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海神別奏 大正乙女緊急指令:「全員ヲ攻略セヨ」  作者: 百合川八千花
第二部【アメリカ横断編】第三章・インディアナ逃走

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80「イチゴの赤くなる季節」★シュヴァリエ

キャラクター一覧はこちら!

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2873597/blogkey/3512592/

 「槍を構え、盾を掲げ――いざ、勝負!」


 顔見せのため会場を馬で一周した後、それぞれのレーンに馬を並べる。

 互いの距離はかなり遠いが、それまで演者として愛想をふる巻いていたレジナルド氏の目に殺気が宿るのがわかる。

 ここからはもう遊びじゃない。

 落馬すれば無事ではすまず、油断をすれば死ぬ。

 互いに本気の、命がけの戦いが始まる。

 

「ジャウスト、開始ッ!!」


 ジョアンナ令嬢の掛け声とともに馬を駆ける。 

 砂が舞い。槍が唸り。世界が音を失う。


 ほんの数秒、しかし永遠にも思える時の中、【それ】は見えた。


 ガシン──!!


 勝利への道筋、完璧な軌道。

 針の穴のような隙間に、相手の隙が見えた。

 鈍い衝撃とともに、相手の槍は宙を舞い、レジナルド氏は馬上から弾き飛ばされた。


 静寂。


 ほんの一瞬。


 ワアアアアアアア!!

 

 次の瞬間、爆発するような歓声が押し寄せる。

 砂の上に崩れ落ちたレジナルド氏が呻くのを横目に、ゆるやかに馬を旋回させる。


「なんと……これは番狂わせ!

 突如現れた黄金の騎士、シュヴァリエの勝利だ!!!!」


「キャアアアア! 素敵!!!」

「レジナルド! しっかりしろよ!」

「ふざけるなよそ者が!!」

「シュヴァリエさまー! 私のシャイニングアーマー!!!」 

 

 ジョアンナ令嬢が勝敗を告げる中、洪水のように人々の声が交わりあう。

 私は怒号と歓声を受けながら【ある人】の元へ向かった。


「きしさま! つよい!!」


 その人は道端で詰んだ花を麻の紐でくくった素朴な花束をぽいと投げてくれる。

 それを大切に受け取ると、兜を脱ぎ捨てて花の香りを堪能した。

 ブラック・アイド・スーザン、ゼラニウム、ゴールデン・アレキサンダー……小さな花々で作られた花束は、今までもらったどんな花よりも美しい。


「さあ、シュヴァリエ! 勝利の宣言を!!」


 ジョアンナ令嬢が、中央に戻って勝利宣言をしろと急き立てる。

 私は手を振って彼女に応えると、観客席の織歌に手を伸ばした。


「お手を、私の姫」

「ひ、ひめって……」


 可愛い織歌は顔を真っ赤にしつつも、おずおずと手を握ってくれる。

 その手を大事に握りしめながら、私は彼女を馬の上に招待した。


「かわいい!!!」

「素敵―!!」


 白馬の上の小さなレディに、観客は一層沸き立つ。

 試合の熱狂が人種の壁を越え、織歌にも惜しみない拍手が送られた。 

 

「この歓声と、栄誉の全てをあなたに捧げる」

「わたし、なにもしてないよ?」

「あなたの為だから、私は勝利できたんだ」


 織歌を連れて会場中央へ戻る。

 突然のゲストに、ジョアンナ令嬢はあきれ顔だった。

 

「新顔が新顔を連れてきて……。その子の名前は?」

「わたし、おるか!」

「そう。よろしくねオルカさん。で、シュヴァリエさん。勝利宣言はちゃんとできるんでしょうね?」

「もちろん」

 

 ジョアンナ令嬢はプロなだけはあり、小声で状況を尋ねると颯爽と司会へと戻る。


「さあ、新たな英雄・シュヴァリエ! 貴公の願いを教えてくれ!」


 ジョアンナ令嬢に導かれ、私は馬を中央に進める。

 前に座る織歌は、注目を集めて嬉しそうにしている。


「我が願い――それは私の姫に、最高の喝采を!!」


 ワァアアアアアア!!!


「おめでとう!」

「かわいい!!」

「小さなお姫様!!!」

 

 熱狂に浸る観客は私の願い通り、織歌に惜しみない喝采をくれた。


 ◇ ◇ ◇ 

 

「小さなお姫様にドレスとイチゴのプレゼントよ」

「やったあ!!!」

 

 熱狂は収まり、サーカスは別の演目を始めている。

 私も鎧を脱いで裏手でエンゼルとエヴラードと合流していると、私服姿のジョアンナ令嬢……もといジョアンナが来てくれた。


「ドレスは私から。イチゴは農家の人から……【sorry】だそうよ」

「……そうか。出た甲斐があった」


 どうやら試合を見たイチゴ農家が、心を変えてくれたらしい。

 織歌は目を輝かせてイチゴをほおばっている。

 ああ、この笑顔が見たかったんだ。


「ねえ。うちの専属になる気はない?」


 織歌の姿を微笑ましそうに眺めながら、ジョアンナが私をサーカスへ口説いてくる。

 ダメでもともとという誘いだったからか、「すまないが……」と断ると「わかってた」とあっさりと引いてくれた。


「私は彼女の騎士であり続けたい」

「言うと思った」


 微笑みあいながら、私もイチゴを頂戴する。

 赤いイチゴが熟れる季節。

 私の小さな復讐は果たされた。

ジャウストは本気で危険なスポーツなので素人がやってはいけません。

シュヴァリエは気合でどうにかしました。


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【毎週 月・水・金・土 / 夜21:10更新】の週4更新予定です。

次回は10/24(金) 21:10更新です。

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