表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

第1話:開始

 プランタン帝国北部──冷たいクリスマスの夜。

 ヒヴェール家の屋敷では、邸内の一室に数本の蝋燭だけが揺らめき、今にも消えそうな弱々しい光を放っていた。

 ほとんど外気の入らない密閉された部屋。その静寂の中で──。


 リッシュ・ヒヴェール。

 大柄で、素朴な雰囲気の男である彼は、今まさに苦悶の面持ちで立ち尽くしていた。怒っているのではない。ただ、不安と焦りに押しつぶされそうになっていたのだ。


 理由はひとつ。

 彼はもうすぐ父親になる。しかし妻のポーヴル・ヒヴェールは難産で、胎児の成長が通常よりも激しく、このままでは母子ともに危険だったからだ。


 ──だが、神は彼を見放さなかった。

 妻は命を落とすことなく無事で、さらに生まれたのは元気な双子の女の子。ふっくらして可愛らしい、健康そのものの赤子たちだった。

 ただし、出産後のポーヴルの身体は、あまりにも激しい難産のせいで著しく衰弱してしまった。


 その夜、空には鮮やかなオーロラと星々が輝いていた。

 だから二人は双子にこう名付けたのだ。


 ──姉、オーロール・ヒヴェール(オーロラ)。

 ──妹、エトワール・ヒヴェール(星)。


     *


 私たち姉妹は双子だけあって、まるで鏡写しのようにそっくりだった。青い瞳に、茶金色の髪。体つきもほぼ同じ。

 十四歳になった頃には、二人とも身長は一六五センチほどだった。


 そして十四歳の年、私たちはプランタン帝国最高峰の魔法学院──ディメンション・プランタン魔法学院へ入学した。


 同じ学院に通ってはいたが、成績は真逆。

 妹が優秀になればなるほど、姉である私は……まぁ、察してほしい。


 学院について簡単に言うと、古風な建築様式で建てられ、広大な花園がある。

 裏庭には男女それぞれの寮が並び、そのさらに奥にはカフェテリア。

 本館は五階建てで、

 一階:図書館、大広間、イベントホール、器具倉庫

 二階:一年生

 三階:二年生

 四階:三年生

 五階:四年生

 ──といった構造になっている。


 制服はシンプルだ。

 黒(1年)、灰(2年)、藍黒(3年)、緑(4年)のローブ。

 白手袋、黒のパンツ、あるいは女子は膝丈の黒地チェック柄スカート。

 女子は白いハイソックスで、靴は黒。


 語り手である私は──オーロール。姉の方だ。

 成績に関しては……正直どうでもいい。進級できれば十分だと思っている。

 でも家に帰れば、両親には毎回ぐちぐち言われる。何度か落第しかけて「学院を愛するあまり留年しました☆」になりかけたこともある。

 だから、「大魔導師リュミエール・ヒヴェールの血を引く者」と言っても誰も信じないだろう。


 魔法よりも、どちらかというとケンジュツの方が向いていると自分でも思う。

 魔法に関しては本当に初歩の初歩しかできない。授業を落とさない程度のレベルだ。


 ちなみに魔法使いの階級はおおまかに三つ。


 下級ハカッパ:教師や一般の生徒レベル

 中級:百年級の修行者。場合によっては世界に脅威を与える力を持つ

神級:神と同等の力(極めて希少)


 ──まあ、それは置いておいて。


     *


 恋愛事情について言えば、私は学院の“華”とよく言われる。

 二年や三年の男子に告白されることもあるが、どうにもピンと来る相手が一人もいない。

 イケメン、優等生、名家育ち……色々いるけれど、どうにも心が動かない。


 妹のエトワールも美人だが、性格にやや難あり。プライドが高く、人を見下す癖があるので、わりと嫌われている。

 そのせいで本人は「なんで私だけモテないのよ!」と嘆くこともしばしば。


 対して私は、ちょっと抜けているところもあるが、なぜか好かれやすい。


 ……まあ、何だかんだ言っても、私は妹が大好きだし、妹も私を大切にしてくれているのだけれど。


     *


 ある日のこと。

 私は首都グロリューの大通りを散歩していると、一人の老婆とすれ違った。

 ──いや、正確には本当に通りすがっただけなのだが。


 しかし老婆は、何かを感じ取ったように私を呼び止めた。


「──そこのお嬢さん。あなた、ヒヴェール家の娘さんじゃろう?」


 私は驚いたが、嘘をつく理由もないので素直に答えた。


「えっ、はい……ですけど、どうして分かったんですか?」


 すると老婆は微笑みながら言った。


「わしは何度かヒヴェール家の者と会うておる。

 それに、あのリュミエールの血が流れとる者のマリョクは、嫌でも分かるさ」


 私はさらに驚いた。

 彼女は私がリュミエールの子孫であることまで見抜いたのだ。


 老婆は続ける。


「それにのう、お嬢さん。あなたのマリョクは、今のままでは終わらん。

 本来ならもっと、高みへ至れる……しかし“然るべき場所”で使われておらん」


「ゆえに──お嬢さん。

 あなたには、あのリュミエールの名を継いでほしいんじゃよ。

 ……言うべきことは言うた。ではのう」


 そう言うと老婆は去っていった。


 いきなり家柄を見抜かれたことも驚きだったが……

 “名を継ぐ”なんて、そんな大それたこと、簡単にできるわけがない。


 だが老婆が放つマリョクは確かに強大で、只者ではない雰囲気だった。

 預言者か、賢者か……そんな類だろうか。


 とはいえ、予言なんて曖昧なものだし、当たる確率も六割あるかないかだ。

 だから私はあまり気にしないことにした。


 ──ただ一つだけ。

 確かに、私の中にもっと大きな力が眠っている気はしていた。

 でも、それをどうしても上手く引き出せないのだ。


     *


 二年生になった頃。

 学院にひとりの美形が転入してきた。


 ステップ・ヴェルト公国出身の青年、トリシュ・ジャベス。

 公国でも優秀な成績を誇る、いわゆる“完璧な坊ちゃん”らしい。


 入学したその日から、女子寮では彼の話題で持ちきり。

 男子もこぞって彼に話しかけ、あっという間に人気者となった。


 そして最悪なことに──

 妹のエトワールは完全に彼にハマってしまった。

 しかも二人は同じ選抜クラスらしく、妹は日に日に性格が変わり、

「あれ、本当にエトワール……?」と噂されるほど淑やかになっていった。


 ……まあ、私は全く興味がなかったが。

 むしろ、彼の甘ったるい言動が苦手で仕方がなかった。

 たまに私のところにも絡んでくるので、本気でうっとうしい。


     *


 そんなある日。

 実技の授業で、模擬戦の時間がやってきた。


 私のクラスと彼のクラスが対戦形式で、一対一で勝敗を決める授業だ。


 そして私の名前が呼ばれ──

 同時に彼の名前も呼ばれた。


「次の対戦──

 B組、オーロール・ヒヴェールさん。

 選抜クラス、トリシュ・ジャベスさん。前へ」


 その瞬間、私は固まった。


(……よりによって、なんであいつなのよ)


 せめて早く終われ、と祈るしかなかった。



---


第1話•終


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ