SCENE 0
その日は風も強く、カラカラに干乾びた木の葉が一層哀れに高く舞い上がっていた。つい先日まで風景は秋を見せていたのに、ここ数日の冷え込みで一気に冬へと移り変わっていた。彩り鮮やかに着飾っていた並木道も気づけば既に茶色に褪せ、木枯らしの中に木の葉を投じている。秋は短過ぎて、感じ入る間も無かったかのように。
そんな並木道の中、一人の少女がゆっくりと歩いていた。背の高い、艶のある腰まで伸びた長い髪が印象的な少女だった。寒さの為なのか俯きがちに歩いている少女のその姿は、色褪せてしまった並木道を憂いているかに見え、その様はこの季節の風景と相俟ってまるで一枚の絵画を思わせる。
「…………」
ふと、少女の歩みが止まった。視界の端を掠めた何かに、思わず足を止めたのだろう。少女の瞳が地面から空へと動く。それを見計らったかの如く、一際強い風が少女を掠めた。絹糸の様な細く長い髪が、靡く旗の様に暴れる。そこから現れた少女の顔は、何かに挑むかのきつい眼差しの……酷く美しい顔だった。
切れ長の瞳は東洋系の特徴を持っているのに、睫毛が長い為か小さくは見えない。良く見ればその黒い瞳が角度によっては深い紺にも見える事に気づくだろう。彼女の身体付きはお世辞にも女性らしいとは言えないが、寧ろそれが逆に神秘的とも言える中性さを醸し出していた。
そんな誰もがはっとする様な少女のその紺の瞳は少しばかり後方に動き、そこに現れた人影を捉える。それはライトグリーンのセーターを着た三十路程の男性だった。特に少女を気にするでもなく、そのまま少女を追い越して並木道を進んでいく。それを少女はずっと瞳で追っていた。
「!!」
瞬間、強い風が吹き付け、少女の瞳は反射的に閉じられる。風が去り、少女が瞼を開くと、既に男性の姿は無かった。在るのは並木道の先に佇む、小さな書店だけだった……