第3話:その決定は少し性急だった。
翌朝。
相変わらず、いつもと変わらない登校日だった。
教室に着くなり、クラスメイトたちが話しかけてくる。
「ねえねえ、オーロラ。知ってる?」
「え、なに?」
「トリシュ・ジャベスだよ! 昨日あんたに負けたでしょ。夕方に目を覚まして、自分が敗北したって知った瞬間、相当キレたらしいよ! 物に当たり散らしてたって!」
……そうなんだ。
結局あいつも、普通の人間と変わらないってことか。
あんなに他人に冷たくしてたくせに。
「へえ〜。“イケメンでクールで成績優秀”な彼にも、そんな“子どもっぽい”一面があったとはね。」
もし、目を覚ました直後の様子を見られてたら、ちょっと面白かったかも。
……
授業開始。
妙なことに、隣の席のクラスメイト――ロータス・シェイクスピアが登校していなかった。
しかも無断欠席。
おかしい。
彼はどれだけ体調が悪くても、無理をしてでも学校に来るタイプだ。
よほど深刻な事情がない限り、休むような奴じゃない。
「……様子を見に行ってみようかな。」
幸い、彼の家の場所は知っている。
……
放課後、ちょっとしたお菓子を買ってから、彼の家へ向かった。
……
数分後、ロータスの家に到着した。
……しかも、玄関のドアは開いたままだった。
「ロータス、いる?」
そう声をかけた瞬間、目の前の光景に、私は数秒間立ち尽くした。
ロータスはパジャマ姿のまま、髪もぐちゃぐちゃで、部屋の中を落ち着きなく行き来している。
表情は張り詰め、何か重大なことを考え込んでいるようだった。
そして視線を左に向けると、
彼の母親がベッドに横たわっていた。
異様なほどにやつれた姿で。
……状況は、だいたい理解できた。
しばらくして、ロータスがようやく私の存在に気づく。
「あっ、オーロラ? 来てたのか。連絡もなしに……まあ、上がってくれ。」
「えっと……学校に来てなかったから、体調悪いのかと思って。お見舞いに来たんだけど……これは……」
「大丈夫だよ。ちょうど、君に頼みたいこともあったし。中に入って。」
……
その後、三十分ほどかけて、彼はすべてを話してくれた。
「つまり……原因不明の重病なのに、治療費が払えないってこと?」
「うん……要するに、そういうこと。」
ロータスの家が裕福でないことは知っている。
治療費が出せないのも、無理はない。
……もしかして、私が両親に頼んでみるべき?
試してみないと分からない。うちは、それなりに余裕があるし。
「ねえ、私が一度、両親に相談してみようか?」
「えっ……そんな、悪いよ……」
「大丈夫。ダメだったら、また別の方法を考えればいいし。何とかなるよ。――決まりね。」
彼は数秒、言葉を失った。
私と、ベッドの母親を交互に見つめ、ひどく迷っている様子だった。
やがて、深く息をつき、決断する。
「……そこまで言ってくれるなら、遠慮しない。頼むよ。本当に……」
「うん。もしダメだったら、また一緒に考えよう。」
彼はまだ不安そうだった。
不安で、少しぼうっとしている。
……
しばらくして、帰宅。
まず最初にしたことは、自室で横になることだった。
ベッドの上で、私はロータスとの約束を思い返す。
「……ちょっと、勢いで言っちゃったかも。どうしよう……」
……
考えても、なかなか良い案は浮かばない。
「やっぱり、エトワールに相談した方がいいよね。あの子がいれば、お金の話もしやすいし……」
そう決めて、私は裏庭へ向かい、妹と話すことにした。
その途中、リビングを通りかかると、
父と、見知らぬ男性――どうやら取引相手らしい――が話している声が聞こえてきた。
「ダビニエさん、カンパーニュ・サントの件はどうなりました?」
「うーん……正直に言うと、ヒヴェールさん。ちょっと想定外の問題がありましてね……資金不足なんですよ、ははは……」
「つまり、出資を希望していると?」
「ええ、まあ。額も大したことはなくて……だいたい、フレカコストで十三億ほどです。」
「……ほう。思ったより多いですね。ですが――いいでしょう。引き受けます。」
「おおっ、ありがとうございます! ヒヴェールさん、本当に助かります! では、話題を変えまして――」
……ここまで聞いて、はっきり分かった。
第3話•終




