表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ツンデレストーカー夏二郎くん

掲載日:2025/10/13

 朝、起きたらおれはストーカーになっていた。

 っていうかたぶん、ずっと前からそうだった。

 同じクラスの森野きぃ子に粘着している。

 ずっとじーっと見ていたい。



 きぃ子が掃除をしている。

 棚をひとつずつ雑巾で拭いて、真面目な顔をしている。


 おれは棚の裏側に入り込んで、棚の奥からじっと見つめてやった。

 さかさになって、きぃ子の顔を、じーっと見つめてやった。

 姿勢がちょっと苦しい。

 鼻から息がふんふん漏れた。


 きぃ子が嬉しそうに笑った。

 でもその顔で、口ではこう言う。

「夏くん、お掃除の邪魔だよ」


 おう。邪魔してやる。

 おまえが嫌がることをおれはするんだからな。

 じーっと見てやる。

 ずーっと見ててやる。


「ふふふ。仕方がないなぁ」

 きぃ子の手が、おれの頬に触る。

「夏くんはあたしのことが大好きなんだね?」


「そっ……、そんなんじゃねーから!」


 おれは顔がぼっと赤くなるのを感じて、たまらず教室の外へ逃げ出した。





 下校時間、おれは校門の陰に隠れてきぃ子を待った。

 もちろん一緒に帰りたいわけじゃない。

 あいつが校門を出たら、後ろをついて、ずーっと歩いてやる。

 あいつが家に入っても、玄関の前でじーっと座っててやる。

 ククク……、早く来い。


「あっ、夏くん」


 校門を潜るなり、きぃ子がおれを見つけて微笑んだ。

 おかしい……。おれ、隠れてるのに?

 でもよく考えたら隠れられるところなんてないから丸見えだった。


 にっこり笑って、あいつが言う。

「何? 待っててくれたの? 一緒に帰る?」


「そっ……、そんなつもりじゃねーから!」


 そう言って反対方向へ駆け出した。


 しばらくおれを目で追って振り向いてたきぃ子が前を向き、歩き出したのを確認すると、おれも歩き出す。

 あいつの背中を見ながら、10メートル距離を置いてついて歩く。

 たまにクスッと笑ってあいつが少し振り向く。

 き、気づいてやがるのか?

 気づいてるんなら嫌がれよな……!

 そう思うけど、なぜか気づかれてるのがおれも嬉しい。


 あいつの家の前に着くと、あいつは振り返った。

 電柱の陰にサッと隠れたおれに、声をかけてくる。


「上がっていきなよー、夏くん」


 ばっ……!

 ばっかじゃねーの!?

 家にストーカー上がらせる女子がどこにいるよ!?


 おれが隠れてると、きぃ子のほうから歩いてきた。

 おれの前ににゅっと顔を覗かせ、かわいい微笑を浮かべ、こう言った。


「あたしも大好きだよ、夏くん」


 ぅ……、うわあーーー!!!


 おれは全速力で逃げた。

 振り返らなかったから、あいつがどんな顔でおれを見てたかはわからない。

 そんなんじゃないからな!

 こんなつもりじゃなかったんだからな!

 おれはおまえのことなんか好きじゃねーんだから!

 おれはおまえの……ただのストーカーなんだからな!





 打ちひしがれて、あいつの家の玄関の前にじっと膝を抱えてうずくまってたら、ドアが内側から開いた。


「まだいたの? 夏くん」

 驚いたあいつの声がする。

「嬉しいけど……」


 けど?

 けど何だ?

 さすがにこれほどしつこいのは嫌か? ククククク……

 期待していると、あいつはこう言った。


「風邪ひいちゃうよ?」


 そして、おれの腋の下に手を入れてきた。


「中に入って。あったかいココア淹れるね」


 ぶわっと涙が溢れた。


 飲みたい……


 そのココア、一緒に飲みたい!


 そう思いながらも、おれは彼女の腕を振り切って、駆け出していた。

 おれはストーカーだ!

 おれはストーカーなんだぞ! 優しくなんかするな!




 振り返ったが、あいつはついて来てはいなかった。寂しい。

 500メートルは走ったからな。ついて来られてたまるもんかよ、へっ! ……寂しい。

 辺りは造成地で、誰もいなかった。

 誰もいないことをしっかりと確認すると、月の昇りはじめた空に向かい、おれは──


「す……」


 叫んだ。


「好きだあーーーー!!!」




 おれの名は夏二郎。


 おれの名前は夏二郎だ。


『夏くん』と呼ばれるとなんか嬉しい。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
つつつつんでれ!!!! かわいい!!!! 自分を追いかけるフェレットを眺めていて思いついたと予想。
ストーカーというか、レトロタイプの片想い少年? つーか、ナッくん? うん、擬人化ナッくんだな、これは。
すごい……すっごい! 甘酸っぱーーーーーい!! ベッドでゴロゴロ転がって身悶えしました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ