四月三日 玖
第一章
無機質な瞳なのに、眦から透明な雫が流れ落ちようとしている。というか既に目には涙が貯まって落ちそうだ。
「それは……覚悟の違いだよ」
「覚……悟?」
「そうだ、誰かが誰かを想うってのは想像以上に大変で、思っている異常に辛く厳しいものだから」
その時の俺は、どんな表情をしていたのだろうか。たかだか高校生がなにを言ってるんだと自分でも思う。
だけどこれは本心だから、彰子は多分……本気で俺のことを想っている。だったらその感情には真摯に対応しなければならないだろう、自分も同じ穴のむじなならなおさらだ。
「なぁ彰子、お前にその覚悟はあるか?」
ゆっくりと顔を上げた彰子は完全に涙を流してそれでも俺の視線から逃げるようなことはしない。
「私は……まだその覚悟を完璧に捉えきれてない、慧さんの言いたいことは何となくだけど伝わった」
ならば良いだろう、俺は丙ちゃんの力が流れ込んだ札を頼りに出所を探そうとしたが、当の本人たる丙ちゃんに止められて、彰子を見るように言われた。
くるりと後ろを向きたかったけど、振り向いたら俺は間違いなく彰子にとんでもないことを言うだろう。
だから振り向きたくない。
「だけど!! 多分私は貴方と居たい、貴方の隣に何時まででも居続けたい!! 私の全てを犠牲にしても貴方との時間があればそれで良い!! 他にはなにも望まない!!!!」
俺は前を向いたままで深いため息を吐いた、それと同時に一瞬で彰子との距離を詰めて彼女を強い力で抱きしめる。
俺の力なんて非力なものだけど、同い年の女の子一人支えられないようなひ弱な力だけど、誰かを護るためなら何者にも負けるつもりはない。
だからこそ彼女を助手にしよう、彼女の間違いを全て正そう、このままではいずれ破滅してしまうだろうから、独り立ちするまでは俺が隣で支えてあげよう。
「良いか彰子、君は間違っている。なにが間違っているかって、それはほぼ全てだよ」
抱かれた体勢のまま彰子は俺の背中に手を回して強く服を握りしめる。
「例え間違っていても、貴方の近くならそれで良い」
だから、それが間違っているんだって。
「俺は今ある全てを護りたい、どんなものでもいずれは手放す時が来るだろうけどもそれまではこの両手で護っていきたい」
それはお前自身のことも含まれている、まだ助手にする気はないけれどこの子なら俺を動かすことくらい余裕でやってのけるだろう。
「未だわかっていないようだからはっきり言っておこう、俺はお前ら二人を必ず護り、元居た場所へ必ず帰す」
なんてカッコイイことを言ってみたは良いけど、さてさてまずはこの問題を解決するほうが先決だろう。
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