、暗黒騎士は693を出した。
「ダイス!」、神聖騎士は702を出した。
「うぉぉぉぉ!」クールな神聖騎士が叫ぶ。
試合は終わった。
と思った瞬間とんでもないことが起こった。
──ダイス! Hiroxxは999を出した。
──Hiroxxはレッド・ゴールド・プラチナ・アーマーを手に入れた。
「え?」
「え?」
呆然とする2人。
──いやー、わたくしもこの会場の参加者なのでダイスしないとこの試合終わらないですし~。
そう言いつつ賞品のレッド・ゴールド・プラチナ・アーマーを、そそくさと着だすHiroxx。
「くたばりやがれ!」
「死ね!」
Hiroxxに飛びかかる2人。
だが攻撃が届く前に装備を既に着こんでいたのですべての攻撃は弾かれて、元々虫の息の2人は地に倒れ込んだ。
──わたしに歯向かうなんて10年早いですよ。
──フハハハハ!
これが『BBB』ことブラッディ―・バーニング・ブレードに君臨する魔王いや糞GM誕生の瞬間であった。