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四月三日 漆

第一章

 ちょっと待てよ彰子!? そのネタは無いだろう、それは言っちゃいけない一言だ!!

 俺は彰子ちゃんの額を指先で弾いて新幹線を降りる。

 「痛いじゃないですか、幼児虐待ですよ」

 お前は少女であっても幼女じゃ無い、何よりお前ほどの身体能力がある奴に虐待なんてありえないだろう。

 「お互いが仲良ければ虐待なんて殆ど無いぞ」

 「そんな!! もう私との関係をそこまで考えてくれてるなんて!? やっぱり私慧さんに嫁ぎます!!」

 ふざけんなくそガキ、そんなことを公共の場で、しかもそれほどの大声で言うんじゃない!!

 「お前……一応俺の妹ってことにしてるんだからそういう発言は控えてくれよ……」

 心底突かれきった表情の俺を哀れに思ったのか不憫に感じたのか知らないが、隣で丙ちゃんが俺が渡した水入りのペットボトルを差し出してくれる。

 「飲みますか?」

 一度あげたものを渡されるってのも微妙な感覚だ、しかしここは素直に貰っておこう。なぜならツッコミのせいで俺の喉は渇ききっているから。

 あれ? 俺ってもうツッコミはしないとか決めたはずなんだけどなぁ。

 まぁ深く考えても気にすることは無いだろう。目を背ければ良いだけの話だ。

 「ありがとう、一口貰っていい?」

 「どうぞ」

 可憐に笑っていう丙ちゃんは俺の隣にいる彰子ちゃんとは全く違うな、この子も少しおしとやかになった方がいい。

 「あー!! お兄ちゃんがあたしの友達の小学六年生に、小学六年生に飲みかけの水を貰ってニヤニヤしながら飲もうとしてるー!! 高校一年生のお兄ちゃんが!!」

 なんで小学六年生を強調するんだよ!! だいたいそんな言い方をすれば俺は完全にロリコン扱いされるだろうが、少しは回りを見やがれくそガキ!!

 「いい加減にしろ彰子!! 妹だからってなんでも許されると思うなよ!!」

 「キャー、シスコンに襲われそー!!」

 きゃっきゃと笑いながら言葉を紡ぐコイツに異常な殺意が沸いて来た。

 どうしよう、本気でげんこつでもくれてやれば落ち着くかな。

 「落ち着いて下さい慧さん!!」

 後ろから丙ちゃんがガバリと俺の背中に抱き着いてきた、と言うより俺の右手を羽交い締めにしている。

 「なにやってんの丙?」

 「慧さんが本気で攻撃しようとしている構えを止めているんです!!」

 見れば俺の右手は手刀を腰に添えて今すぐにでも発射しようとしている体勢だ、なるほど。これは本気の攻撃準備だな。

 「ごめんよ迷惑かけて、落ち着いたから離して」

 渋々ながら降りた丙ちゃんの頭を撫で回したら彼女はキリッと表情を引き締める。俺何か気に障ることした?

 「そうじゃありません、彰子ちゃんに言いたいことがあるんです」

 言いたいこと? 何だろうか。

 「彰子ちゃん!! いい加減慧さんに迷惑をかけるのは止めて、一回口を閉じて!!」

 丙の目には明確な怒りが現れて眉も釣り上がっている、この子は……まさか俺のために怒っくれているのか? だとしたら筋違いだ、俺は確かに怒っているけど本気の怒りは抱いていない。

 「まぁまぁ、落ち着けよ丙」

 「これが落ち着いて居られるわけ無いじゃないですか!!」

 怒りと驚愕の割合が八対二程度だと思いたい、中途半端な感情の渦が湧いているのだろう。

続き

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