第22話 龍の知と網
西暦1573年(元亀4年)、春
俺は米沢城の広間で、地図を手に二階堂氏の動きを頭の中で解きほぐしていた。
春の陽射しが窓から差し込み、暖かい光が紙の上を照らしている。
会津は遠藤基信が守りを固め、二本松は鬼庭左月と小十郎が田村氏と共に動いている。
相馬は片倉景綱が味方として支え、愛姫との婚姻の約束が田村氏との絆を深めていた。
内政と外交が伊達家の基盤を広げているが、須賀川の二階堂氏が放つ影が、まるで盤上の見えない駒のように俺を挑発していた。
その日の昼、輝宗が広間に足を踏み入れた。
彼の視線が地図に落ち、静かな声が響いた。
「梵天丸、南の影が動き出したな」
「どう進めるか、そなたの知恵を聞かせよ」
俺は「うむ、父上」と一呼吸置いて答えた。
「二階堂氏が企む何かは、単なる物資の移動じゃない。
論理的に考えれば、彼らの動きは外部との連携を示してる」
「鍛冶で武器を増やしつつ、田村氏と相馬の耳で影の正体を掴み、黒脛巾組でその企みを逆手に取る網を張りたい」
輝宗が「網を張るか」と目を鋭くした。
「具体的にどう動く?」
「遠藤殿に須賀川の南の道沿いの動きを監視させつつ、荷車の頻度とタイミングを記録させる。そこから二階堂氏の行動パターンを推測する」
「田村氏と相馬には川沿いと森の監視を続けさせ、影の移動経路を絞り込む」
「黒脛巾組には二階堂氏の密会相手の正体を特定させ、彼らの企みに偽の情報を流して混乱を誘う罠を仕掛ける」
「鍛冶は増やして、いつでも動ける態勢を維持する」
輝宗が「選択の推測と偽情報か」と頷いた。
「知恵を働かせたな。良き策じゃ」
「遠藤に道を監視させ、田村氏と相馬に影を追わせ、黒脛巾組に罠を仕掛けさせよ」
「鍛冶も急がせよ」
俺は「了解だ、父上」と静かに決意した。
戦国の道は知で網を張り、敵の動きを封じるものだ。
数日後、俺が広場で地図を手に春風を感じていると、遠藤基信が会津から戻ってきた。
鎧に春の埃が薄く付き、彼の声が落ち着いて響いた。
「梵天丸様、輝宗様、須賀川の南の道沿いの報せにござる」
「荷車は三日に一度、夜半に動き、城下から森へ向かうのが確認でき申した」
「数は少ないが、護衛の兵がいつもより多い様子にござる」
俺が「遠藤殿、良き報せだ」と少し目を細めた。
「三日に一度、夜半か。護衛が多いのは隠したいものがある証拠だ」
「さらに観察して、荷車の出発点と森での動きを掴んでくれ」
遠藤が「はっ、梵天丸様の命に従い申す」と頷いて去った。
俺は内心で少し興奮した。
行動パターンが読めた。二階堂氏の論理が少しずつ見えてくる。
数日後、俺が広間で地図を眺めていると、黒脛巾組の忍びが音もなく現れた。
黒い脛巾を巻いた男が膝をつき、低い声で報告した。
「梵天丸様、須賀川の森を探り申した」
「二階堂氏が夜に会う相手は、蘆名氏の使者と見受けられ申す。声と荷車の中身から推測するに、武器と米を運んでおる様子」
「密会の場所は森の奥、川に近い隠し小屋でござる」
俺が「おお、見事だな」と軽く笑った。
「黒脛巾組、さすがだ。蘆名氏か。荷車の中身が武器と米なら、二階堂氏が会津を狙ってる可能性が高い」
「この密会に偽の情報を流して、蘆名氏と二階堂氏の連携を乱してくれ。例えば、伊達が蘆名領に動きを見せたって噂を流すんだ」
忍びが「はっ、梵天丸様の命に従い、偽情報を流し申す」と静かに消えた。
俺は内心で少し胸が高鳴った。
蘆名氏との連携。二階堂氏の企みが網に引っかかり始めた。
数日後、俺が広場で地図を手にしていると、片倉景綱が相馬からの報せを持って現れた。
春の風が彼の髪を揺らし、落ち着いた声が響いた。
「梵天丸様、輝宗様、相馬の森の報せにござる」
「二階堂氏の荷車が森の奥で止まり、川沿いに影が動いておると申しておる」
「舟の動きも見え、数は少ないが定期的に下っておる様子にござる」
俺が「おお、それは良きことだ」と穏やかに笑った。
「片倉殿、川沿いに舟か。二階堂氏が物資を下流に運んでるなら、蘆名氏への補給線かもしれない」
「舟の動きをさらに追って、下流の行き先を掴んでくれ」
片倉景綱が「梵天丸様、舟の行き先を追わせ申す」と頷いて去った。
俺は頭をフル回転させた。
補給線なら、二階堂氏と蘆名氏の連携はより深い。二階堂氏の目的が明確になってきた。
数日後、俺が広場で地図を眺めていると、鬼庭左月が二本松から戻ってきた。
春の陽射しが彼の鎧を照らし、静かな声が響いた。
「梵天丸様、輝宗様、田村氏の報せにござる」
「川沿いの村で、二階堂氏の舟が夜に動き、下流で荷を降ろしておるとの話が聞こえ申した」
「荷の中身は見えませぬが、護衛が厳重でござる」
俺が「おお、それは気になるな」と少し眉を寄せた。
「鬼庭殿、舟が下流で荷を降ろすか。護衛が厳重なら、重要な物資だ」
「田村氏に川下の動きをさらに追わせて、荷の降ろし先を特定してくれ」
鬼庭左月が「はっ、梵天丸様の命に従い申す」と頷いて去った。
俺は内心で少し焦った。
二階堂氏の網が広がってる。だが、こっちの網も張り始めている。
数日後、俺が広場で地図を手にしていると、小十郎が元気に走ってきた。
春の風が彼の汗を乾かし、いつもの笑顔が眩しかった。
「梵天丸様、鍛冶の武器が二本松に届き申した!」
「田村氏と一緒に試して、次はどうしましょうか?」
俺が「小十郎、見事だな。武器が届いたなら、田村氏と一緒に訓練を始めてくれ」と穏やかに言った。
「いつでも動けるように鍛えておいてほしい」
小十郎が「訓練にござるか! 俺、梵天丸様のために頑張り申す!」と目を輝かせて去った。
俺は「こいつ、春でも変わらんな」と内心で苦笑した。
その明るさが俺の頭をクリアにしてくれる。
数日後、俺が広間で輝宗と地図を見ていると、彼が低い声で言った。
「梵天丸、須賀川の影が動きを増したな」
「うむ、父上。二階堂氏が蘆名氏と密会し、荷車で武器と米を森に隠し、川で下流に運んでるらしい」
「黒脛巾組が偽情報を流して混乱を誘ってるけど、まだ全貌は掴めてない」
輝宗が「蘆名氏との連携か」と目を細めた。
「二階堂氏の企みを逆手に取れれば、こっちが網を締められるな」
俺は「うむ、父上。黒脛巾組に罠を仕掛ける隙を探らせてる」と頭をフル回転させた。
「二階堂氏の行動パターンを利用して、蘆名氏との信頼を崩したい」
輝宗が「良き策じゃ」と頷いた。
「黒脛巾組に隙を見つけさせよ」
俺は「了解だ、父上」と内心で少し興奮した。
知的な網が二階堂氏を絡め取りつつある。
遠藤基信が道のパターンを監視し、鬼庭左月が田村氏の耳を動かす。
片倉景綱が相馬の目を川に向け、小十郎が武器を鍛え、黒脛巾組が罠の隙を探っている。
俺は広場で地図を手に、春の陽射しの中で次の手を組み立てる。




