四月三日 拾参
続き
どうしてそう思うのだろう? いや実際そうなのだけど。
「それがどうかした?」
「真夜中には背後を気にした方がいいですよ、長生きしたければね」
怖いよ……君がそういうと本当に気をつけた方がいいって気分になるからやめてほしい。
なんて思っていたら少し顔を赤くした管羅さんがテーブルに戻ってきた。心なしかその表情は落胆したようにも見える。
「ごめんなさい、友達から電話が来ちゃって」
別に聞いてません。
「そうですか、もしかしてこれから遊びに行く約束でもしていたのですか? だとしたら私達は取り合えず明日にしようと思うのですが」
「いえ、大丈夫です。そうだ!! 貴方達も一緒に遊びませんか? カラオケとかする予定なんですけど」
この女ぁふざけてんのか? なんて少しだけ本音が覗きそうになってしまったけれど必死に押さえ込む。
営業用のスマイルを顔と心に貼り付けてその申し出を断る。俺の経験則から言って仕掛けて来るのはそろそろだろうな。
「そうですか……それは残念ですね……では貴方達で遊ぶとしましょうか」
ニッコリと綺麗な笑みを浮かべながら管羅さんは指をぱちんと鳴らした。
突如周囲の空気は一変してどこに隠れていたのか質問したくなるような数の女子大生(見た目だけ)が現れる。
「本当はもう少し普通の会話を楽しみたかったんですけどね、貴方って思った以上に私の好みにドストライクなんですよ」
「なぁ丙、君が言っていたことはこういうことなの?」
「はい、どうせ貴方のことですから今までもこうやって解決したんじゃないかと思って」
ふむふむ……きみの思っている通りの方法で解決していました、お見通しにもほどがありますよ。
「慧さん、私はもう動いて良いんですよね?」
自分で縛っていて何だけどよくもまあこれまで動かなかったと言いたいくらいだよ。
俺は勢いよく立ち上がると左手に数枚の札を握る。
「あまり暴れすぎるなよ彰子、コイツラには聞くべきことがいくつもあるんだ」
「わかってまっす!!」
少し変な掛け声と共に彰子ちゃんは俺達の背中側の人数を相手取る。単純な力わざなら勝てるだろうけどそんなレベルじゃないだろう、あいつのバックが本当に妖狐だったら。
「ふふっ、強いですねあの子。さしずめあの子は貴方達の中で前線メンバーって認識で良いんですか?」
「そんなことをあんたに言う必要はないさ、否定も肯定もしない」
管羅は少し顔を歪ませて背後から火を出した。どうして火を出せたのか、それは多分あいつが管狐の部類だからだろう。
あれは立派な狐火だ、この室内でそんなことをすれば外にも中にも甚大な被害が出る。しかしきになっていたのはこの店内に誰ひとりとして人間がいないことだ。
人間は居ない、しかし俺達が座っていた二つ前のテーブルには若干湯気が出ているコーヒーカップ、つまり……うん、想像したくない。
「一つ確認するぞ、あそこにいたと思しき人間はどうしたんだ? まさか外に連れ出したとか平和的発言をするわけじゃ無いだろう」
続く