プロローグ 物語の中の世界
世界には7 つの種族がいるという。角、牙、鰭、翼、岩、血、鱗。後に起こるこの7種族間の大戦は後世現代にまでごく一部に書物として語り継がれている。その書物の名は……
「 さむ 」
今日も朗人は祖父の書斎に入り、暫く火を絶やした暖炉にマッチを一灯り投げ入れた。
やはり此処はいつ訪れても寒い、そうぼやきながらまだ灯ったばかりの頼りない灯りを背にし朗人の身体にはいくらか大きな革張りの長椅子にどたりと仰向けになった。
この場所から見る壁一面の本棚は午後四時の窓から差し込む光でどこか物凄く特別なものに見える。
ただの本の背表紙とも言えない輝きで、其々の装飾は金、銀色を基調とした歴史書系統から最近の青春物語まで祖父の選り好みしない本に対する純粋な好意がこの部屋に埃とともに漂っている。
また、そんな祖父の部屋に入り浸る事が大して仲の良い友人がいない朗人の退屈な高校二年生冬休みの暇つぶしだ。
「今日はどれにしようか」
本棚の縁を指で空になぞるとふとどこからか視線を感じた。
体を起こし振り向くと本棚と向かいの壁に掛けられた大きな蝶の標本がギョロリとした羽の目をこちらにむけている。
「こっち見んな」
こうして眺めてるうちにバタバタと粉を撒き散らし眼前へ迫り来る気がしてならない。
祖父の書斎には溢れかえるほどの本の他に、あの蝶を筆頭とした普通の人ならまず欲しがらない様なものまである。言うなれば魔窟。いつだったか金曜の夜定番の映画放送番組で見た色男魔法使いの部屋の様だ。
「おや、お前さんはまたこんなところに……」
「あ、じーちゃん」
朗人が蝶の目玉と睨み合いをしていると重たい入口の扉から少しばかり勢いに欠ける祖父の頭がのぞいた。
全くお前さんは そうぼやきながらも頰を緩める祖父は暖炉のすぐ側にある小さな椅子に腰掛け、一冊の古びた本を開いた。この部屋の中で群を抜いて古く見える背表紙で本の題も擦れてここからでは読むことはできない。
「じーちゃん何読んでんの」
いつもなら気に留めないが今日ばかりはなぜかその古書がなんの本なのか朗人は気になって仕方がなかった。
革張りの長椅子からおり、暖炉の前まで今まで枕にしていたクッションを抱えていくと、祖父のシワに囲まれた青色の瞳が本の縁からこちらを仰ぐ。
「ほれ、読んでみぃ。」
祖父はそう言い本を朗人に渡した。
「ぎゃく…… 二 振る??」
皮表紙に刻まれた本の題名。中国語だろうか、本を開くと色鮮やかな挿絵が朗人の目に飛び込んできた。魚なのか人なのか、俗に言う人魚だろうかと朗人が考えを巡らせているうちに祖父が再びその本を取り上げた。
「お前さんにゃ読めんよ、理解もできん。これの題は【逆鱗に”降る”】と言うてな、書かれたのはそりゃたいそう昔のことだけん」
(ゲキリンニフル? どこぞの漢文が題なのか?)
「ならわかるぞ」
と朗人が言うと祖父はそれの事じゃないという。
「逆鱗に振るでもただのものとは違う。字が違えば中身も違う」
「へぇ。ならじいちゃんはコレ読めるん?」
朗人は少し悔しそうに祖父を睨め付けた。
「読めんかったらもっとらん」
「なら、どんな話か聞かせてよ読めるんでしょう?」
まるで試すようにそういわれた祖父はその背表紙をひと撫でしてこう続けた。
「この話には終いがない。いつになったら終わるのか、それはそれは果てし無い物語だそれでも聞くってんなら話してやろう。お前さんの退屈な夏休みの足しになるかもしれんよ」
にたりとすかした祖父は続けた。
「これは、とある双子の数奇な運命を記した物語……」
どうも作者です<(_ _)>
思いつきで書き出したものの右も左も分からず手探りで1話投稿するのにこんなに時間がかかるんや怖ってなってます
壁打ちくらいの意気込みで投稿してます