第11話 二本松への援軍と緊迫の夜
その夜、米沢城の広間に急な知らせが飛び込んできた。
鬼庭左月と小十郎が二本松へ援軍を率いて出発した直後のことだ。
広間の灯りが揺れ、輝宗が厳しい表情で座ってる。
遠藤基信が相馬から戻ったばかりで、息を整えながら報告を始めた。
「輝宗様、梵天丸様、相馬からの新たな情報にござる」
「相馬氏、様子見を続けると申しながら、二本松方面へ兵を動かし始め申した」
「蘆名氏と手を組んだ可能性が浮上し申す」
輝宗が「相馬が動いたか」と低い声で唸った。
遠藤がさらに続けた。
「二本松の田村氏からの急使も参り申した」
「蘆名氏の兵が会津から二本松へ向かい、既に小競り合いが始まってござる」
俺は内心で「うわ、マジか」とドキドキした。
歴史の知識が頭を駆け巡る。
蘆名氏は会津を拠点に勢力を拡大中、相馬氏もこの時期は伊達家と距離を測ってる。
二本松の田村氏が挟み撃ちにされたら、米沢まで危険が及ぶ。
「父ちゃん、これはヤバいよ」
「相馬が蘆名と組んだなら、二本松が持たない可能性がある」
「鬼庭さんと小十郎の援軍を急がせて、俺も何か手伝う」
輝宗が鋭い目で俺を見据えた。
「梵天丸、そなた、5歳の身で戦場へ出る気か?」
「いや、出るつもりはないよ。でも、頭は使えるだろ」
「米沢から二本松への道に追加の見張りを置いて、情報を早く掴もう」
「相馬の動きも見逃せないから、遠藤さんに再度確認してほしい」
遠藤が
「梵天丸様の申す通り、見張りを増やすは賢明にござる」
と頷いた。
「相馬への斥候を急ぎ、再び動向を探り申す」
輝宗が一瞬黙り、広間の空気が重くなった。
「良き策じゃ。遠藤、相馬へ斥候を放て」
「梵天丸の申す見張りを増やす手配も急げ」
遠藤が「はっ!」と頭を下げ、足早に去った。
俺は
「これで少し時間稼げるかな」
と考えつつ、蘆名と相馬の動きに背筋が冷えた。
夜が更けた頃、米沢城の奥の間に義姫がいた。
薄暗い灯りの中で、彼女は静かに手を合わせてる。
戦国の風が窓の隙間から忍び込み、冷たい空気が部屋を包む。
俺がそっと近づくと、義姫が目を上げた。
「梵天丸、そなた、今夜は眠れぬのか?」
「母ちゃん、ちょっと頭が忙しくてさ」
「二本松が大変なことになってるみたいだよ」
俺が言うと、義姫が静かに立ち上がり、俺の肩に手を置いた。
「そなた、幼き身にて戦の重荷を背負うとは」
「母として、そなたを守りたいと願うばかりじゃ」
「でも、二本松が落ちれば、米沢も危うい」
「そなたの策が輝宗を動かし、家臣を励ましておる」
「されど、無理は禁物じゃぞ」
その声には戦国の母としての覚悟が宿ってる。
米沢の夜が深まる中、義姫の祈りが静かに響いた。
「母ちゃん、俺、無理しないよ。約束する」
俺が軽く笑うと、義姫が「そうであれ」と柔らかく微笑んだ。
その微笑みが、戦国の闇に小さな光を灯してくれた。
翌朝、米沢城の広場で新たな動きが始まった。
鬼庭左月と小十郎が二本松へ向かった援軍に加え、追加の兵を出す準備だ。
輝宗が広場に立ち、家臣たちを見渡した。
「蘆名氏が二本松を攻め、相馬が動きを見せておる」
「伊達家の誇りをかけ、二本松を死守せねばならぬ」
「梵天丸の策に従い、援軍を増やす」
家臣たちが一斉に「はっ!」と声を上げた。
そこに、小十郎が二本松から戻ってきた。
汗と泥にまみれてるけど、目は燃えてる。
「梵天丸様、輝宗様、二本松の状況にござる」
「田村氏が蘆名と小競り合いを続けており申す」
「鬼庭様の援軍が到着し、何とか持ちこたえてござる」
「されど、蘆名の兵が増えつつあり申す」
俺が「小十郎、お疲れ!」
と声をかけると、こいつが
「梵天丸様のおかげにござる!」
と笑った。
「拙者、再び二本松へ参り申す!」
輝宗が
「小十郎、そなたの気概、見事じゃ」
と頷いた。
遠藤基信が相馬からの斥候を連れて戻り、報告した。
「相馬の兵、二本松方面へ向かっておるのは確かにござる」
「されど、蘆名と完全に手を組んだ様子はまだ見え申さぬ」
俺が「よし、チャンスだ」と拳を握った。
「父ちゃん、小十郎と鬼庭さんに追加の援軍を送って、二本松をガッチリ守ろう」
「相馬が様子見なら、こっちの勢いで押し切れるよ」
輝宗が
「梵天丸の申す通りじゃ」
と決断した。
「小十郎、援軍を率いて二本松へ急げ」
「遠藤、相馬への圧力を続けよ」
小十郎と遠藤が
「はっ!」
と頭を下げた。
家臣たちが
「梵天丸様の下、伊達家を守り申す!」
と声を揃えた。
その熱い覚悟が、俺の胸を熱くした。
戦国の試練に立ち向かう時が来たんだ。
数日後、二本松からの報せが届いた。
米沢城の広間に輝宗、俺、遠藤基信が集まった。
小十郎と鬼庭左月が二本松で奮戦中だ。
遠藤が汗を拭いながら報告した。
「二本松にて、蘆名氏の兵が田村氏と激しくぶつかり合ってござる」
「鬼庭様と小十郎が援軍を率い、何とか押し返し申した」
「されど、蘆名の勢いは衰えず、さらなる兵を会津から送り込んでおる様子にござる」
輝宗が
「蘆名、執念深いな」
と呟いた。
俺は
「これは長期戦になるかもな」
と頭をフル回転させた。
「父ちゃん、二本松を支えるだけじゃなく、蘆名に揺さぶりをかけよう」
「例えば、会津の側面から牽制する部隊を送って、蘆名の補給を乱すってのはどうだ?」
輝宗が
「会津の側面か・・・・・・大胆な策じゃ」
と目を細めた。
遠藤が
「蘆名の補給路を狙えば、二本松への圧力が減り申すやもしれぬ」
と頷いた。
「されど、会津へ向かう道は険しく、兵を動かすは容易ではござらぬ」
「そこは少数精鋭で行けばいいよ、遠藤さん」
「二本松を守りつつ、会津でチクチクやって、蘆名を疲れさせよう」
輝宗が
「ふむ」
と唸り、決断を下した。
「梵天丸の策に従う。遠藤、少数部隊を率いて会津の側面を牽制せよ」
「二本松の守りは鬼庭と小十郎に任せる」
遠藤が
「はっ!」
と頭を下げ、動き出した。
俺は「これで蘆名を混乱させられる」と内心でニヤけた。
戦国の風が強さを増す中、米沢から二本松、会津へと戦線が広がった。
その日から、戦況が一気に動いた。
遠藤基信が会津の側面へ少数部隊を率いて出発。
小十郎と鬼庭左月が二本松で田村氏と共に奮戦してる。
輝宗が「蘆名との戦は長引くやもしれぬ」と渋い声で呟いた。
米沢城下では、家臣たちが訓練を続け、民が祈りを捧げてる。
戦国の緊張感と歴史の重みが混ざり合い、俺の戦いが新たな段階に突入した。
隻眼の龍として、米沢から陸奥を切り開く戦いの火蓋が、今切られた。




