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1-3 魔法使い

「魔法の存在、か。それを証明するにはこの世界の文明レベルが低すぎるし、それに存在を証明したところで、大して意味が無いと思うよ?」


 梅田深玖は三年生の結城神無の言葉に耳を傾ける。


「そもそも深玖ちゃんは、魔法ってどんなものだと思う?」

「えっと、科学では出来ないような超自然的な現象を起こす事ですか?」

「残念。魔法と言っても自然の摂理の内側でしかないし、そのほとんどが科学で再現可能よ。それじゃあ『オトシモノ』はどうかな?」

「えっと……超能力?」

「うん、間違いではないよ、間違いでは、ね」



  ――3:魔法使い



 6月5日土曜日11時30分、結城神無宅居間。

 深玖は相談部の資料の中に神無の不思議な力、つまり魔法に関する記述があったので、それが事実かどうか確認するために来ていた。

 低めのテーブルを挟むように置かれた椅子に二人は座っている。


「魔法、見せてもらえませんか?」


 深玖がそう言うと、神無は立ち上がった。

 その目線は椅子に座った深玖と同じくらいの高さだ。


「どんな魔法がいいのかな?」

「こう、火の玉を掌の上に出す感じで願いします」

「分かった」


 神無が軽く目を閉じて小声で二言三言呟くと、その前に出した掌の上に火の玉が発生した。

 深玖は目を丸く見開いて茫然とする。


「まあ、これくらいは手品でもできるんだよ」


 火の玉を消して椅子に座りなおした神無はそう自嘲気味に呟くと、テーブルの上にあるオレンジジュースを一気に飲み干した。

 深玖にとっては小さい椅子でも、神無の足は床に着かずふらふらと揺れる。


「い、今のが魔法ですか?」


 目の前で何が起こったのかをやっと理解した深玖が聞いた。

 神無はそれに頷く。


「それで、他に聞きたいことはある?」

「い、いえ」

「そう。それじゃあ深玖ちゃん、これから何か予定あるの?」

「ありませんが」

「なら一緒に昼食食べましょう、ね」

「いいんですか?」


 申し訳ない気が一杯の深玖に、神無は無邪気に笑う。


「当たり前だよ。いつも一人だったから、二人で食べられて嬉しいの」





 チャーハンにラーメンにお好み焼きにスパゲティーに蕎麦に親子丼。

 一体その小さな体にどれだけの食べ物が入るのか、自分が作ることになったチャーハンだけを食べる深玖は不思議に思った。


「魔法は体力を使うから」


 そう言いながら小さな口で蕎麦をすすり、勢いよく飛んだ汁が頬につく。

 神無はそれを気にせず、椀に残った汁を一気に飲み干した。


「ごちそうさまでした。ありがとう、手伝わせちゃって」

「いえいえ、こちらこそごちそうさまでした」


 立ち上がった神無は器用に食器をまとめると、それを流しの中に置いて戻ってきた。

 そして深玖の側に来るとその顔をジーっと見つめる。


「な、何か顔に付いています?」


 そう聞いた深玖に対して神無は首を横に振ると、急に真剣な眼差しになって言った。


「深玖ちゃんにとって、これからの事は随分と残酷だと思う」

「え?」


 突然の話に訳が分からないといった顔の深玖を無視して神無は話し続ける。


「でも、世の中の善悪はそう簡単に決められなくてもいい。悩んで。それが深玖ちゃんの役目。深玖ちゃんにしか出来ない事だから。辛くなったら佐々木先輩の家に行くといいよ。絶対に助けてくれるから」

「は、はぁ、ありがとうございます」


 深玖は戸惑いつつも、アドバイスをもらったらしい事を理解して小さくお辞儀をした。

 神無はそこで普段通りの笑顔に戻ると、こう言いながら玄関に向かって歩き出した。


「それじゃあ深玖ちゃん、ちょっと待っててね。お客さんがそろそろ来る予定になってるから」

「はぃ」


 生返事をした深玖は神無を見送ると、さっき話された事を思い返す。

 これからの事って、これから残酷な事が起きるのだろうか。佐々木先輩はもう卒業した佐々木萌子先輩の事だと思うが、彼女と何の関係があるのだろう。迷うって、一体何に?

 そんな事を考えているうちに神無が背後に人を連れて戻ってきた。

 休日なのに学校の制服をなぜか着ているその男子は、先客がいたことに多少驚いた様子だ。


「紹介するね。こちら知ってると思うけど☆☆高校の生徒会長で東条家の長男の東条都靄君。でこっちが相談部の一年生、梅田深玖ちゃん。二人ともよろしくー」

「は、初めまして」

「こちらこそ。よろしく」


 深玖は突然の生徒会長の東条に驚き、都靄は先客がいたことに驚いていた。


「さて、それじゃあ三人で仲良く話をしましょうか」


 神無は明るくそう言うと、椅子に飛び乗るように座った。

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