1-2 生徒会長
「本日より生徒会長となりました東条都靄より、就任の挨拶です」
拍手と共に、袖から都靄が舞台上に現れる。
彼は体育館に集まった全校生徒を見回し、軽く一礼すると話し始めた。
「今日より一年間、☆☆高校生徒会会長を務めることとなった2年1組の東条都靄だ。昨年度は斉藤尊前生徒会長の下で副会長として様々なことに関わってきたが、その経験を活かしてこれから活動していきたいと思う。公約として掲げた5つ、つまり設備充実、予算方針の変更、服装規定の緩和、学食及び購買のメニューの充実、そして生徒の自立機関の設立だが――」
――2:生徒会長
6月1日火曜日15時45分、体育館下手袖。
「お疲れ様です、会長」
挨拶を終えて戻ってきた都靄をそう労ったのは、日荒川翆だ。
都靄はその言葉に気だるそうに返事をすると、パイプ椅子に座って項垂れた。
「何で俺はこんなことをやっているのだろう」
「学校何とか計画のため、ではありませんでしたか?」
翆は都靄の隣に座り直すと、じっと都靄の姿を見詰めた。
ここ最近は生徒会長になるために色々と頑張ってきていて、そして実際になれた今、その疲れがどっとでてきたのだろう。
そこで、ふと思いだしたことを告げる。
「会長、今朝のことは聞き及んでいらっしゃいますか?」
「今朝? 原稿を覚えるので手一杯だったよ」
「そうですか。でしたらお伝えいたします。新聞部より、協力してほしい事があるそうです。この後で来てほしい、と」
都靄は顔を上げ、真剣な眼差しで翆を見返した。
「それは、生徒会長として? それとも」
「両方のようです」
「分かった、行くよ。この後のことは他の生徒会役員に任せる。北石、任せた」
都靄は立ち上がると、副会長の北石白和に後を任せて体育館を後にした。
新聞部室に到着した都靄と翆は儀礼的にノックをしてから中に入った。
「失礼します」
「いらっしゃいです」
中はすでに二人が来ることが分かっていたかのように準備が整えられていた。
既に何度か来たことのある都靄たち二人は驚くことは無かったが、初めて来る時は何故と疑問に思う人が多い。
しかしそれはつまり全校集会に出ていなかったということであり、都靄は生徒会長として新聞部の人も全校集会には出ていてもらいたかったと思った。
勿論、今こうしてやって来たのが悪いのかもしれないが。
都靄と翆はパイプ椅子に腰掛け、対面に座った二人、部長の青梅慰夢と二年の蕨紅子と向かい合った。
「東条生徒会長、まずはこれを見てほしいです」
そう言って慰夢がテーブルの上に置いたのは、雑誌の文字を切り貼りして作られた文章だった。
「『おととしの再エン 我は執行ス』か。単刀直入に訊くが、これは誰からだ?」
都靄がそう言うと、慰夢はその白い髪を軽く揺らして答える。
「『彼女たち』です」
「そうか」
都靄は頷いて、そして翆を見た。
ここから先はメイドである翆には関係のない話だと判断したのだ。
翆はその視線に応え、無言のまま立ち上がると部屋を出ていった。
「それで、新聞部はこれにどう対処するつもりなんだ?」
都靄がそう聞くと、慰夢は首を五度ほど傾けながら微笑んで答えた。
「阻止しますです。その為に東条生徒会長を呼んだのです」
「そうか。それで?」
「これが☆☆高校関係者の『オトシモノ』所有者の一覧です。この四人と接触して、違和感が無いか確認してほしいです。『彼女たち』は私たち『Esla』に対抗するには、同じイレギュラーな存在でないといけないことを既に知っているです」
慰夢から渡された紙を見る。
そこには四人の名前と『オトシモノ』が書かれていた。
佐々木萌子『予知』、結城神無『魔法』、夢星宇宙『読心』、渡部耀『テレパス』。
都靄は違和感を感じ取り、そしてそれは『彼女たち』に協力しそうなのが消去法で一人しかいないからだとすぐに気付いた。
そのことが分かっていた慰夢は、更に続ける。
「できれば三人を東条の名の下に協力してもらえるように言ってもらいたいです。事はこの高校だけでは済まないのです」
新聞部長から言われた『東条の名の下に』の意味は非常に重く、都靄はこれが本命であるとすぐに分かった。
都靄は一つ唸る。
「話はする。だが協力については判断材料が少ないから、できない」
「それで充分です」
都靄は喋る気配のない紅子をチラと見てから立ち上がると、挨拶と共に部屋を出ていった。