四月三日 四
第一章
「いいか、俺は君が術を使えない前提で話を進める」
左から二人、右から三人。
「幸い人数はそうでも無いし深く憑かれた訳でも無い」
左の二人を彰子ちゃんが昏倒させて、右の三人を俺が行動不能にする。
「二分間時間を稼いでくれればこの自体を収束させられる、俺の可能性に賭けてみない?」
彰子ちゃんは少し考えたが引き締まった表情で頷いた。
「二分ですね、楽勝です」
頼れるなぁ
俺は一歩後ろに下がって二枚の長方形の紙を取り出す。
右手に赤い紙、左手に黒い紙を一度だけ合わせてか完全に引き離す。
「南を護りしは朱き朱雀、北を護りしは黒き玄武。
その灼熱たり浄化たる焔をもって燃え上がらし、その清流たる水をもって洗い流す」
これで一分経過。
俺が詠唱をしている目の前で彰子ちゃんはかなり頑張ってくれている、おかげで残りの人数は十二人だ。
座席に置いてあった細長い包みを持ち上げる、やっぱり少し重いな……なまりすぎだろ俺の体。
ひゅるりと紐を解き一本の日本刀を出した。
「さて、行きますか!!」
前から彰子ちゃんの軽やかな声が聞こえる。
「準備は!?」
「万端!!」
俺の術の邪魔にならないように彰子ちゃんは一気に後ろへ跳んだ。
刀を一気に鞘走りさせ黒光りする刀身が表れる。
二枚の札と共に両手で柄を思い切り握りしめた。
車両に乗っている全員が俺達に向かってきたが、刀身を一度指で叩き音を鳴らすと、そいつらの動きは完全に止まった。
その隙に二枚の札を俺の体を始点に三角形を描くようにぶん投げる。
そこからはもう簡単、憑かれた奴らから憑いたモノを一気に引きはがした。
凄まじいスピードで走る新幹線の内部で、俺達はこんな話し合いをしていた。
内容は勿論、なぜ急襲されたのかだ。
「原因はなんですかね、慧さんですか?」
疑問符の後に俺の名前だすって変じゃない? とはツッコまなかった、事実そうである可能性は十分在りうるのだから。
しかし今回は違うだろう、乗務員の言葉では俺と彰子ちゃんがおまけのように聞こえた。
「そういえばまだ名前聞いてなかったよね、俺の名前は海鳴慧て言うんだけど……君の名前も教えてくれない?」
うわぁ……と表現すべき表情で彰子ちゃんはドン引きしたがしかし安心してほしい。
俺自身もの凄く引きまくったからな。
「えと……丙静寂です……襲われた原因は恐らく私です」
また珍しい苗字だな、こういった事件の関係者は皆名前が変だ。
勿論俺を含めて。
丙ちゃんは意を決した表情で俺達の顔を見ながら告白した。
要約するとこうらしい。
一つ、自分は人間ではない
二つ、襲われる理由は自分の血液
三つ、手を出さなかった理由は、加減が出来ず殺してしまいそうだったから。
続き




