四月三日 伍
第一章
「さて、相手の思惑もわかったし俺達も動きますか」
「動くってどうするんですか? まさか誰かをもう一度憑けさせるんじゃないですよね?」
流石に俺でもそんなことはしない、ただの一般人にそんなことをすれば間違いなく死ぬからな、まだ人殺しにはなりたくないよ。
「なんてことはない、探知用の術式を展開するだけだよ」
そこで俺はちらりと横目で丙ちゃんを見ると、言葉を継いだ。
「彼女の力を利用してね」
「どうするつもりですか?」
丙ちゃんが少し怯えたように体を震わせながら質問して来る。そこまでビビるようなことはない。
「大丈夫だよ、君は俺の構成する術式にほんの少し力を流してくれるだけでいい」
そういって即座に奏へ電話をかけた。
三コールほどすると奏は電話に出てくれる。しかしどうしてか声がやけにか細いな。
「あぁ調べて欲しいことがあるんだ、依頼主について」
『どこらへんを重点的に調べれば良いの?』
「そうだな、被害状況と酷似した減少を調べて欲しい」
すると隣に座っている彰子ちゃんが服の袖を引っ張って来た。
「誰と電話してるんですか?」
携帯に手を添えて彰子ちゃんを少し黙らせる。
「少し静かにしててくれ、大事な話をしているから」
黙りはしたものの彰子ちゃんは俺の袖を掴んだままだ。
「とにかく頼むぞ奏、下手すれば料金は増すかもしれない」
そういって即座に電話を切ると彰子ちゃんに顔を向ける。
「どうした? そんなに携帯が気になるの?」
「そうじゃありません……あの厚かましいこと言いますけど良いですか?」
頭の上に疑問符を乗っけた俺は無言で話の続きを促す。
彰子ちゃんは少し躊躇したが、やがて決心したかのように顔を上げる。
「私を……慧さんの助手にしてもらえませんか」
一秒、二秒、三秒を数えたとき、俺の口はパカリと開いていた。
なにを言ってるんだこの子は、助手って……いらねぇよ別に。
とはっきりと言いたかったが真剣そのものな表情のこの子を見ているとそんな邪険に扱うのも悪い気がしてきた。
「えーっと……どうしてそういうことになるの?」
とりあえず聞いておこう。
「それは……私まだまだ未熟者だし、親にも頼れないし周りに居る人達は一般人ばかりだし……」
「それから?」
さらに促すと彰子ちゃんは涙声になりかけて話を続ける。
「私……家に居たく無いんです。はっきりと拒絶されてるって実感しちゃうから」
なるほど、今までのはすべて建前でこれが本音ってことか。
ありがちだけど、だからこそこの問題の解決案は本当に難しい。
しかし……この問題はどうしようか、色々話を聞いて、それから結論を出したって文句は言わないはずだ。
調度良いときに依頼も入っていることだし、これを試験がわりにしても良いだろう。
「じゃあまぁ……とりあえずだけど今から依頼をこなしに行くからそれに付き合って、それで決める」
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