四月三日 陸
第一章
そういうと彰子ちゃんは花が咲いたように笑った。
「それで良いです!! ありがとう、慧さん!!」
あぁこのくらいの歳の女の子ってここまで素直だったっけ、とんでもなく可愛いなこの子。犯罪に走りそうだ。
嘘だけど。
「じゃあ今日から慧さんの家にご厄介になるんでよろしくお願いしますね、慧さん」
ピタリと、術式構築のために忙しく動いていた俺の手が完全に止まった。
家にご厄介って……なにを言っているんだこの女の子は???
自分の家があるんだからそこに住んで居るはずだろうが、そしてまだ助手にするって決めたわけじゃ無いから手放しで喜んでもらうと困る。
「なぁ彰子、俺は別に助手にするって決めたわけじゃ無いんだぞ。なのに……えーと、俺の家に厄介になるって……うーん、説明してくれ」
「今日の依頼ってのが終わればわかりますから、そんな身持ちを硬くしないでも」
日本語の使い方が間違っているぞ。
「お前なぁ……相手の都合ってのもあるんだから少し考えろよ、だいたい身持ちを硬くするって結婚して将来を安定させろって意味だぞ」
「そんな!! やっぱり慧さん私のことを……だけどいきなりって言うのはちょっと躊躇しますよ」
この野郎マジで説教食らわしてやりてぇ、どうしてこの状況下でお前を口説くんだよありえないだろうが。
「少し真面目に聞きなさい……いや、いい。丙が興味津々な表情でこっち向いてるから俺の家に着いてからだ」
その言葉に顔を真っ赤にしながらもこっちをガン見している丙ちゃんは両手で目の部分を隠す。
「あの、私見てませんから続きをどうぞ」
とかいいながら指の隙間からチラ見しているのはどうしてだよ。 動かしていた手を少し止めて術式の調整段階に入る、ここまで来ればあとは余裕だろう。
「丙、じゃあこの札の両端にほんの少しで良いから力を流してくれ」
一瞬にして雰囲気を変えた場の空気を感じ取ってくれたのか丙ちゃんは札の両端を掴んでほんの少し力を流す。
なるほど、この質は『人間』のものじゃない、あながち嘘というわけでは無いのだろう。
しかしこれはこれで困ったものだ、このままコイツを放置するわけにも行かないし……集会場に連れていくのも面倒臭いし。
一枚の札が仄かな光を出しながら小刻みに振動している、恐らく目的の者を見つけたのだろう。
「次の駅で降りる、丙は……どうするんだ?」
「私は……」
がらんとした車両の中で丙静寂はぽつりと呟く。
「行きたい……です」
見れば指先は小刻みに震えていて絞り出した声も涙声と半々程度だ。
その一言を搾り出すのにどれだけの葛藤をしたのかは知らないが、それでも何かしらの重い何かを抱えてその言葉を出したのだろう。
「じゃあ降りよう、これから面倒臭い仕事だ。怪我するなよ二人とも」
「大丈夫だ、問題無い」
「が、がんばります」
続き




