第7話 龍の爪痕(続き)
俺、佐藤悠斗、元21歳の歴史オタク。
今じゃ5歳の梵天丸として、戦国時代に放り込まれてる。
庭で小十郎と枝を振り回す日々が、遊びから戦国サバイバルにシフトしてきた。
まだガキの体だけど、体力は少しずつ戻ってる。
義姫が
「無理をせぬようにな」
と気品ある声で心配してくる。
「母ちゃん、大丈夫だよ」
と笑って返すのがお決まりだ。
輝宗は
「そなた、気概があれば良し」
と渋い声で頷いてくれる。
家族ってのは、こういう支えが心に刺さるもんなんだな。
転生してから数ヶ月、こいつらとの絆が俺を戦国に根付かせてくれてる。
その朝、庭で小十郎と地面に枝で適当な地図を描いてた。
俺の頭の中じゃ、西尾維新ばりの軽快な一人称がグルグル回ってる。
「さて、小十郎、敵がここから攻めてきたら、どうする?」
軽く投げかけたら、こいつ、純粋な目で地面をガン見。
「うーん
」と唸ってから答えた。
「拙者なら、ここの道を塞ぎ申す」
「敵の進みを遅らせれば、味方が集まるまで持ちこたえ申すかと」
「おお、いいねえ。でもさ、守るだけじゃ退屈だろ?」
「こっちから仕掛けてみようぜ」
俺がニヤッと笑うと、小十郎が
「仕掛ける・・・・・・」
と目を丸くした。
まるで俺が怪奇現象でも起こしたみたいな顔だ。
「そう、奇襲だよ」
「敵の後ろに回って、ビックリ箱みたいに飛び出してやろうぜ。混乱してる間にガツンとやっちゃう」
「奇襲にござるか・・・・・・確かに、それは驚き申すな。梵天丸様、さすがでござる!」
小十郎が目を輝かせて、俺は内心でニヤけた。
こいつ、素直すぎて可愛いけど、ちゃんと頭使えてきてる。
歴史の片倉小十郎に繋がる片鱗が、チラッと光った瞬間だ。
俺の軽妙なノリに引っ張られて、小十郎の脳みそも戦国モードに切り替わり始めたみたいだ。
その日の昼、輝宗が俺を広間に呼んだ。
威厳ある姿で座ってるけど、空気が重い。
まるで東野圭吾の小説みたいに、何か裏があるんじゃないかって緊張感が漂ってる。
「梵天丸、そなたが申した家臣や民を集める策、そろそろ具体的に進める時が来たやもしれぬ」
渋い声が響いて、俺はニヤッと笑った。
「父ちゃん、やっとその気になったか。うん、俺もそう思うよ」
輝宗が
「ふむ」
と頷いて、目を細めた。
まるで俺の言葉の裏を探るような視線だ。
「蘆名氏の使者が参ったことで、家臣どもも動きを気にしておる」
「そなたが生きておる姿を見せ、結束を固めるは良き機会じゃ」
「だろ? で、どうやって進める?」
俺が聞くと、輝宗が一瞬黙った。
広間の空気がピンと張り詰めて、まるでサスペンスの幕開けだ。
「まず、家臣を集めてそなたを前に立てる」
「次に、民が集う場を設け、おぬしが言葉をかける」
「されど、そなた、5歳の身ゆえ、あまり長くはならぬようにな」
「義姫が案じ申すゆえな」
「了解、父ちゃん。短くてもインパクトある感じにするよ」
俺が笑うと、輝宗が
「ほう」と低く唸った。
「おぬし、幼き身にて何やら企んでおるな。何を申すつもりじゃ?」
「簡単だよ。『俺が生きてる限り、伊達家は強くなる』って感じで、家臣や民に気合い入れさせるんだ」
輝宗が一瞬目を丸くして、やがて
「良き言葉じゃ」
と頷いた。
「そなたのその気概、戦国の世に響くやもしれぬ」
「儂も手配を急がせるゆえ、準備を怠るなよ」
「任せとけ、父ちゃん。俺、ちゃんとやるよ」
俺がニヤッと笑うと、輝宗が温かい笑みを浮かべた。
その笑顔に、サスペンスの緊張が解けて、信頼の糸が繋がった気がした。
数日後、輝宗が手配した家臣の集まりが広間で開かれた。
10人ほどの家臣が集まってて、髭面のベテランから若い奴まで、みんなくすんだ着物を着てる。
その目が、俺を真剣に捉えてる。
輝宗が俺を前に立たせて、渋い声で言った。
「此度、家臣どもに我が子・梵天丸を改めて見せる」
「そなた、生きておる姿を皆に示せ」
「了解、父ちゃん」
俺がニヤッと笑って、家臣たちに向き直った。
「お前ら、俺が梵天丸だ」
「疱瘡で死にかけたけど、こうやって生きてる」
「俺が生きてる限り、伊達家は強くなる。これからよろしくな」
5歳のガキがこんな啖呵を切るもんだから、家臣たちが一瞬目を丸くした。
「梵天丸様、斯様な気概とは・・・・・・」
「さすがはお館様の御子、幼くとも頼もしくござるな」
囁き合う声が聞こえてくる。
俺は内心でニヤけた。
歴史オタクの俺には、戦国時代の家臣を前に気合い入れるなんて、池井戸潤のドラマみたいだ。
輝宗が
「梵天丸の言葉を聞け」
と締めると、家臣たちが
「はっ!」
と揃って頭を下げた。
「梵天丸様の下、伊達家のために尽くし申す!」
その声に、熱い結束の力が感じられて、俺の胸がドクンと高鳴った。
まるでドラマのクライマックスで、仲間が一丸になる瞬間だ。
この絆が、俺の戦国での土台になるんだな。
その夕方、部屋に戻ると、義姫が粥の椀を持って待ってた。
気高く柔らかな佇まいで、まるで戦国の風情を纏った絵巻物みたいだ。
「梵天丸、そなた、輝宗殿と何を話しておった?」
「母ちゃん、俺、父ちゃんと家臣や民を集める計画立ててたんだ」
「伊達家の勢いを見せるためにさ」
俺が言うと、義姫が
「勢いを見せる・・・・・・?」
と少し眉を寄せた。
「そなた、幼き身にて斯様な大それたことを考えるとは」
「無理をしてはならぬぞ」
「大丈夫だよ、母ちゃん。体は大事にするから、心配しないで」
俺が笑うと、義姫が目を細めて、静かに椀を置いた。
「そなたのその志は頼もしくもあり申す」
「されど、母として案じ申す心は抑えきれぬ」
「そなたが無事であれば、それで良し。くれぐれも体を労われよ」
「わかった、母ちゃん。心配かけないようにするよ」
俺がニヤッと笑うと、義姫が「うむ」と頷いて、優しく微笑んだ。
その笑顔が、戦国の荒々しさの中で静かな灯火みたいに俺を照らしてくれた。
翌日、庭で小十郎とまた会った。
「梵天丸様、広間で家臣の方々に会われたのでござるな」
「拙者も聞いており申した!」
純粋な目がキラキラしてて、俺に飛びついてきそうな勢いだ。
「うん、小十郎。俺、家臣に気合い入れてきたよ」
「お前もその一員だからな」
俺がニヤッと笑うと、小十郎が
「拙者も・・・・・・?
」と一瞬固まって、
「はい、梵天丸様!」
と元気に頷いた。
「梵天丸様が斯様な気概なら、拙者ももっと励み申す!」
「お前ならできるよ。小十郎、俺の相棒として、これからも一緒に頑張ろうぜ」
俺が言うと、小十郎が
「相棒・・・・・・ありがたく存じ申す!」
と目を輝かせた。
庭で枝を手に持って、俺は新しい質問を投げた。
「小十郎、もし敵が夜に攻めてきたら、どうする?」
小十郎が
「夜にござるか・・・・・・松明で周りを照らし、敵の動きを見極め申す!」
と答えた。
「いいね。じゃあ、こっちから夜に奇襲するのはどうだ?」
「奇襲・・・・・・確かに、敵が驚き申すやもしれぬ
」
「梵天丸様、さすがでござる!」
小十郎が笑うと、俺も笑い返した。
その日から、俺の動きはさらに加速した。
輝宗が
「次は民に会うぞ」
と準備を進めてくれて、俺は
「任せとけ」
と笑った。
義姫には
「母ちゃん、俺、元気だよ」
と安心させた。
小十郎と庭で戦のアイデアを出し合って、毎日少しずつ成長してる。
東野圭吾ばりの緊張感と、池波正太郎の歴史的風味が混ざり合って、俺の戦国が動き出した。
隻眼の龍として、歴史をぶち抜く第一歩が、今ここにある。