四月三日 弐
第一章
彰子ちゃん(仮)と俺は向かい合って笑っていた。そこでようやく目を覚ました少女はうーんと唸った。
「この子の名前はアドリブ?」
「完全なアドリブです」
末恐ろしい少女だよ、全く。
「自己紹介が遅れたけど……俺は海鳴慧、高校一年生だ」
すると彰子ちゃん(仮)も名前を言った。
「私の名前と酷似してますね、いや本当に」
なにその前口上、ハードルがぐんと上がったよ。
「海凪彰子です、よくわかりましたねあのサインだけで」
まぁかなり難しいことには変わりないけどね。
「難しかったよ、母音の音とポニーテールを止めてるゴムの飾りだけで推理するのは」
彰子ちゃんの髪を止めてるゴムの飾りは二つの紅葉と桃色の花。正直に言うと春か秋か大分悩んでいたが母音を頼って秋にした。
正解でよかったよ。
「うん……」
眠っていた少女は完全に目を覚まし、俺達を見た。
「あぁ……また倒れたのか……えーと助けてくれてありがとうございます。おかげで気分的に死ぬところでした」
表現が言い得て妙だ……いや、まぁ言いたいことはわかったけど
「本当に大丈夫か? しんどいならもう少し眠ってて良いよ」
通路側に居る少女は首を横に振りながらやんわりと拒絶した。
「大丈夫です、ある程度軽減したので」
「お礼を言うならこの子に言いな、君の吐き気を抑えてるのはこの子が言ってくれたからなんだ」
彰子ちゃんを親指で指しながら言うと当の本人は少し照れた様子で言い返す。
「別に言いからね気にしなくて、当然の事をしてるだけだから」
あぁ、その言い分は眩しいよ……相当心が変になってるな、俺は
この二人を見比べて見るとなんだか彰子ちゃんの方が大人っぽく見えるな、実際のところどうだろう?
少し興味があったがすぐにきにいならなくなったのでスルーしておこう。
「二人ともありがとうございました。すいませんデートのお邪魔しちゃって」
うん? 今なんて言ったこの少女
「だけど……言いにくいんですけど……貴方って年下趣味なんですか?」
なるほど、この子は俺をロリコンとして見てるってことかな? 説教してやろうかこのガキ。
思い切り怒鳴ってやろうとも思ったが新幹線のなかという事実を思いだしそこら辺は自重、変わりにこめかみ辺りをピクピクと動かしつつ注意をしておく。
「いいかい、俺とこの子はそういった関係じゃなくて今この車両で初対面しただけなんだよ、だから俺がロリコンという訳ではない」
「ヒドイ!!」
隣に居た彰子ちゃんが唐突に叫んで目に涙を溜めながら訴えはじめる。
「あの時言ってくれた言葉は嘘だったの!? 一生共に歩んでいこうって言ってくれたじゃない!!」
言ってません、どうしようこの状況。周囲の視線が痛すぎる。
「えーっと……彰子ちゃん? 何を言ってるのかよくわからないなぁ」
と逃げたらまずいだろうならばこう言っておくか。
「俺はもう二度と君に傾くことはない」
「バカッ!!」
殴られたよ、がっつりグーで。
続く




