第25話 龍の名と刃
西暦1573年(元亀4年)、春
米沢城の広間で、俺は地図を手に静かに座っていた。
春の陽射しが窓から差し込み、暖かい光が俺の肩を照らす。
桜の花びらが風に舞い、どこか遠くで鳥の声が響く。
だが、俺の胸の中は静かじゃない。
梵天丸という名が、そろそろ幼すぎるように感じ始めていた。
陸奥の未来を切り開くには、新しい名で刃を研ぐ時が来たのかもしれない。
その日の昼、輝宗が広間に現れた。
春の風が彼の鎧を軽く鳴らし、静かな声が部屋に響いた。
「梵天丸、米沢の武士が研がれ、田村氏との絆が動き出したな」
「この先をどう進めるか、そなたの知恵を聞かせよ」
俺は地図を膝に置いて、「うむ、父上」と一呼吸置いて答えた。
「これまでの勢いを活かしつつ、新たな刃を手にしたい。俺の名を藤次郎と改め、伊達家の未来を切り開く覚悟を示す。会津の守りをさらに固め、相馬との絆を深める策を進める。黒脛巾組に陸奥の北東を探らせ、新たな風を掴んで備えるつもりだ」
輝宗が「名を改めるか」と目を鋭くした。まるで俺の言葉を秤にかけるような視線だ。
「藤次郎、か。具体的にどう動く?」
「名を改める儀式を米沢で設け、民と武士に俺の覚悟を見せる。会津の守りを固めるため、遠藤殿に城下の備えを増やす策を考えさせる。相馬には使者を送り、田村氏との縁を絡めた絆を深め、陸奥の北を固める。黒脛巾組には陸奥の北東、亘理や岩沼の辺りを探らせ、新たな動きを見極める」
輝宗が「儀式と守り、そして北東の風か」と頷いた。声に僅かな期待が混じる。
「覚悟が伝わってくる。良き策じゃ。儀式を設け、遠藤に会津を固めさせ、相馬に使者を送り、黒脛巾組に北東を探らせよ」
俺は「了解だ、父上」と静かに決意した。
梵天丸は今日で終わりだ。藤次郎として、俺は新たな刃を手に持つ。
数日後、米沢の広場で名を改める儀式が始まった。
武士たちが集まり、民が遠巻きに見守る中、俺は輝宗の前に立った。
春の陽射しが俺の新しい鎧を照らし、風が髪を軽く揺らす。
輝宗が刀を手に持つと、静かに言葉を紡いだ。
「梵天丸、そなたは今日より藤次郎と名乗る。伊達家の未来を切り開く刃となれ」
俺は膝をつき、「はっ、父上の命に従い申す」と頭を下げた。
刀が俺の肩に軽く触れ、名が改まる瞬間、民と武士から低いどよめきが上がった。
儀式は簡素だが、その重さは俺の胸に刻まれた。
その夜、俺が広場で地図を手にしていると、小十郎が元気に駆けてきた。
春の陽射しが彼の汗を輝かせ、眩しい笑顔が響く。
「藤次郎様、名が改まったお祝いにござる! 武士も民も喜んでおる。次はどうしましょうか?」
俺が「おお、小十郎、見事だな」と軽く笑った。
藤次郎と呼ばれた瞬間、背筋が少し伸びる。
「民と武士が喜んでるなら、米沢の士気をさらに高める策を進めてくれ。鍛冶の武器を増やしつつ、備えを頼む」
小十郎が「士気を高めるにござるか! 拙者、藤次郎様のために頑張り申す!」と目を輝かせて去った。
俺は内心で少し和んだ。
小十郎の明るさが、藤次郎という名の重さを軽くしてくれる。
数日後、俺が広間で地図を見ていると、遠藤基信が会津から戻ってきた。
春の風が彼の鎧を軽く鳴らし、穏やかな声が響いた。
「藤次郎様、輝宗様、会津の報せにござる。鍛冶が増え、守りが固まりつつある。城下の備えをさらに増やせば、力が増すかと存じる」
俺が「おお、遠藤殿、それは良き報せだ」と穏やかに笑った。
遠藤の言葉には、静かな重みが宿る。
「会津の守りが固まってるなら、城下の備えを増やす策を具体的に進めてくれ。伊達家の刃をここで研ぐ」
遠藤が「はっ、藤次郎様の命に従い申す」と頷いて去った。
俺は頭をフル回転させた。会津が強くなれば、藤次郎の刃がもっと鋭くなる。
数日後、俺が裏庭で地図を手にしていると、片倉景綱が相馬への使者の報告を持って現れた。
春の陽射しが彼の鎧を照らし、落ち着いた声が響いた。
「藤次郎様、輝宗様、相馬の報せにござる。相馬当主が田村氏との縁を絡めた絆に心を動かされ、使者が近いうちに来ると申しておる」
俺が「おお、それは良きことだ」と穏やかに笑った。片倉の声には、緻密な計算が潜む。
「片倉殿、相馬が心を動かしてるなら、使者が来たら田村氏との縁を具体的に話してくれ。陸奥の北を固める鍵だ」
片倉景綱が「はっ、藤次郎様の命に従い申す」と頷いて去った。
俺は内心で少し満足した。相馬との絆が進めば、藤次郎の名が陸奥に響く。
数日後、俺が広場で地図を眺めていると、黒脛巾組の忍びが音もなく現れた。
黒い脛巾を巻いた男が膝をつき、低い声で報告した。
「藤次郎様、陸奥の北東を探り申した。亘理の辺りで人が動き、岩沼の近くで舟が密かに集まり申した。何かが隠れておる様子にござる」
俺が「おお、見事だな」と軽く笑った。忍びの言葉には、不穏な響きが潜む。
「黒脛巾組、頼もしい。亘理と岩沼の動きか。隠れた企みなら、その正体を掴んでくれ」
忍びが「はっ、藤次郎様の命に従い申す」と静かに消えた。
俺は内心で少し緊張した。陸奥の北東に新たな影が動く。藤次郎の刃が試される時が近いかもしれない。
数日後、俺が広間で地図を見ていると、輝宗が近づいてきた。
春の風が彼の髪を揺らし、落ち着いた声が響いた。
「藤次郎、名を改めて伊達家の勢いが増してきたな」
「うむ、父上。儀式で民と武士が一つになり、会津の守りが固まりつつある。相馬との絆も動き出し、北東の影にも眼を光らせてる」
輝宗が「勢いと影か」と頷いた。まるで戦の風を予感するような深みが宿る。
「次の手をどう進める?」
俺は「うむ、父上。儀式の勢いを活かしつつ、北東の影を見極めたい」と頭をフル回転させた。
「須田殿に米沢の武士を整えさせ、黒脛巾組に北東の動きを追わせる。藤次郎の名で陸奥を切り開く」
輝宗が「良き策じゃ」と頷いた。
「須田に武士を整えさせ、黒脛巾組に北東を探らせよ」
俺は「了解だ、父上」と内心で少し胸が高鳴った。
「藤次郎の刃で影を切り裂く。それが俺の覚悟だ」
遠藤基信が会津を固め、片倉景綱が相馬との絆を進め、小十郎が士気を支え、黒脛巾組が北東の影を探る。
俺は広場で地図を手に、春の陽射しの中で次の手を組み立てる。




