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海神別奏 大正乙女緊急指令:「全員ヲ攻略セヨ」  作者: 百合川八千花
第一部【攻略編】第七章・ウヅマナキについて

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61 第一部最終「知らない人」★海神勝

 「ボス、勝、エンゼル、エヴラード。集まってくれてありがとう」


 織歌が攫われた。


 そんな衝撃の報告の元、俺はダミアンの屋敷に集められた。

 この場にいるのは”5人”の男達――

  

 マフィアのボスから神父に至るまで、荒事には慣れた面々だ。

 婚約者である織歌に危機が迫っている中でも、誰も動揺を顔に出さない。

 

「――1時間ほど前、この屋敷に私の元上司・サラトガ大佐が駆け込んできた。彼は劇場地下の軍事施設で織歌との定例報告を行っていたらしい」


 状況の説明をするのはシュヴァリエだった。

 奴は珍しく俺たちの中央に立ち、冷静な表情で淡々と語っている。

 

「その場にベインブリッジ少将が謎の男と共に来襲。その際にベインブリッジ少将は1発発砲している」


 シュヴァリエが言葉を紡ぐ度心臓が跳ねそうになる。

 あの子は無事なのか、怪我はないのか。

 詰め寄って問いただしたい気持ちを必死で抑え込んで、シュヴァリエの言葉の続きを待つ。


「織歌さんは……生きていますよね……」

「大丈夫。命は無事だそうですよ、エンゼル神父」

 

 俺と同じ気持ちなのか、エンゼルが一番聞きたいことを代弁してくれた。

 ほっと胸をなでおろす神父を見て、俺も秘かに安堵した。


(……) 

 

「織歌は銃撃は避けられたが、その後謎の男が霊能力を発動。織歌は6歳の姿になって攫われたとのことだ」

「何言ってんだお前!」


 エンゼルの反応に気をそらしているうちに、話はぐいと折れ曲がった。

 シュヴァリエの謎の説明にダミアンが声を荒げる。


「霊能力というのは折神(おりがみ)と呼ばれる精霊を呼ぶだけではないようなのです。サー・ヘイダル」

「クソっ、何でもありだな」


 ウヅマナキ(日本神)や霊能力に疎いダミアンが話についていけなくなりかけたが、素早いフォローで話は進んでいく。


(……)


「子供になった織歌はベインブリッジ少将により【7日後】に始末できる場所に攫われた。その際、勝に「待っている」と言葉を残したとのことだ」

「”俺に?”」

「何か心当たりは?」


 霊能力を使う謎の男は十中八九ウヅマナキだろう。

 そんな奴からの「待っている」と言う言葉……ウヅマナキは俺の持つ乙女(作者)の情報と引き換えに織歌を返すと言っているのだ。


「”わ、わから……ない” ”今は”」

「……そうか」

 

 だが、どこまでどう伝えればいいのかわからず言葉に詰まる。

 シュヴァリエが怒りを滲ませた瞳をしているが、冷静な彼は騒ぎ立てることなくこの件をいったん受け流してくれた。


(シュヴァリエに不審がられている。きちんと伝えないと、奴からの信用がなくなっちまうが……作者云々の話に飛んだら物語が壊れる……)

 

「ベインブリッジ少将が……ということは軍の伝手で隔離できる場所ですね。シュヴァリエ」

「ああ。ベインブリッジの采配で放り込めて、7日間は生かさず殺さず隔離できる場所。心当たりがある」

「ミシェル、それはどこですか!?」


(……)

 

「かつて私も入れられていた場所――シカゴの精神病院だろう」

「なるほどな。確かに、誰かれ構わず処分しやすい場所だ」

 

 思い悩んでいる暇などないと言わんばかりに、シュヴァリエは強引に話を進める。

 この場で織歌救出以外に心を割いているのはきっと俺だけだ。

 一番守りたい子に危険が迫っているのに、俺だけが隠し事をしている。


「【織歌救出作戦】のため、シカゴへ向かう。この作戦は私が指揮を取る。これまでの関係はすべて無視し、必ず私の指示に従う様に」


 シュヴァリエはもうマフィアの顔をしていなかった。

 まっすぐ伸びた背筋と精悍な瞳は、かつて彼が海軍将校だったころの顔に戻っている。

 

「……わかったよ」

「はい」

「”うん”」

「かしこまりました」

 

 この中で軍ともマフィアとも連携が取れ、精神病棟の知識があり、作戦の指揮経験まであるシュヴァリエが筆頭に立つ事に文句を言う人間はいない。

 俺たちはシュヴァリエを長として認め、彼の指示を待った。

 

(……)


「軍の監視を避けるため、2チームに分かれて潜入する。互いに接触しないよう気を付けろ。Aチームはダミアンとエンゼル。現地労働者に紛れて情報収集を頼む」

「わかったよ。リーダーさん」

「かしこまりました、ミシェル」

 

「Bチームは勝とエヴラード。正攻法で病院に退院を求めてほしい。私は指揮官として両チームの情報をまとめる」

「はい」

「”えっと……”」 

 

 まずい、英語が難解になってきた。

 これまで雰囲気で英語を掴んでいたが、さすがに作戦となるとそうはいかない。

 

「あとで僕からゆっくり説明するから安心してください、ミスター・ワダツミ」

「………… ”うん” ”ありがと”」


 まごついていると、男が助け船を出してくれる。


「いいんですよ。同じチームじゃないですか」


 少し長い前髪を横に流した男は柔和にほほ笑む。

 ああ。同じチーム。そうだよな。

 名前は……えっと……エダジマ…、……えぶ…、……エマだっけ。 


「この場を離れた瞬間から別行動だ。移動には同じ鉄道を使うが、席のランクは分ける。Aチームには不便をかけるが、三等車を使ってくれ」

「慣れてるよ」

「問題ありません」


「勝は日本公爵家の使い、エヴラードはその弁護士として振舞ってもらう。役割に応じて、一等車で移動を行ってくれ」

「わかりました」

「”うん”」 

 

 エヴラード! そうだ、エヴラードだ。

 線は細いが長身の男は、よい身なりのスーツを着ていて、振る舞いにも品がある。

 一等車のことなどわからないが、とりあえずこいつについていけばどうにかなるだろう……


 というか……


「”エヴラード” ”誰!?”」


 誰だ、こいつは!!


 初対面の奴なんて何人もいるし、”物語”に出てこない登場人物だってこれまで何度も会ってきた。

 だが、こんな……婚約者の面々に当たり前のような顔をして並んでいる男は知らない。

 乙女も何も言ってなかった気がする。いや、あいつはいつも大した話はしてくれないが……!

 

「では、任務開始だ!」

「”待って!” ”説明!”」


 だが、俺の叫びなど全員に無視されて号令がかかる。

 ダミアンもエンゼルも扉を開けて出て行ってしまい、織歌を救出するまでは会話もできなくなってしまった。


「”なんで” ”教えてくれない!”」


 物語は大きく狂いだしている。

 織歌が子供になって攫われてしまう、なんて話は乙女の物語にはなかったものだ。


 すべてが変わりつつある。


「では。行きましょうか、ミスター・ワダツミ」


 謎の新登場人物と共に――


「”誰!?”」


◆◆◆第一部【攻略編】 ―完― ◆◆◆

第一部・ニューヨーク編はここまで!

第二部から織歌を探しにシカゴに向かいます!!

引き続きよろしくお願いいたします!


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【毎週 月・水・金・土 / 夜21:10更新】の週4更新予定です。

次回は9/20(土) 21:10更新です。

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