不幸と醤油と木刀と
木刀一つで何でもします。そんな看板が立っている店がいつのまにかできていた。その店には店員が三人いる。一人は願いを2つかなえる代わりに歴史を変え、不幸を報酬とするいわゆる悪い人。二人目は自称木刀大好きな高校生ぐらいの人。三人目は醤油が大好きな人。醤油をあげるとどんなことでもかなえてくれる。
そんなお店のお話です。
ある夏の日。僕はアニメグッズ専門店に居た。うん、そうだよ。オタクだよ。まあ金がないからあんまり変えないけど。家が貧乏ってわけじゃない。僕が好きなアニメのジャンルはほのぼの系とギャグ系かな。だからスリルを求めたりはしないし万引きもしない。
「今日は何を買おうかな」
そんな独り言をつぶやいていた。買う金ないけど。
30分くらい何も買わず店の中をぶらぶらしたところでアニメグッズ専門店を出た。まだ夏だ。外は暑い。まあアニメグッズ専門店も少しもわ~んとしているが・・・・・・ 僕もその一員なのであまり気にならない。
「なんだ? この店」
歩いていると自然に目に入った看板。醤油少しでいろいろするよ、と書かれていた。その上には木刀一つで何でもするよとかかれていたらしいがバツ印がついている。
僕は吸い込まれるようにその店に入った。店の中は儲かっているようには見えなかった。客は僕を含めて二人。僕より前から居た人は高校生ぐらいの店員らしい人と話していた。まだ僕には気づいていないようだった。
少しするとカウンターの奥のほうから全身タイツのおっさんが歩いてきた。僕は思わず笑いそうになったが我慢した。なんだあの格好。あれが決まりなのか? いや、高校生ぐらいの店員は全身タイツじゃないから決まっているわけでもないようだ。じゃあ趣味か?
「おい、聡史。客が来てるぞ」
全身タイツのおっさんは聡史と呼ばれた高校生ぐらいの店員にそう言った。
「あ、すまん。いらっしゃい」
聡史と呼ばれた男は今気づいたようにあわてていった。客にスマンというのはどうなのだろう。まあ僕はこういうグダグダは大好きだ。
「あの、このお店はなにをするお店なんでしょうか?」
僕がそういうと聡史と呼ばれた店員と話していた客が僕のほうを向いた。
「看板に書いてあったろ? なんでもする、って」
まあ、そうだな。
それでもよくわからないので詳しく聞くと報酬と引き換えにどんな頼みも引き受けるという店らしい。まあ僕には頼みとかも思いつかないけど。さらに聞くとこの店は家族三人で経営しているらしい。ちなみに僕は信じていないが彼らは宇宙人だという。不思議な力も使えるらしい。とある事故で地球に来てしまい、元の星に戻るには木刀三千本、人の不幸30人分、醤油50リットルが必要らしい。なんでそんなものなんだろう。というか宇宙で使っている燃料はそんなものなのか。人の不幸ってどうやってもらうんだよ。家族三人で一人一種類づつ集めているという話だ。ということはもう一人いるのか?
そう考えていると店のドアが開いた。服はセーラー服。ズボンは短パン。そんな格好をした中学生くらいの女が入ってきた。この人も家族か。そしてこの人が醤油係か。
「たっだいまー」
女は陽気に言った。
「おお、香夏子。帰ってきたか」
香夏子というのかこの娘は。うん、かわいいな。よし。醤油でもプレゼントしてやろう。いや、でも本当に醤油がほしいかわからない。どうせなら直接聞いて・・・・・・ いや、無理だ。恥ずかしい。相手が男なら普通に聞けるかもしれないが相手が女だとすると好意を持っていると勘違いされるかもしれない。好意持ってるけど。
悩んでいても仕方がない! 聞くぞ! そしてプレゼントするぞ! と言いたいが僕は恋愛には興味がない。それに三次元にも。最初に言っただろ? 僕はオタクだって。まあすべてのオタクが三次元に興味に合いわけじゃないだろうけど。
「燃料集まった?」
香夏子が全身タイツのおっさんに聞く。そういえばこのおっさんの名前は何だろう。
「いや、まだまだだ。さっき新しいお客さんが来た。そのお客さんに醤油でももらいなさい」
「はーい」
香夏子が僕の方に寄ってきてすかさず聞く。
「なんか悩みはない?」
無い。けどそう切り捨てるのも悪いな。むしろ悩みが無いのが悩みだ。あ、そうだ。
「彼女がいないのが悩みかな」
別に彼女なんてほしくも無い。けどそんなことしか思いつかなかった。
「あ、ゴメンネ。私恋愛の問題とか無理だからさ。私ができるのは呪いだけ」
おい! 呪いってなんだ! なんか怖いぞ。まあかわいいから許しちゃおう。
「香夏子、お客さんの頼みなんだから頼みを聞いてあげなさい。そうだ、お前が彼女になると言うのはどうだ」
「ちょっと! やめてよお父さん! こんな人タイプじゃないわ!」
こんな人・・・・・・ せめて自重しろよ。というか呪い専門の娘を彼女にする気は無い。他の女子と話してたらその女子を呪ったりしそうだし。いわゆるヤンデレ?
まあ今日はそれで店を出た。なかなか楽しい一日だったと思う。あの店は問題ある人ばかりかもしれないけど結構ぐだぐだな感じでなじみやすかった。最初の方で言ったが僕はほのぼの系のアニメが好きなので。
とりあえず家に帰ったら最初にPCの電源をつける。そして作っていた自作ゲーム作りを再開する。そうだ。今日のことを少しゲームに入れてみよう。木刀と不幸と醤油・・・・・・ どんな作品になるのか楽しみだ。
何時間かたってゲームは完成した。うむ、なかなか良作だ。でもバグがあるかもしれないのでデバッグを誰かに頼もう。そうだ、あの店の人たちに頼んでみよう。あの店の人たちはゲームできるかな? 素人目線でゲームを見てもらったほうがいいかもしれないな。よし、明日頼んでみよう。
翌朝
僕は早速店の人たちにゲームをプレイしてもらった。評価はそれなり。ちなみに僕が作ったゲームはノベルゲーム。選択しで物語が変わっていくやつだ。
「ねえ、この娘はどうすれば落とせるの?」
聡史が質問してきた。ああ、行ってなかったっけ? 僕が作ったのは恋愛ゲーム、ギャルゲだ。
「この娘は他の3人の娘を落としてからじゃないと落とせないから最後になると思うよ」
「はいよ」
バグは2つ見つかった。このゲームはあとで自分のHPにて公開しよう。そこでバグが見つかったらそこを直す。ん? 最初からそうすればよかったんじゃないか? まあ気にしない気にしない。
ヒロインは4人+隠しキャラ1人。一人目は木刀を持っている。二人目は不幸な娘。三人目は醤油大好き。四人目は家で店を経営してる。隠しキャラは宇宙人。あの家族をすこし真似してみた。本人たちは気づいてないらしい。そのほうがいいからよかったけど。
さあ、明日はどんな日になるかな。あの三人が宇宙に帰れる日はいつなのかな。あの三人が宇宙に帰るのはいいことなんだろう。でもせっかく仲良くなった皆がいなくなるのはさみしい。でも僕は彼らが幸せならそれでいいな。
翌日
僕はいつものように店に行った。今日も醤油を持っていった。木刀と不幸はすでにたまっているらしいので醤油以外は持っていかなくてよかった。あと5dlで燃料はすべてそろうらしい。もうすぐさみしくなるな・・・・・・
「おい、坊主」
タイツマン(全身タイツの男の事)が僕に話しかけてきた。
「おまえが持ってきてくれた分で醤油は集まった。これでもう宇宙に帰れる。いままでありがとうな」
予想外だった。こんな早く別れが来るなんて。さっきはあと5dlといっていたじゃないか。
でも仕方が無い、僕は彼らの幸せを願うんだから。僕は引き止めない。
「坊主」
「はい、なんでしょう?」
「お前、毎日店にいたな」
「はい」
「邪魔だったんだよ」
「え?」
予想外だった。今日は予想外の連発だ。まさかそんな風に思われているなんて思っていなかったからだ。ちゃんと醤油だって盛ってきていたし嫌われる筋合いなんてこれっぽっちも無い。
「なんで、ですか?」
「あ? そんなの目障りだったからに決まってんだろ」
ひどい。どうしてそこまで言われなくちゃいけないんだ。
なんてね。わかってる。わかってるんだ。タイツマンは突然の別れを僕が悲しまないように僕を突き放そうとしているんだ。逆にそのやさしさが僕を苦しめる。
「もう、やめてください」
「あ?」
「素直な気持ちを教えてください。そんなうわべだけの言葉もう聞きたくありません」
「お前、それで本気だったらすごい恥ずかしいぞ」
う、確かに。
「まあもう気づかれていたんなら逆に傷つけるだけだもんな。じゃあ本音でいく。いままでありがとうな。醤油、助かったぞ」
僕は泣いていいのかいけないのかわからなかった。でも涙をこらえることはできなかった。僕は泣いた。まだ知り合って一ヶ月ほどしかない。なのになぜ涙が出るのだろう。人の心とはどうしてそんな中途半端なんだろう。ごくわずかな期間でこんなにも親近感がわくなんて。
「坊主。いろいろあったがこれで最後だ。わしらは自分の星に帰るときがきた」
「はい。少しの間でしたが、楽しかったです!」
「こっちこそ」
「ゲーム、完全に完成したら俺らのほしにおくってくれよ~」
「聡史、どうやって送るのよ」
「さよなら。元気でな」
そういい残して彼らはUFO、とはいえないよくわからない鉄の塊にのり、空へ、空へと飛んでいった。
彼らが自分の星でも幸せでありますように。僕が天へと願いを送った。この願い、だれかかなえてくれるといいな・・・・・・
ついにひそかに連載していた願いシリーズ最終作。
願いシリーズというのは
『願いを二つかなえましょう』『木刀一つでなんでもするよ』『不幸と醤油と木刀と』と三つです。
とりあえず皆さんありがとうございました。
前編後編あわせました。