表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/34

フィリア・ヘイズという悪女4

「アルト様が狙われたってことは――災厄は、彼がわざと手を抜いたのを見抜いたのかしら」


 お決まりの日記を掘り起こし、屋敷の自室で私はひとりで呟いた。

 セレンでなく、アルト様が狙われたのは、きっと災厄、本当のトップを見抜いたのだ。

 わざと点を落として功績ポイント一位を逃れたとしても、狙われる可能性がある――ということは。


「ぶっちぎりで一位になるしかないわね……」


 結果が僅かな差であれば、災厄にも迷いが生まれ、私じゃない人が食われるかもしれない。それではダメだ。

 これまでの流れを見ると、災厄がその年でいちばんの才能の持ち主を標的にしているのだけは確実。だから、スターズの三人ばかりが狙われていた。

 私が標的になるには大前提、あの三人を越えなければならない。


「……上等じゃない」


 努力も才能のひとつなら、私は死ぬ気でやってやる。

 幸いにも、死に戻っているおかげでテストの内容は知っている。だから、筆記はその記憶を頼りに挑めばいい。それでも満点を取る勢いでないと勝てないけれど。

 問題は実技の剣術――。といっても、三周目でサディアスと共に学んだおかげで、実力は初期より格段に上がっている。

 彼に教わった練習方法を実践すれば、女子で一位は難しくないはずだ。もちろん、毎日の鍛錬は決して怠ってはならない。

 魔法はほとんど使えなくても、知識はつけよう。そうしたら筆記テストや授業の問題でも答えられる。知識で黙らせれば、弱点とは思われなくなるはずだ。


 こうして私は入学してからの一年間、死に物狂いの努力をした。

 功績ポイント一位を獲るだめに、スターズを努力だけで越えると決めた。

 授業はもはや復習と思って、自主的にその先を勉強し、屋敷の庭で剣術を磨き、基礎体力を上げるためのトレーニングもした。

 空いている時間はすべて、勉強と鍛錬につぎ込んだ。

 学園ではいっさいそんな姿を見せないように、いつも毅然を貫き続ける。


「異能が開花しないから、焦っているのね」


 そんな私をも、家族はそう言って嘲笑うけれど……この冷たさが、今の私にはありがたい。家族への未練がなくなるからだ。


 そして、かつての仲間だったスターズの三人とは――学園では周知の犬猿の仲となった。


「まぁアルト様。今日の授業での受け答え、完璧でしたわね。でも目立ちたがり屋もほどほどにしたらどうでしょう?」

「セレン、今日も相変わらず清楚で落ち着いているね。内心も同じくらい清らかなのかしら?」

「サディアス、剣ばかり磨いているから筆記でふたりで遅れをとるのよ。というか、私にも負けているじゃない!」


 顔を合わせれば嫌味を言い、悪態をつく。それはもうしつこく、わざと嫌われるように。

 私の異能の開花を知らない者たちは、こぞって私が〝スターズをひがんでいる〟と思い込んでくれた。

 ……入学式の日、私は今世でスターズに入らないと決めた。

 私は今世で死にに行く。その時、残った彼らに私と同じような失意を感じさせたくない。


 だからいっそ、学園のみんなに嫌われよう。恨みを持たれよう。

 私が死んでも、誰も悲しまないで済むように。


 ――そう決めていても、自室に帰ると、ふと涙がこぼれる。

 でも屋敷から一歩出れば、私は立派に演じるのだ。

いつの間にか浸透していた私の呼び名、〝悪女のフィリア・ヘイズ〟を。


 そうして一年が経ち、私はようやく、テストで一位をとることができた。

 問題はここからだ。

 スターズの三人には、私と違って功績ポイントを上げる見せ場がある。この一年で考えた作戦でその見せ場を失敗させないと、簡単に私なんて追い越される。

 それと同時に続けていた、災厄を調べるための歴史書漁りについては……図書室の本は、ついに全て読破した。

 歴史の知識だけがつき、最後の一冊を呼んでも、災厄の詳細はわからないまま……。そんな時、教師のひとりがこんな情報をくれた。


『古くなった本をいくつか、旧校舎の美術室に運んだって聞いたわ』


 なぜ美術室に? と疑問が浮かんだが理由は至って単純なもので、だだっ広い図書室に置くほどの量ではなかったから、美術室にまとめたらしい。


 やれることは全部やる。時間がある限り、この命がある限り――。

 そう決めていた私は早速旧校舎の美術室に向かった。でもここで予想外のトラブルが起きる。美術室には鍵がかかっていたのだ。


 どうして旧校舎の美術室に鍵がかかっているの?

 もしかして、なにか重要なものが封印されているのかもしれない。手がかりへの予感を勝手に膨らませた私は、放課後すぐに旧校舎へ向かい、美術室の前で待機した。

 鍵の持ち主が現れるのをひたすら待ちながら、旧校舎の静寂にひとり身を委ねる。

窓を開ければ、柔らかな風が肌を撫でて――冷たく、通り過ぎていく。

 その瞬間……とてつもない孤独を感じた。

 孤独を選んだのは私なのに。ひとりが悲しくて、ひとりが寂しい。そんな弱い心が、この静けさに甘えて顔を出してしまった。

 気づけば目尻から、たった一粒だけ涙が零れる。頬を伝う生ぬるさに、私は気付かないふりをする。


 ――その時だった。

 彼が、私の前に現れたのは。


 印象に残らない暗い髪に、少し表情の見えづらい長めの前髪。背はそれなりにあってすらっとしているけれど……一言で表せば……地味?

 その彼の手にはたしかに美術室の鍵が握られていて、私はその鍵を渡すよう言ったが、彼はなかなか譲らない。

 仕方ないから、中に入れてもらうだけで我慢した。

 彼にとって、この美術室は思い入れがある場所なのだろう。


 私は初めてここに来たし――彼の存在も、申し訳ないけれど知らなかった。

 学園にはものすごい数の生徒がいて、全員を覚えるのはなかなか難しい。でも、彼は私を知っているみたいだった。

 まぁ、当たり前か。今世の私は、これまででいちばん目立っているもの。しかも、悪い方に。


 美術室には思ったよりたくさんの本が積んであった。

 私は地味な彼を無視して椅子に座る。次第に埃っぽさを感じ、喉に違和感を覚えた。

 彼に横暴な態度で掃除を頼むと……驚くことに、魔法で掃除を済ませてしまった。


 あれは、精密操作の魔法?

 簡単にやっているけれど、結構な器用さだ。一瞬気を取られたが、はっとしてまた目元を本へと移す。

 陽が沈み帰る時間になった頃、去り際に彼がこんなことを言いだした。


「フィリア様――僕と、その、友達になってください!」


私と友達、ですって?


「……実は僕……一年生の頃から……あなたに憧れていたんです!」


 ずっとおどおどびくびくしていた彼が、私の目を見てきっぱりと言い放つ。

 私に憧れ? スターズの三人じゃなくって、悪女の私に?

 意味がわからなくて、軽く眩暈さえする。変わった趣味を持ってる人なのかしら。

 ああもしかして、悪役に感情移入するタイプ? 一定数いるのよね。変わった相手に憧れる人。


 ……よく見ると、彼の握った拳が震えていた。

 勇気を出して私に声をかけたと、その時気づいた。でも、私は……。

 

「私、友達を作る気はないの」


 今世では友達を作らないと決めている。

 これは絶対だ。友達なんて作ってしまえば、相手を悲しませる。

 誰も悲しまずに、終わらせる。これは、私が〝今世〟を始めた時に決めたこと。


 あっさり引き下がってくれると思ったけれど、思いのほか、彼は食い下がって来た。挙句の果てには、美術室へ自由に出入りする代わりに友達になれなんて言い出す始末。

 どうしよう。面倒なことになった。

 でも、美術室に今後も出入りする限り、彼とは顔を合わせることになる。……! ああ、そうか。それなら!


「一応聞いておくわ。あなたの得意魔法は?」

「……地味ですけど、補助系魔法です」


 わかっていたけど、再度確認する。

 補助魔法……その名の通り、サポートに特化した魔法。派手でもないし、威力もないが、いろんな種類の魔法を組み合わせれば、あらゆる面で役立つ特別な魔法。


 彼の補助魔法を味方につければ、これからスターズのポイントを落とすのに、かなり有利になる。

 私は彼の魔法が欲しい。彼は私と友達――にはなれないから、そうだ。


「わかったわ。あなたの願いを聞いてあげる」

「! ほ、本当ですか!? つまり――」

「でも、友達はいらないから下僕ね!」


 ご主人様と下僕って関係で、うまく付き合っていこう。

 下僕がいるなんて私の悪女感も増すし、彼も私にいい印象を持たないはず! だって自分を下僕扱いするような女、どこの誰が好きになるの?


 不満げな表情を浮かべる下僕に、私は満面の笑みを送った。

 ――これが、私と下僕の出会いだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ