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海神別奏 大正乙女緊急指令:「全員ヲ攻略セヨ」  作者: 百合川八千花
第二部【アメリカ横断編】第三章・インディアナ逃走

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88「どこへ行けばいいのですか?」★エヴラード・G・バーラム

キャラクター一覧はこちら!

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3524077/

挿絵(By みてみん)

「ボクが選んだ人間だけを、同じ姿で蘇らせてあげる。もう誰もお前をいじめたりしない。だから――」


 ウヅマナキの冷たい声があたりに響く。

 それは神による死の宣告。

 そして、神は己の子にその使命を託した。

 

「――殺せ」


 その言葉と共に、エンゼル神父が光を放つ。

 6枚の羽根、額と掌に浮かぶ目玉、まるで熾天使のような姿になった彼は【人を選別する】という父たる神のお告げに従ってしまう。

 彼が指さす先にKKKがいる。

 その指が少しでも動けば奴らの首が飛ぶ、そう直感した織歌はKKKを庇う様にエンゼル神父に立ちはだかった。


「しんぷさま! だめ!」


 小さなシャチの折神がエンゼル神父に牙をむいている。

 それは恐ろしいというより可愛らしいものではあったが、エンゼル神父は裏切られたようなショックを顔に浮かべていた。

 

「どうして……KKKの前に立つんです?」

「ころしちゃダメ!」

「殺すんじゃないんです。選ぶんです。彼らは穢れた魂だから、この世界には要らなくて……」

「ころすのとなにがちがうの!?」

「殺すのは罪ですが、選ぶのは神の啓示ですよ……?」

 

 まずい、もともと会話がしづらい人だったが、今は余計頑なになっている。

 裏切られたことが、信仰を捨てたことが、自分が化物であることが、エンゼル神父を苦しめている。

 理由のない理不尽に答えを見つけようと、必死になっている。


(大人の織歌さんなら、説き伏せることができたのだろうが……)

  

「大丈夫、すぐにわかります。この世界には、正しい人しか要らないんだって……私が、証明して見せますから」 

 

 エンゼル神父が指をさす。

 光の柱が宙から浮かんで、神の怒りのように地面に落ちた。

 

「レディ! 危ない!」

 

 どうにか1撃は避けられたものの、光の柱によって穿たれた地面は煙を上げている。

 

(このイカレ神父、本気で当てる気だったな……!)


 背筋にひやりと冷たいものが流れる。

 今のエンゼル神父は【殺して産みなおせばいい】と思っているので、僕たちにも一切の容赦を見せてはくれない。

 

「大丈夫。あなたたちは、絶対に選びますから……」 


 涙声でそう言うと、空に手をかざす。

 月だけが浮かぶ暗い空、光の柱がまるで花火から零れ落ちる火花のように大量に降り注がんとしていた。


(まずい、まずい、まずい……!)


 頭が真っ白になって何も浮かばない。

 僕にできる事はもう、織歌を腕の中に抱きしめる事だけだった。


「すぐに、産みなおします――!?」


 ブオン! グシャッ……

 

 エンゼル神父の最後の通告は、突如現れた車に轢きつぶされた。


「エンゼル神父ー!!!!」


 巨大なセダンがエンゼル神父を踏みつぶし、生々しい水音を立てて潰す。

 通常の人間であれば目も当てられない大惨事だが、海魔と化したエンゼル神父には大した攻撃ではないらしい。


「い、いてて……」


 と間抜けな声と共にすぐにむくりと立ち上がった。

  

「エンゼル!? やばい、エンゼル轢いちまったぞ!!」

「サー・ヘイダル!!」

「ダミアン、きしさま!」


 だが、これ以上ない好機。

 僕は織歌を抱きしめたまま車に乗り込む。

 何があったのか、高級セダンのボンネットは見るも無残な穴が開いている。

 

「琅玕隊だ、逃げるぞ!! おい、エンゼル!?」

「駄目です。彼は……”変わってしまった”!!!」

 

 僕は運転席に乗り込むと、シュヴァリエに一刻も早く出るよう指示をした。

 このままでは彼は人を殺してしまうだろうが、琅玕隊が来ているのであれば彼の始末は任せられる。

 ダミアンがあたりを威嚇しつつ、僕と織歌は車に逃げ込む。


 しかし、厄介なKKKもまた僕たちが逃がすことを許してくれない。

 僕はKKKにしがみつかれ、車から引きずり降ろされそうになる。

 

「くそっ! 離せ!」  

「おい、待て! お前たちがこの地に災いを――」


「目、瞑ってな」

 

 ダミアンの声がしたかと思うと、彼の手で視界を塞がれる。

 パン、と乾いた音と、ぐちゃりという水音がそのあとすぐに聞こえてきて、何が起きたかすぐに理解できた。


「マフィア舐めんなよ」

  

 ダミアンはそう冷たく言葉を吐くと、シュヴァリエに車を出させる。

 視界の端で、エンゼル神父がとても寂しそうな眼をしていたのがひどく心残りだった。


 僕は弁護士なのに、何が正しいのか今はわからなかった。


***


「帰ろうか、アンヘル」


 去って行った仲間を寂しそうに見送って、エンゼル神父は立ち尽くしていた。

 その悲しい背中にウヅマナキが優しく声をかける。


「どこへ行けばいいのですか?」

「僕の生まれた場所。死の世界、海の底だよ」


 エンゼル神父は「はい」と呟くと、父の背を追って歩き出す。

 影の中に溶けた二人は、小さな水音と共に消えていった。

  

 ◇ ◇ ◇


 死の世界、海の底――


 現世を映す鏡の前で、勝は吼えていた。


「どうなってる!? 何で戻れない!?」

「お、おかしいです……目を覚ませば戻れるはずなのに……!」


 鏡の中には仲間たちの狂騒が映っている。

 罠に嵌められた織歌とエヴラード、殺されたエンゼル、襲われているダミアンとシュヴァリエ。

 そして、仲間を襲うのは攻略対象の水虎と、勝のかつての盟友・姫宮一六八。


 一刻も早く戻りたいのに、海の底の屋敷の扉はすべて封印されてどこに行くこともできない。

 

「こんなこと、今までなかった……ここに干渉してくるなんて、そんなの……」


 乙女が指を噛んでふるえている。

 嫌な予感は的中した。

 

「うん、ボクが閉じ込めたんだよ」

 

 勝と乙女以外誰もいないはずの空間に、男の声が響く。

 ひたひたと裸足で歩く音が聞こえ、振り向いた先に奴はいた。


「ウヅマナキ……」 

「秘密はわかった。ワダツミマサルくん、キミはもういいや。キミの代わりはもういるから」

「ひ、秘密って第二部のアップデートで……むぐぐ」


 何か言いかけた乙女の口を勝が慌てて塞ぐ。

 まだウヅマナキの持っている情報がわからないのに、全てを知っている乙女の情報を迂闊に出すわけにはいかない。

  

 ――たとえ、今から死ぬことになろうとも。


 「さよなら」


 ウヅマナキの指先が勝の額に当たる。 

 そして、勝の意識は途絶えた。

パパが爆睡してるのは理由がありました!


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【毎週 月・水・金・土 / 夜21:10更新】の週4更新予定です。

次回は11/7(金) 21:10更新です。

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