79「ジャウスト」★シュヴァリエ
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ジャウスト。
中世ヨーロッパで盛んに行われた騎士たちによる馬上槍試合。
「馬に乗った騎士が、長い槍を構えて全力疾走し、相手を打ち倒す」という、非常にシンプルな騎士のスポーツ。
騎士は全身鎧を装着し、槍を持って馬に騎乗。
障壁で仕切られた直線のコースを、二人の騎士が向かい合って同時に突進し、相手の胸についている盾を破壊するか、相手を落馬させたら勝ち。
あくまでスポーツだが、死者が出るほど危険な演目だ。
このサーカスでは中世を再現する催しとして、欧米から選りすぐりの騎馬の名手を集めているらしい。
「――というわけで、私はこれに参加する」
「何が起きたんですか!?」
私が足を運んだのはサーカスの一団の元だった。
ジャウストに参加させてほしいと懇願し――実際は目を見つめて話すだけですんなり話は通ったが――、ねじ込んでもらった。
そのことを伝えると、エヴラードの驚いた声があたりに響く。
「すごい……ミシェルはジャウストの経験があるんですか」
「しんぷさまー、じゃうすとってなに?」
エンゼルは織歌を抱っこしながら、私に羨望の目を向けてくれている。
この男は……私より年上で、ラテン語も堪能で、皆から尊敬を受ける神父だというのに、ほんの些細なことでも私の良いところを褒めてくれる。
「いや、一度もない」
だが生憎なことに、毎回その期待に応えられるわけではない。
乗馬の経験はあるが、ジャウストなど今まで一度もしたことがないし、試合すら見たこともない。
「素人じゃないですか! 無理がありますよ!」
「どうだろうな。今まで”不可能”だったことは何もないから」
「そんなナポレオンみたいなこと言って……」
エヴラードの突っ込みは当然だが、私には自信があった。
私は器用なたちで、今までどんなことも上手くこなしてきた。
何より――
「こういうものは”やれる”と思ったらできるものだ」
織歌の小さな背中が、それを教えてくれた。
私ならできる。
最上の成果を出して、私の姫君に栄誉をもたらすことができる。
「ミシェルならできますよ!」
「きしさま! すごい!」
「まあ止めても無駄でしょうし……で、登録名は?」
「【シュヴァリエ】だ」
エンゼルと織歌の声援、エヴラードの呆れた声を背に、私は会場へと向かった。
◇ ◇ ◇
「さあさあ皆さま、お立ち会い! 騎士の誉れが火花を散らす、時を超えた一騎打ちの始まりだ――!」
黒衣の女騎士が白馬に乗って会場を回る。
凛々しいその姿は人々の注目を集め、これからの試合の期待を高める。
「今ここに再現されるのは、中世の騎士道が生んだ戦いの芸術! その名も――馬上槍試合!!
勝者にはいかな願いもひとつ叶えられる褒美が渡される!」
このサーカスのジャウストは中世の騎士物語の演劇のような要素を含んでいる。
凛々しい女騎士は、先祖代々ジャウスト審判を務める騎士の名門・ジョアンナ令嬢、という設定だ。
ちなみに【いかな願いもひとつ叶う】は、町の特産品の寄贈のことらしい。
「まずは我らの英雄の紹介だ!
無敗を誇る、咆哮する王の獅子――レジナルド・ホーソーン卿!」
ワアアアと、割れんばかりの歓声が沸く。
試合前に聞いたが、このサーカスは長年この街に来ており、ジャウストの名手であるレジナルド氏は町民に馴染み深い英雄のような存在らしい。
(観衆はみなレジナルド氏の味方だな……)
「迎え撃つは、詩と革命の国より来たる、誇り高き放浪の騎士。
潮に沈みし黄金の幻影。光り輝く彼は名を持たず――ただのシュヴァリエという!」
とはいえ、私の味方もいるらしい。
ジョアンナ令嬢の説明が終わると、キャアアアアアアア!! と女性たちの歓声が沸く。
近くの女性に微笑みかけると、ノリのいい彼女は眩暈がしたようなポーズをとって私の美しさを褒めたたえてくれた。
「レジナルド! おフランス野郎をぶったおせ!」
「あのいけ好かない面ぶっ飛ばしてやれ!!!」
「あのオカマを泣かせてやれ!!!」
女性を味方につけた分、男性の応援はレジナルド氏に集中する。
言い過ぎではないか? とは思うが、それだけ熱中しているのだろう。
それに、どんな逆境でも私は勝つ。
「きしさま! かてー!!!」
あの美しい瞳が、私を見ている限り。
ジャウストをやる地元のお祭りは、現在は「ルネッサンスフェア」などでやっていますが当時はありません。
なのでサーカス団に頑張ってもらいました。
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