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13「悪役がひとり」★海神勝

※『』が日本語、「」が英語です

(油断した……なんだこいつ、まるで気配がなかった)


 喉元に突きつけられた刃がゆっくりと肉に沈んでいき、ぷつりと皮膚が破ける音が生々しく耳に響く。

 俺は男を刺激しないように両手を上げ、抵抗の意思がないことを示す。

 これ相手が落ち着くかどうかはわからない、そもそもなぜ俺が狙われているのかすらわかっていないのだ。

 

(言葉が通じたらもう少し楽なのに。あほ作者めなんで海外を舞台に……) 


 目だけを動かして神父の様子を見る。

 亜麻色の髪に薄青の瞳の神父――織歌の”攻略対象”のひとりで間違いない。

 

(名前は確か……エンゼル)


 信仰に厳格な神父。

 この世界唯一の海魔と人間の混血で、その出自ゆえに海魔を憎んでいる――ような話だった気がする。

 だがこの状況、織歌と恋愛が始まるとは思えないほど切迫している。

 織歌は慌てた様子でこちらに声をかけてきた。

 

『兵曹、下手に動くなよ。今誤解を解くからな』

『…………今、何が起きてるんだ?』


 状況がわかっていない俺を見て織歌は呆れた様子だ。

 エンゼルに俺と会話をする許可を得たらしく、日本語で話しかけてくれる。

 エンゼルの妙な冷静さと寛容さはありがたくもあり、海魔憎しの衝動的な行動でないことは恐ろしくもあった。


『この方はエンゼル神父。それで、貴様が海魔だと言っている』

『海魔……?』

『ありえないと言っているんだが話を聞いてくれない。何か心当たりは? 乙女嬢から何か託されたりしているか?』


 乙女とは深海で出会ったきりだ。

 彼女の力で俺は深海――死の国から戻ってきた。


『あっ……』


 そういえば、どういう理屈で戻っているかなど聞いていなかった。

 海魔は深海から現れる亡霊だ。

 そして同じく深海から魂と肉体をもって戻ってきた俺も海魔と言えなくもないのか。


『ちょっと、ある……』


 乙女は確か自分を悪役だと言っていた。

 その代理である俺も、世界に仇なす存在ということであれば納得いく。


(……だからって海魔にしなくてもいいだろうが)


『やはりな。何を託された? 教えてくれ。彼に伝える』

  

 託されたもの――俺の命と、お前の未来だ。

 だが、このことを伝えていいのだろうか。


「もういいでしょう」


 言いよどんでいると、痺れを切らしたエンゼルが再び刃に力をこめる。

 電撃のような痺れる痛みが全身の力を奪う。

 海魔憎しで自分で戦闘力を身に着けたのだろうか……喉元に迫られた時点で俺の命は詰みの状態だ。


(くそっ、どうしようか……)


 俺の正体を明かす手もあるが、そうすれば物語についても話が及ぶだろう。

 そして、そのことをはぐらかし続けられるほど俺は口が上手くない。

 俺を庇えば”攻略対象”との関係に影響が出るし、見捨てれば織歌の軍人としての立場が悪くなる。

 何も言わない、何も明かさないまま、織歌の悪役として消えるのが一番いい。


『乙女との契約で……理由は明かせない』

『何を言ってる!? そいつは本気だぞ!』


 【誰にも見せないでくださいね。未来を知ればきっと物語は崩壊してしまう】


 乙女の言葉を思い出す。

 物語全体と、俺の命――比べるまでもない。

 思ったより短い旅だったが、腹を決めよう。

 俺はこの子のために全てを差し出せる、命も、名誉も。

 

『俺を差し出せ。気にするな、悪役がひとり消えるだけだ』

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・歴史的出来事などはすべて架空であり、実在のものとは関係ありません。


お読みいただきありがとうございます!

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