彼女は本当に
日常が戻って来た。
不幸中の幸いか、特に深い傷もなかった僕は退院し、卒業式に間に合った。
エスペランザ王立学園、卒業式当日。
未来に希望を抱いた卒業生たちはみんな、晴れやかな表情を浮かべている。
「お! いたぞ! スターズの三人だ!」
「インタビューお願いします!」
そんななか、学園には多くの記者が押し寄せていた。
お目当てはみんな〝スターズ〟。
すでに名のしれている彼らは卒業後、国に大きな影響を及ぼしていくだろう。
「――悪女と呼ばれたフィリア・ヘイズについては、どう思われますか? 彼女の最期は、呪いによる報復だと言われておりますが……スターズの皆さんは、特に執拗な嫌がらせを受けていたとお聞きしました」
ひとしきりインタビューをした後、記者がフィリア様について三人に問いかける。
彼らはひとりずつ、丁寧にその質問に応じた。
「……彼女については、私も残念に思っています。ですが、学園で起こした数々の問題行動を考えれば、今回の件も……偶然とは言い切れないでしょう。才能ある者が多く集まる場所では、嫉妬や歪んだ感情が悲劇を招くこともある。彼女もまた、そのひとりだったのだと思います。どうか今はもう、負の感情に囚われず、自分に自信を持って眠ってほしいです」
アルト王子の次は、セレン様が口を開く。
「……フィリア様のことは、今でも胸が痛みます。しかし彼女は周囲を傷つける行動を重ねていました。最終的には、卒業制作を……わたくしたちだけならまだしも、あまりにも多くの人を巻き込みすぎたのです。彼女が救われなかったのは悲しいことですが……わたくしはせめて、彼女の魂が報われるよう祈ります」
そして最後に、サディアス様が。
「正直に言わせてもらう。あの女は最初から最後まで、周囲を混乱させる存在だった。ああなった件に関して同情はするが、だとしても守る者がいなかったのも事実だ。……馬鹿な女だと今も思っている。それ以上でも、それ以下でもない」
三人の答えをひそやかに聞きながら、僕は思う。
……近い未来、君たちは必ず後悔するだろう。
僕は、とある作戦を思いついたのだ。
五年後、三人の中の誰かの名前を使ってそれぞれに手紙を出し、『こっそりタイムカプセルを埋めておいたから、掘り起こそう』と言って、スターズをあの大きな樹の下に呼び出す。
身に覚えがなくとも、とりあえず三人は樹の下を掘るだろう。
そうすれば――そこには僕が埋め直したフィリア様の日記がある。
わざと日記を見つけさせて、あの日記に触れればきっと……僕のように、彼女のこれまでがすべて頭に入り込んで、失った過去の記憶を取り戻すだろう。
あなたたちはかつて、フィリア様と仲間だったこと。
あなたたちを死なせないために、フィリア様がこの結末を選んだこと。
全部を知って、死ぬほど後悔すればいい。
きっとフィリア様は望んでいないだろう、でもこれは、僕から彼らへの、最大級の最後の嫌がらせだ。
フィリア様は怒るかもしれないけれど、それでもいい。彼女に怒られるのは慣れているし、彼らへ嫌がらせするのにも慣れてしまった僕に、罪悪感はない。
五年後、フィリア様の世間の評価は一気に変わるだろう。
「あ! そこのあなた……! リアム・ミルトンさん!」
肩が跳ねる。
まさか、僕の名前を呼ぶ人がいるとは思わなかった。振り向くとそこには、好奇心に目を輝かせる記者の姿があった。
「在学中、よくフィリア様と一緒にいたとお聞きしました! ご友人だったのですか!?」
「……いいえ。残念ながら」
「では、彼女に嫌がらせを受けていたというのは本当でしょうか!? 教えてください! やはりフィリア・ヘイズは――相当な悪女だったのですか!?」
彼女が悪女かどうか。
その質問に対する答えは、ただひとつ。
「そうですね……彼女は……」
存在が物語を動かして、周囲を翻弄して、それでもなにか理由があって悪役になる。
僕が愛した、フィリア・ヘイズは――。
「それはもう立派な、悪役令嬢でした」
END
お読みいただきありがとうございました。なんだかこういう話が書きたいなーと思い書き始めた物語ですが、少しでも多くの人に読んでいただけていたら幸いです。
ENDとつけていますが、最後に短めのエピローグがありますので、そちらもご興味あればお読みくださいませ。




