四月三日 拾弐
続き
「それでは、早速ですが仕事に入らせて貰いたいのですが……よろしいですか?」
そう言いつつも俺の足は既に近くの喫茶店に進んでいる。
勿論意図的にだけど。
「え? 私の自宅は車でまだ距離が掛かるのですけど……そんなすぐに祓えるもの何ですか? その……動物霊って」
彼女は周りを気にするようにボソリと言葉を紡いだが、俺は別に動物霊などと言った覚えはない。彼女の言動に気がついたのか彰子がこちらに視線を投げかけてくるがそれを黙殺して無言で喫茶店に入る。
慌てたようにかけてくるが、どうも演技っぽい。もしも演技でさっきの表情ができたのだとしたら……そんな奴は役者にでもなった方がいい。
俺がこの喫茶店を選んだのには二つの理由がある。その二つが同時に成り立つことは無いけどまぁとりあえずは言っておこう。
一つは単純に休みたかったから。俺だけではなく俺と一緒に来た二人も当然のように疲れているだろう、長距離移動だけならまだしも車両の中であんな戦闘を繰り広げたんだ。疲れていないはずはない。
もう一つの理由は……この依頼主が完全に俺を潰すために依頼を出したのだとしたら最も効率の良い罠を仕掛けられる場所だからだ。
勿論俺はそこまで名の通った陰陽師では無いからあまり知られていないが、俺の家計を知っている者はわんさか居る。こんな用心もしておいてしすぎってことは無いだろう。
取り合えずボックス席に俺と丙ちゃんが座って、その向かいに菅羅さんが座るという配置だ。
当然のことながら用心ということで彰子には立って話しを聞いてもらう、用心ついでにちょっとしたお仕置きも含まれているけど。
「妹さんは座らせなくて良いんですか?」
と管羅さんが質問してきたので俺は首を縦に動かして少しだけ話す。
「貴方に殴り掛かったことを少し反省してもらうためです、一人前になりたいって言う奴があんな行動を取ったんですから。これくらいはしないと」
「そう……なんですか、厳しいんですね」
少し引いたようにつぶやくがこれくらいしないと危険だってことはわかるでしょう? 意味ありげな笑みを浮かべながら管羅さんの顔を眺めていると、彼女は慌てたように失礼しますと言って携帯電話でどこかへ連絡を取り出した。
横から肘でツンツンと脇腹を突かれているが結構痒い、我慢していたのが辛いくらいだ。
「なんだい丙、今後それやったら軽く怒るよ?」
少し真剣に言うと傷ついたような表情で俺の目を見続けている。どうしたと言うのだろう? 対処するべきかどうか……。?」
どうしてそう思うのだろう? いや実際そうなのだけど。
「それがどうかした?」
「真夜中には背後を気にした方がいいですよ、長生きしたければね」
怖いよ……君がそういうと本当に気をつけた方がいいって気分になるからやめてほしい。
なんて思っていたら少し顔を赤くした管羅さんがテーブルに戻ってきた。心なしかその表情は落胆したようにも見える。
「ごめんなさい、友達から電話が来ちゃって」
別に聞いてません。
「そうですか、もしかしてこれから遊びに行く約束でもしていたのですか? だとしたら私達は取り合えず明日にしようと思うのですが」
「いえ、大丈夫です。そうだ!! 貴方達も一緒に遊びませんか? カラオケとかする予定なんですけど」
この女ぁふざけてんのか? なんて少しだけ本音が覗きそうになってしまったけれど必死に押さえ込む。
営業用のスマイルを顔と心に貼り付けてその申し出を断る。俺の経験則から言って仕掛けて来るのはそろそろだろうな。
「そうですか……それは残念ですね……では貴方達で遊ぶとしましょうか」
ニッコリと綺麗な笑みを浮かべながら管羅さんは指をぱちんと鳴らした。
突如周囲の空気は一変してどこに隠れていたのか質問したくなるような数の女子大生(見た目だけ)が現れる。
「毎回あんな言い方してるんですか
続く