四月三日 拾壱
続き
「しがみついてろ丙、一気に飛ばすぞ!!」
お姫様抱っこの状態で宣言通り今までとは比べ物にならないくらいの速度で駅を駆け抜ける、この時しっかりと切符を置いてきたのは後々面倒になるからだ。
走り続けるとようやく彰子の後ろ姿が見えて、次いで依頼主の姿も確認した。俺が放った鳥は無残にも三つに分解されていた。画用紙を千切り捨てたようにバラバラにされたわけではなく、魚を三枚におろした時のようにバラバラに分解されている。
「下がれ彰子!! そいつに近づくな!!」
俺の言葉は聞こえていたかもしれない。けれど、それでも、彰子は猪突猛進の勢いで構えを取りながら依頼主の女子大生へ向かってゆく。
『女子大生』その比喩はまぁ見た目だけで判断したわけではなく送られてきたプロフィールにそう書いてあったから使った表現であって俺は別に女子大生という響きに特に感情を動かすことは無い。何にもない!!
まぁ今のはただの余談だけど。
依頼の内容は憑き物落としだからどんな憑き物かと思っていたのだが……こんなの聴いていないぞ。
俺の目に映る彼女の背後には、九本の尾をもつ白銀の狐だった。
つまり金毛九尾狐かって言いたいけれど、見えている限りでは毛並みは銀。ランクがあるのかどうかとかは全く知らないけれどあれは俺だけの力で祓えるか非常に心配になってきたな畜生。
飛び出している彰子は勢いそのまま女子大生(仮)の顎に掌底を打ちこむ。
痛そうだけど食らった女子大生(仮)はケロッとした表情で彰子の右手を掴み、優しく振りほどいた。
「駄目でしょ知らない相手にいきなり喧嘩売っちゃ、貴方のお兄ちゃんもやめろって叫んでたじゃない」
優しい微笑みで、優しそうな視線で、優しそうな表情で、しかしその眼には光がない。張り付けたような表情もあそこまで行くと拍手したくなるほどだ。
彼女がこっちに歩いて来て俺に学生証を見せ、自己紹介を始めた。
「私は管羅彩花、依頼を引き受けてくれて本当にありがとう」
「いえ、お礼は依頼を完遂した時に言って貰いたいので」
俺はある程度警戒を解きつつもしっかりと探りを入れてみようとするが、その前にまずは彰子だ。
「彰子、コッチに来なさい」
口調が少し説教みたいになってしまうが事実俺は今から軽く説教をしようと思っているから問題無いだろう。
すごすごとコッチに歩み寄って来た彰子にこっそりと耳打ちし、丙ちゃんの傍に居るよう指示しておいた。
なにより警戒するべきはこの人がどんな行動をするかだ。いや、おそらくこの人も人間では無いだろう、人間にしては異常に獣臭い。
続く




