1-4 読心
「やっぱり」
例の犯行予告文のコピーが印刷された一枚の紙を前に、結城神無は呟いた。
「やっぱりって、結城先輩は知っていたんですか?」
梅田深玖の言葉に神無は首を横に振った。
「魔法、というか占いの分類に入るけど、結果がさんざんだったの。だから嫌な事が起こるだろう、とは思っていた。だけどこれじゃあまるで」
その先の言葉が外に出ることはなく、神無の家は静かになった。
東条都靄はカップの紅茶を飲み干すと、立ち上がって言った。
「新聞部がいるんだ。酷い事にはならないだろ」
――4:読心
6月6日日曜日11時30分、東条都靄宅(東条家別荘)。
なぜか毎週恒例化してしまった東条都靄ファンクラブの会合が、ダイニングルームで開かれていた。
都靄は毎回膨れ上がる参加者に辟易しつつも、場所を提供しているだけなので気が楽だった。
どちらかといえば、毎回準備をする日荒川翆と叶鼎の二人が心配だ。
「都靄、話」
都靄がその声に振り返ると、頭一つ分小さい夢星宇宙がシャツの袖を掴んで立っていた。
「あぁ」
宇宙から話し掛けてくる事がほとんど無いため驚いた都靄は、シャツを掴まれたまま引き摺られるように別の部屋に移動した。
少年少女が一つの部屋に、というシチュエーションだが、その空気には緊張感だけが漂う。
「私、常都靄味方。超常能力研究所嫌悪、然、反発勢力殊更嫌悪」
相変わらず文面にしないと分かり難い話し方だったが――文面にしても分かり難いが――、都靄はそれに頷いた。
新聞部が『超常能力研究所(Extra-skill laboratory)』、通称『Esla』の内部団体であるという事実は一部の人間にとっては常識であり、四条である都靄にとっても当然知るところだった。
一方の反発勢力、正式名称は『人間的能力限界研究会』、は『エスラ』に対抗するための組織である。
都靄は尚も何か言いたそうな様子の宇宙に声をかけた。
「どうかしたか?」
宇宙が視線を都靄と交わらせ、その無表情の中に仄かな安心感を漂わせた。
「無」
「そうか。それなら、戻るか」
「了解」
一度だけ宇宙は部屋を振り返り、そして出ていく都靄を小走りに追い掛けた。
東条都靄ファンクラブ会長の城ヶ崎浜三日月子は、先日から噂に鳴り始めた事を都靄に聞いていた。
「つまり、二年前と同じ事件を起こそうとしている人物が学校内にいる、ということなのね」
都靄は一つ頷くと、手元のタマゴサンドイッチをかじる。
「ああ、多分な」
「そうなの」
都靄と三日月子はじっとはしゃぐクラスメイト達を眺める。
その中の一人が、そんな二人の様子を気にして近寄ってきた。
「なーに二人して黄昏てんのよ」
片手で食べ物が山のように盛られた皿を器用に持ち、杉目天は都靄を挟んで三日月子とは反対側に座った。
都靄が答えあぐねていると、突然三日月子が大きな声をあげた。
「な、何であなたはそこに座るんですか!」
「都靄の隣だからじゃん」
「そんなこと、私が許しません。それにまた貴女は都靄様の事を呼び捨てに。信じられません」
「別にいいよねー、都靄」
「あ……ああ」
左右を女子に挟まれて落ち着かない都靄は曖昧な返事をするとすぐに、食べることに集中することにした。
「いつもいつも貴女っていう人は。都靄様!」
「はいっ!?」
突然名前が出てきて、焼きそばを食べようとしている恰好のまま静止した都靄。
「なぜ貴方は無関心に食事をなさろうとしているのですか」
「いやでも天は」
横でカツサンドイッチを食べ始めた天に目線を移した都靄だったが、三日月子はそれを一蹴する。
「今は天さんの事は関係ありません。貴方の事を話しているのですよ、都靄様」
「は、はぁ」
「そもそも何ですか、このハーレムは。男一人に女は一人で十二分です。あなたがはっきりしないからこの様な状況に。それなのに――」
あんたが勝手に集めたんだろ、とは言えない都靄だった。