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海神別奏 大正乙女緊急指令:「全員ヲ攻略セヨ」  作者: 百合川八千花
第二部【アメリカ横断編】第三章・インディアナ逃走

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77「けーけーけー」★海神勝

キャラクター一覧はこちら!

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2873597/blogkey/3512592/

「なんでかくれるの?」


 超高級車・キャデラックセダン――の後部座席で6人分の荷物の下で、俺と織歌とダミアンは身を縮ませて隠れていた。

 まだ涼しい初夏といえ、荷物によって風を遮られてしまうとむしむしと熱気がこもる。

 織歌が恨めし気に声を上げると、織歌を抱きしめて縮こまっていたダミアンが恨めし気にこぼした。


「KKKがいるんだよ」

「けーけーけー」


 舌っ足らずな織歌の言葉に苦笑しながら、運転席のエヴラードが教えてくれる。


KKKクー・クラックス・クラン、白人至上主義を掲げる秘密結社です」

「かっこいい!」

「でも白人プロテスタント(自分の仲間)じゃない人はいじめてもいいって思ってる、怖い人たちなんです」

「”よくいる” ”やつら”」

「格がちげえんだよ」


 呑気な俺と織歌の返事に、ダミアンが「間違っても顔出すなよ」と念を押して俺の裾を掴む。

 

「あいつらは簡単に人を殺すぞ。徹底したアメリカ主義、俺たちだけでなくカトリックにも、なんなら弁護士にも攻撃的だ」

「”よくいる” ”やつら” ”だ”」

「だから……」

「身分を隠さざるを得ない日本人ふたりとネイティブアメリカンは格好の標的だ。勝、頼むからしっかり隠れていてくれ」

「”シュヴァリエ” ”言うなら”」

「メルシー、勝」

「なんでお前ら仲良くなってんだよ」


 ウヅマナキとの戦いを超えて、俺とシュヴァリエの仲は妙に深まっていた。

 

(これが戦場の絆と言うやつか……)

 

 シュヴァリエだけではない、ダミアンも、エヴラードも、エンゼルのことも俺は前より変化に気づけるようになっていた。

 困難と激しい戦いを乗り越えたせいか、今まで気にしていなかった些細な口調の変化や視線の先に意識が向くようになる。


「これから通るインディアナは特にKKKの会員が多くて、町民の四分の一が会員ともいわれている」

「普段は普通の生活をしている方ですから、互いに関わらず何も起きないのが一番ですね。ね、エンゼル神父?」

「そうですね……誰とも関わらずに済むといいのですが……」


 そんな俺から見て、エンゼルは何か悩んでいる。

 荷物の合間からこっそり奴を覗き込むと、エンゼルの視線はやや下に向いていて、何か思い悩んでいるようだった。

 

「エンゼル神父……」

 

 エヴラードもそれに気づいたのか、何か声をかけようとしている。

 エンゼルは慌てて空元気をだして、皆を励ました。


「幸いインディアナは通り過ぎるだけでいいですからね。車が故障でもしなければ――」


 その時だった。

 

 ――ガタンッ……キュル、キュルルル……ゥゥ……ボンッ!!


 爆竹のような音が車体の奥から弾けたかと思うと、エンジンがかすれた音を立てながら、力なく沈黙する。

 車体が止まり、煙のすすけた臭いが窓の隙間から後部座席にも流れてくる。

 

「「「…………」」」

「どうしたの?」


 前部座席の男三人が黙りこくってしまったので、織歌が荷物の隙間から不安そうにのぞき込む。

 エヴラードとシュヴァリエが無言で見つめ合い、うんうんと頷きあった後、静かに告げた。

 

「エンストしました」

「インディアナのど真ん中で!?」


 ダミアンの悲鳴のような声が車内にこだまする。

 俺たちは散々話していた【超危険地帯(KKKの巣)】に、導かれるようにやってきてしまったのだった。

 

 ***


「エンジンがオーバーヒートしてる。直すのは簡単だが、エンジンが冷めるまでは動けないな」

「ごめんなさい。私が変なこと言ったから……」

「いくらエンゼル神父が不注意でも、車までは壊せませんよ」


 俺たちは荷物の下に隠れたままだが、シュヴァリエ・エヴラード・エンゼルがやいのやいのと車を点検している。


「ねー、まだあー?」

「車壊れちまったんだよ。いい子だから静かにしててくれよ」

「もうあきた!」

「頼むよ、お嬢さん」 

 

 織歌が露骨に暇になって来たのか、もじもじと体を動かして落ち着かない。

 ダミアンがなだめすかしていると、遠くから声が聞こえてくる。

 

「おーい、エンストか?」


 どうやら町民のようだ。妙齢の男女の声が聞こえてきて、エヴラードが対応する。


「ごきげんよう、サー、マダム。御覧の通りです。ここに停めてしまってすみません」

「仕方ないさ。あたしが他の奴らに伝えとくから、直るまでそこに置いときな」

「お兄さんたちは友人かい?」

「いえ。仕事で移動をしていまして」

「そりゃ災難だったね」

 

 好青年のエヴラードが対応しているせいか、聞こえてくる声は友好的だ。

 夫婦と思われる男女との会話にも花が咲いている。

 トラブルが回避できそうで、俺とダミアンはほっと胸をなでおろす。


「せっかくなら遊んでいきな。ちょうど今ファーマーズマーケットをやっててね。あたしの知り合いがイチゴを出すって」

「それは素晴らしいですね。ですがすみません。貴重な荷物がありまして……」

「ならアンタ、車見ててやりな。どうせ客の来ない宿の店番で暇だろ」

「仕方ねえなあ」

「サーのお手を煩わせるわけには……」

「ここにきてファーマーズマーケット行かないなんて損だよ。あたしだって行きたいくらいだ――」


 エヴラードはやんわりと断ろうとしているが、弁護士の弁舌すら上回る宿屋の女将の口撃に、あのエヴラードですら防戦一方だ。

 

 人に見張られっぱなしでは動きも制限される。


「どうする……?」

「”いまのうち” ”抜け出す”」

 

 俺はダミアンとこそこそと状況を相談しあうその一瞬の隙をついて、織歌が飛び出した。

 

「いちご!?」


 暇を持て余した織歌は車を飛び出して、今一番なついているエンゼルに飛びつく。


「おまつり! いちご! ねえ、いこうよ!」

「お、織歌さん……だめですよ……!」

 

 楽しそうな織歌とは対照的に、場が一瞬で凍るのが車の中からもわかる。

 女将が絞り出すように尋ねた。

 

「その子、日本人かい……?」


 その声に先ほどまでの優しさはない。


【一通りの攻略は済んでいるので、これからはイベント取得をしていきましょう!】

 

 乙女の台詞を思い出す。

 まさかあのあほ作者、【超危険地帯での騒動】をイベントだとでも言うんじゃないだろうな――

KKKは1920年代にシカゴやインディアナ州で勢力を強めていました。

逆に移民の多いニューヨークには少なかったため、シカゴ出身のダミアンとニューヨークしか知らない織歌・勝には危機感の違いがあります。


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次回は10/18(土) 21:10更新です。

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