SCENE 1
街外れにある、ちょっとだけおしゃれな小さな書店。そこが篠藤真澄のバイト先だった。大学から近く、シフトの都合が良かった為、先月から彼女はここで働いている。要領は悪くなかったのでそこそこに仕事も覚え、周りにも馴染んできた。
「お疲れ様です」
カウンターに居るスタッフに声を掛けると、何か考え事でもしていたのかそのスタッフは真澄の声に驚いた様子で顔を上げる。短い髪が活発さを思わせる、可愛らしい感じの真澄と同い年程の女性だった。
「あ、ああ……お疲れ様」
妙に覇気が無かったものの、彼女は笑顔で応えてきた。その一言で調子を取り戻したのか、そのまま少々雑談へと流れる。
「篠藤さん、今日は早いんだね」
「ええ、変に時間が空いてしまって……何時もだと何処かで時間が潰せるんですけど、半端過ぎたんでそのまま来たんです」
「そっか……今、バック誰も居ないから、時間まで居ても大丈夫だよ。それとも、何か本探す?」
その女性スタッフに言われ、真澄は少しだけ考える。彼女 ―― 高杉恵子はよく真澄にお薦めの本を教えてくれ、真澄はそのどれも気に入っていたのだ。
「そうですね……でも、まだ読み終わってない本があるから、今日はそれを読んでます。読み終わったらまた、お薦め教えて下さい」
微笑む真澄に、恵子はうんっと応えると何故か少し不安そうな顔をした。真澄はそれに気づきつつも、敢えて気づかない振りをしてバックヤードへと向かう。店内には殆ど人影は無い。きっと彼女はそれが不安だったのだろうと、思いながら。