その1
土砂降りの雨が降っていた。家の屋根やアスファルトの路面を叩くその音は、がむしゃらに叩かれた太鼓の爆音のようである。そんな雨の中を、傘を持たぬ一人の女子高生が駆けて行た。
ショートに切り揃えられた黒髪。整った顔立ちながら、そのつり気味の黒い目がどこか気高い雰囲気を演出していた。
学生カバンを頭上に掲げてなるべく顔に雨が当たらないようにしてはいるが、それは無駄な努力でしかない。
――あっちゃー。こんなことなら寄り道しないでとっとと帰っておけばよかったか。
ひた走る少女――烏丸真希は、降水確率二〇パーセントを過信した今朝方の自分を軽く呪った。
とっくにずぶ濡れになっている制服やスカートは重みを増すとともに身体に張り付き、その健康的な身体のラインをうかがわせてしまっている。
平均よりも幾分高い身長で、猫科の動物を連想させる均整の取れたスレンダーな肉体は、走る姿と相まって一つの芸術の様でもあった。
――とにかく帰ったらシャワー浴びない――ん?
真希は進行方向上、赤色の傘を指す人物の背中を捉えてわずかに眉をひそめた。何故なら、濃い灰色の世界でよく目立つその傘は、正月芸や時代劇でよく使われるような蛇の目傘だったからだ。
一般的に常用される類の傘ではない。よほど物好きか何かでなければ、そもそも持ってすらいないはずの代物だ。
そんな珍しい傘を差した人物が、行く先に居る。
――……怪しい。
真希の脳裏をそんな評価が掠めたが、このまま走り続ければすぐにでも追い越せる状況である。最悪話しかけられても聞こえない振りをして逃げればいい。
そう結論を出し、真希は速度を緩めずに雨の中を走り続けた。
ところが、ここで彼女にとって予想外の事態が起きる。
「む?」
真希が対応を決定した瞬間、計ったかのように傘の人物が振り返ってきたのだ。その顔を見て、真希は雨に濡れた道路の上で急ブレーキをかけざるをえなかった。
振り返った人物と急制動をかけて止まった真希は、二メートルほどの距離を開けて対峙する。
――うわっちゃー……
真希は思わず止まってしまった自分を引っ叩きたい気分になった。止まるべきではなかった。走り抜けなければならなかったのだ。
振り返った人物は真希より頭一つ分ほど背が高い、おそらくは百八十を超える長身だった。不可思議な白装束に身を包んでおり、なんと足元にはこの雨の中だというのにわらじを履いている。
この時点で相当に怪しい事は間違いないが、それをさらに増幅させているのがその顔に付けられた真っ黒なお面だった。鳥のような人間のような、そんな印象を持つお面である。
「……お主、もしや烏丸真希という名か?」
いきなりの言葉に、真希の心臓が跳ね上がった。会った事も無いどころか、一度見たら忘れられないだろう不審人物――声からして男に顔と名前を知られている。
真っ先に彼女が疑ったのはストーカーだが、
――さすがにこんなのはいないわね。
すぐにその可能性は捨て去った。捨て去ると同時に、真希は隙あらば逃げ出せるようにさりげなく重心を移動させておく。幼い頃祖父に習った武道の基礎は、飛び出しの速度を飛躍的に高めてくれるはずだ。
「む? 人違いじゃったか?」
雨に視界を遮られる上、真希が濡れ鼠状態な事もあってお面の男は彼女を正確に認識出来ていないようだ。
おそらくはもっとよく確認しようという意図でゆっくりと真希の方へ近付いてくる。
一歩。二歩。三歩目で真希はアスファルトを蹴って飛び出した。一瞬でお面の男の隣をすり抜け、そのまま全力で走り出す。
「なっ、ちょ待――」
後方からそんな声が聞こえて来たが、そんなものには構わない。ここで逃げなければ絶対に厄介な事になると真希の本能が告げていた。
しばらくがむしゃらに走り、そろそろ我が家が近くなった所で真希は一度背後を確認しておく事にした。振り返った先には雨に打たれる街並みがあるだけで、あの怪しい人物の影は無い。
「よし、撒いた」
小さくガッツポーズ。心の中で祖父に感謝を告げる。
一息ついてから彼女は再び走り出し、すぐに自分の家に到着。勢いよく我が家の玄関のドアを開けた。
「ただいまー。お母さんタオルちょうだい。あとすぐシャワー浴びるから」
ずぶ濡れのまま上がるわけにはいかないため、真希は玄関先で母親を呼ぶ。
「あらあら、真希ちゃん傘はどうしたの?」
真希の呼びかけに応じ、一人の女性がタオルと桶を持って玄関へやってきた。
高校生の娘を持つにしては、見た目が驚くほど若い。現在四十を越えたところだが、最低でも三十代前半、ともすれば二十代後半と言っても通じてしまいそうな容姿をしている。
だが、その雰囲気は熟練した母のものだ。その名を烏丸美春という。
「二十パーセントだから持ってかなかったの。お風呂場空いてる?」
「まあまあ、二十パーセントでも折りたたみくらいは持って行くようにしなさいな。空いてるから、雨を落としてきなさい」
さとすように顔を近づける美春。真希とは違い、背中まで長く伸ばしたストレートの黒髪がわずかに揺れた。
背格好は真希と同じか少し低い程度。しかし、身体の発達具合は母娘でかなりの差があった。主に胸囲という形で。
「そうする。けど、今日の雨じゃ折りたたみなんかあってもなくても同じだと思うけどね」
「それもそうね。今日はこんなに豪雨になるって言ってなかったのだけれど」
美春は左手を頬に当て、右手で左肘を押さえつつ軽く首をかしげる、いわゆるおばさんポーズで家の中に届く雨音に耳を澄ませている。
「天気予報なんてアテにならないよ。その事が身に染みて分かったわ」
乱雑に雨を拭ったタオルを美春に渡し、ずぶ濡れの制服を桶に放り込むと、真希は下着姿で風呂場へ向かった。
脱衣場でその下着も外して洗濯機に放り込み、風呂場に飛び込んで熱いシャワーを浴びる。
雨で冷えた身体にお湯の熱が伝わるのが心地良い。ついでに先にあった不可解な出来事の記憶も雨と一緒に流れてしまえと思う。
ふと、風呂場に呼び鈴の音が聞こえて来た。こんな大雨の日に訪問者とは珍しい。宅配便の予定はないので、おそらくセールスマンの類だろうと真希は当たりを付けた。
美春はセールスマンのあしらい方が上手い。頂く物を頂いたら、さっさと追い返すはずだ。
そんな事を考えながらシャワーを終え、真希はバスタオル一枚を身体に巻いて台所へ向かった。
熱いシャワーの後は冷たい飲み物と相場は決まっている。ちょっぴり鼻歌交じりに彼女が台所へ入ると、
「おう。邪魔しとるぞ」
台所と一緒になっている居間の椅子に、まさかの人物が座っていた。
不可思議な白装束に黒いお面をつけた、ついさっき撒いたはずのあの不審人物が堂々とそこに存在している。
「どうした? 儂の顔に何か付いておるか?」
言葉を失って口をパクパクさせている真希の方を向いて、お面の男は首をひねった。お面のせいで全く表情が見えないが、真希は何となく片眉を跳ね上げている顔を想像する。
「あ、あんた、何でここに……」
顔を引きつらせながらやっとの思いで言葉を絞り出した真希の反応を見て、
「儂の目的地は、元々この家じゃったからな」
お面の男は少し笑ったような声を出した。
「……………………はあ?」
相手の言った事に、真希はたっぷり間を空けた後であんぐりと口を開けてしまった。
つまりこの不審人物は元々真希の家に行く途中で、たまたま外で彼女に会ったが逃げられたので予定通りここへ来て、今当たり前のようにそこに座っているという事になる。
順を追ってそう理解した真希は、フッと怪しく笑って、
「お母さーん! 変なのが家に上がってるから警察呼んで!」
「なっ!? ちょ、待てえ!」
真希の大声に慌てたのはお面の男だ。即座に椅子から立ち上がり、素早い動作で真希に近付いて来る。
「きゃっ」
長身の身体に一瞬で詰め寄られた真希は、驚きのあまり反射的に手を振り上げた。しかし、その手はひょいとお面の男に掴まれてしまう。続けて反対の手も振り上げるが、やはり相手に掴まれてしまった。
結果、彼女はちょうど万歳をしているような格好で身動きを封じられるかたちになった。
「落ち着かんかい。何もせん」
「十分してるじゃない! 放しなさいよこのヘンタイ!」
掴まれた手を振りほどこうとして真希が身体をよじる。しかし、がっちりと掴まれた手はびくともしない。
「おぬ、誰が変態じゃ!」
「あんたしかいないでしょうが! 変な格好で変なお面かぶって、それで何処がヘンタイじゃないってのよ!?」
「これは鴉天狗の正装じゃ! お面は……わけあって外すことは出来ん」
なぜか最後の言葉は若干弱々しくなった。しかし、今の真希にはそんな微妙な変化は分からない。
「何でもいいからとっとと放しなさいよこのヘンタイ!」
「この、また儂を変態などと……。ちっとはこっちの話を聞け言うとるじゃろうが!」
こういった手合いの言い合いは、双方がヒートアップしてしまうときっかけがなければ収まらない。売り言葉に買い言葉とは言ったものである。目的や論点がずれ、最終的には互いを非難する言葉が飛び交うだけだ。
だが、幸いにも今回はそこまで発展せずに収まる事になる。何故なら真希はバスタオル一枚巻いただけの格好で、今現在は両手を掴まれて万歳状態。そんな状況で激しく動き回ろうものなら――
「あ……」
「お?」
するりと、何かが肌を滑る感覚がして真希は我に返った。そうしてゆっくりと下を向く。身体に巻いていたバスタオルが足元に落ちていた。つまりは――
「むう……」
お面の男が一糸纏わぬ姿の真希を見て、主に胸を見て低くうなった。両手を掴まれていてとっさに隠す事の出来なかった真希の顔が、見る見る真っ赤に染まっていく。
「むう、じゃないわよこのドヘンタイがっ!!」
「うごっ!」
やや屈んだ姿勢になっていたお面の男の顎に、真希の膝蹴りが炸裂した。その衝撃で掴まれていた両手が解放される。
真希はすぐさまバスタオルを拾い上げて巻き直し、キッと相手を睨み付けた。
まともに顎を蹴り抜かれたお面の男は顎を押さえながら床をごろごろ転がって悶絶している。真希はそれを冷ややかに見つめ、止めとばかりにがら空きのゴールデンボールをサッカーキックした。
「ぬおあっ!!」
効果は抜群だった。顎の痛みを忘れたかの様に、全身を震わせながら急所を押さえて縮こまっている。いい気味だった。
「あらあら、真希ちゃんどうしたの?」
今頃になってようやく美春が現れる。そして真希を見て、次に床にのた打ち回るお面の男を見て、なぜか突然その頬をわずかばかり朱に染めた。
「やだ、まだお昼よ? そういう事はもっと日が落ちてから……」
美春が激しく何かを勘違いしている事は十分に理解出来た。だがそんな事よりも真希にとって不思議なのは、美春が床に転がる不審者を見ても何一つ驚いていないという事だった。
「お母さん。この野郎を見て何とも思わないの?」
「まあ。野郎だなんて失礼よ。大事なお客様なんだから」
「……お客?」
真希が怪訝な顔をする。昨今の客は変な格好で人様の家に上がり込んだ挙句、女子の裸体を見てうなるのが一般的なのだろうか。
「コホン。ちょうどいいわ。小太郎さんの事で話しがあるから、早く着替えてらっしゃい」
小さく咳払いを挟み、美春が真希に言い付けて来る。真希としても着替えないわけには行かないので、未だにプルプル震えているお面の変質者をちらりと睨み付け、溜息を吐きながら二階の自分の部屋に向かった。
ろくでもない事が起きそうだと、そんな確信めいたものを感じながら。
◆
「――という事で、こちらの小太郎さんが真希ちゃんの婚約者候補って事になるのよ」
「ちょっと待ってまったく話が見えないんだけど!?」
真希が着替えて居間に戻ると、お面の変質者――小太郎は何事も無かったかのように元の椅子に座り、その対面には美春がこれもまた普段通りにニコニコしながら座って待っていた。
真希は促されるままに美春の隣に座り、そして放たれた第一声があれである。
「あら? もう話が済んでるから、あんな事をしていたんじゃないの?」
真希としてはさっきの光景のどこにそんな要素があったのかは分からないが、美晴はまたもほんのり頬を染めている。
「お母さんが何を勘違いしてるのか知らないけど、さっきのは事故よ。そしてこいつはヘンタイよ!」
正面に座る小太郎に指を突き付け、美春に力論する真希。その様子をどう思ったのか、指を突き付けられた小太郎が一つ溜息を吐き出した。
「あー、もうええわ。訂正するのもめんどいしのう。まあ今日は顔見に来ただけじゃけえ、さっさとお暇させてもらおうかのう」
すくっと椅子から立ち上がり、美春に一礼する小太郎。真希は特に何の反論もなかった事に拍子抜けしながらも、相手が帰ると言うのでそれ以上は何も言わなかった。
居間を出て行く小太郎に続いて美春も見送りのために出て行く。真希はそのまま残り、玄関先での会話に耳を澄ませた。
「母上殿。騒がしくして悪かったのう」
「いいえ、お気になさらず。あの子には後で説明しておきますから、また後日改めていらして下さい。そうそう、お父様によろしくお伝え下さいね」
「おう。伝えときます。ほんじゃ、これで」
玄関のドアが開く音と、少しだけ大きくなる雨の音。次いで何かが空気を打つ音が聞こえて、最後にドアの閉まる音が続いた。
そうしてすぐに何事もなかったかのように居間に戻ってきた美春を見つめ、真希は疑問を口にする。
「で、お母さん。なんかずいぶんと親しげだったけど、どういう事?」
美春は真希の隣には座らず、対面の、先ほどまで小太郎の座っていた椅子に腰掛けた。そしていつものんびりした口調で、
「そうねぇ。簡単に言ってしまえば、うちの――あ、烏丸の家ね。鴉天狗の血が混じった家系なのよ」
そんな事をのたまった。
「…………はい?」
一瞬「ふーん」と流しかけて、その余りの不自然な言葉に真希の頭が緊急停止を促した。そんな彼女の驚きを気に留めず、美春はどんどん話しを進める。
「それでね、最近開発とかで天狗さんたち妖怪の住む場所がなくなってきたから、これはもう人間に混じって暮らすしかないって事になったらしいのよ。だから方々の妖怪の血が入った家を足がかりにして共存の道を模索しているんですって」
「いやあの、え? 話がまるで見えないんだけど。烏丸の家に妖怪の血?」
真希の頭はかつてないほどに混乱していた。余りにも淡々と普段通りに美春が語るので、心の準備というか身構える体勢が作れなかったのだ。
「そうよ。えっと、たしか明治時代の初期だったかしら? 私たちのご先祖様と鴉天狗の間に子どもが生まれて、その生まれた子どもの血を私もあなたも受け継いでいるというわけ」
「ちょ、ちょっとお母さん。さっきから妖怪妖怪言ってるけど、妖怪なんて実際にいるはずないじゃない」
わずかに混乱から立ち直った真希は、話の肝にして最も気になっている事を口にした。
この科学社会において妖怪という非現実的なものが実在するはずがない。その考えに基づく発言だったが、これに対する美春の回答は真希をさらなる驚愕に叩き込んだ。
「あら、いるわよ。だって会った事があるもの」
「はあっ!?」
またも飛び出す爆弾発言。事ここに至って、真希はある可能性を導き出した。
昨今、怪しい宗教団体が世間を騒がせる事件がいくつかあったが、美春のこのおかしな言動もそれらに何か関係しているのではないかという可能性だ。
セールスマン相手に無敗であっても、宗教関係は怖いし分からない。もし仮にそうであればここは下手に否定してもしょうがない。一先ずは話を合わせて、さらに詳しく聞き出すのが上策だった。
「ね、ねえ。それっていつ、どこで?」
表面的には何とか平静を装って、真希は美春に先を促す。しかしながら、この努力は何の意味も持たなかった。
「別の方なら、あなたも会ったことあるわよ? 正体を明かしてもらってはいないでしょうけど」
「なぬうっ!?」
美春が止めの一言を放つ。驚いたどころではない。勢い余って真希はテーブルに両手を叩きつけてしまい、その痛さに涙目になった。
「私の妹の彩夏、去年の冬に結婚したでしょう?」
覚えている。真希の叔母であるその人は美春とは十以上歳の離れた姉妹だが、何度か会った事があった。
結婚は出来ちゃった婚らしいが、ちゃんと式にも招待されている。綺麗な衣装に身を包んだ叔母は眩しいくらい輝いて見え、憧れを抱いたほどだ。
その時の光景を思い出し、痛みから逃避する意味でも若干上を見ながらついウットリとする真希を、美春の言葉が現実に引き戻した。
「そのお相手が、さっきいらした小太郎さんの従兄弟よ」
時が、止まった。
ギギギと錆びた駆動音が聞こえてきそうな動作で、真希は美春の目を見る。冗談を言っているような目ではなかった。
「う、嘘おおおっ!!」
「嘘じゃないわよ。ちょっと待ってなさい。確か証拠になる物があったはずだから」
先ほどから驚愕に打ちのめされっぱなしの真希を残して、美春は席を立ってどこかへ向かった。そうして五分ほど経ってから一枚のはがきを手に戻って来る。
「ほらこれ。出産報告のはがき」
差し出されたはがきをひったくるようにして受け取り、印刷された写真を見る。まだ若い夫婦が晴れやかな笑顔で映っていた。叔母の腕には白い毛布に包まれた赤ん坊。そして――
「なに……これ。ありえない……」
隣に立つ叔母の夫を見て、真希は開いた口が塞がらなくなった。彼の顔や服装におかしなところはない。式で見た時も思ったが、ちょっといいなと思えるかっこいい人だった。
だが、その写真には式で見た時には無かった物が付加されている。
それは彼の背後から見えている大きな鳥の翼だ。カラスのような漆黒の翼が、隣に立つ叔母をも包み込む様にして広がっていた。
「ご、合成じゃない?」
わずかな望みをかけての言葉。しかし、
「わざわざそんな事をする人はいないわよ」
正論で切って捨てられる。それでも、真希はまだ信じる事が出来ない。
「いやだって……」
「もう。いい加減認めなさい」
「うぐ……」
様々な事実と心の叫びがぐるぐると混ざり合って、真希の頭の中がどんどん混沌としていく。
「あ、そうそう。今日話した事は誰にも言っちゃ駄目よ。他の人に知られたら害はあっても得はないから。はがき? これは普通郵便じゃなくて直接頂いたから大丈夫なの。それと、お父さんはもちろん知ってるわよ。だって、小太郎さんのお父様とは飲み友達なくらいだから」
そんな美春の言葉が決め手になったのかは分からない。だが、理解の限界をとうに超えていた真希の脳は自身の守るために一つの指令を出した。
「うーん……」
「わっ! 真希ちゃん!?」
処理能力がオーバーヒートした真希の脳は、とりあえず意識を手放してその場をやり過ごす事を決定していた。