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よろしくお願い致します!
「あなたが勇者レオか」
声をかけてきたのは赤いたてがみのような髪をした厳つくも凜々しい男だった。城内の侍女達がよく持っている絵姿で見かけたことのある騎士団長のマグドルだった。
名前と顔はわかっていても会ったことのない相手が一定数いた。それは地位が高いから行動範囲が違っていて顔を会わせることがないか、遠くに赴任しているためにそもそも城内にはいないのどちらかだ。
その中の会ってみたい相手の一人が武勇名高い騎士団長だった。
一瞬睨みつけられたように見えたのは気のせいだろう。
わたしは首をかしげつつ彼に近づく。
「初めまして騎士団長。勇者に選ばれたのは確かですが、わたしはレオという名ではありません」
「おや、勇者殿は伝承をご存じないようだ」
「伝承?」
「ええ。勇者の名はレオと決まっているのですよ。魔王復活せし時、初代勇者の魂がまた再び生まれ出でると」
「わたしは勇者の生まれ変わりなのですか……?」
「さあ、それはどうでしょうな。確かめる術はありません。いやもしかしたら魔王と対峙した時に知ることはできるかもしれませんね」
「つまり国を挙げて勇者を探していたのは魔王を倒すため……」
「そうだと聞いている。しかし選ばれし勇者であってもたった数人で攻めこむなんて正気ではないがな。我ら騎士団を中心にして隊を組む必要があるだろうに」
マグドルは王は何を考えているのかと顔をしかめる。
王を支持しているわけではないようだけれど、真っ当な感覚を持った人のようだった。
だろういくつか会話を交わし、険しい顔のままのマグドルと別れる。
少し話しただけでなんだかとても疲れてしまった。きっとわたしがまだ城に慣れていないせいだろう。珍しいから声をかけてきただけで一度話せば納得しただろうし、もう会うことはないだろう。
そう思っていたら顔をみかけることが多くなった。しかも目が合うと必ず近づいてきて相変わらずしかめ面のまま話をすることになった。
嫌なら話さなければいいのに。本当に会いたい人にはなかなか会えなくて、わたしは内心ため息を吐いた。
体よりもきっと心が疲れているのだろう。何をしても楽しくないし、楽しいと思えることがどんどん少なくなっている。
訓練場から出てきたわたしは疲れを癒やそうと誰でも入ることができると聞いた庭園に向かった。
最近は大人数を一人で相手にしているので、それなりに運動する。ただ何人かがやってもいないことをあたかも本当のように噂を流されている。
勇者に相応しくないと言われること自体はどうでもいい。でも聞こえるように遠くから話されるのは少しずつ何かが削れていくような感覚がした。
多くは信じていないが、もしかしたらと思っている者もいて、わたしがいなくなることを望む声が一定数ある状態が固定してしまっていた。
持ち上げられたいわけではない。でも大勢を相手に打ち合うのは自分のためだけではないことで、迷惑だからやめてほしいとわたしと対峙すること自体を拒否している人間に言われたくない。
困ったことがあったら話すようにとホルンは言っていたけれど、何かがあったわけではないし、本当にその相手が流している噂なのかも証拠がない。
もしわたしが思っているだけで、本当は何もないかもしれないし。今の状態で話すのは忙しいはずのホルンに重荷になってしまうのではないかと考えてしまって、結局話せていない。
そもそも最近は顔を見かけることすらなくなっている。探そうにもどこにいるのか、何をやっているのかすら知らないのだ。今まで数日に一度くらい挨拶程度はできていたのは、わたしが彼を探していたのではなくホルンがわたしを見つけてくれていたからなのだと知った。
会えなくてさみしい。長く話す時間はなくても顔を見かけるだけでもいい。
今あの人に会えたら元気になれる気がするのに。
他の誰に話すこともできないのは、わたしが勇者ではなかった時を知る人が城には彼以外いないからかもしれない。
ホルンもわたしが姉のほうだとは思っていないだろう。
気づかれることでもなければ伝えることもないだろうと思うと余計に悲しくなる。
わたしは落ち込んだままで庭園を歩く。
花は綺麗だ。そして儚くもある。限られた短い時間を精一杯美しく咲き誇る。
色とりどりの花に囲まれるのは土を耕している時とはまた違った気持ちになる。
個々の主張が微笑ましくて和やかな気持ちになるのかもしれない。
特に今いる庭園に集められているのは花の中でもとりわけ華やかさがあるものばかりで、眺めるだけで心を慰めてくれる。
微かに香る爽やかな甘さは身に纏いたくなるようなものだった。
すうっと鼻から息を吸って一気に吐く。体の隅々に香りが行き渡るようだった。
わたしがわたしに戻れているような感覚になる。
唐突に思ったのは、ただ一つ。
帰りたい、だった。
でも無理なのだ。
きっと今すぐに村に戻っても帰ったことにはならないだろう。
帰りたいのに帰る場所がない。
だって帰りたいのは弟だけじゃない。父がいて母がいる家だ。父と狩りに出て帰ると母が笑ってお帰りと言ってくれていた頃のことなのだから。
ああでも。もし本当に戻れてしまったら、わたしがわたしに戻る代わりにホルンには会えなくなってしまうのか。
嫌だな。
天秤にかけるものではないけれど、きっとどちらも選べないだろう。
そう思っていると、突然鈴の鳴るような声で呼びかけられた。
「ねえ。ねえったら!聞こえないのかしら!」
声の方向を見ると細い腰をした美しい女が立っていた。ゆるくウエーブした綺麗な金の髪を一部結い上げている。残りはそのまま垂らしているから長い髪が揺れていた。
「あの何か?」
「ねえあなたがレオ?」
「……そうですけど。あなた様は?」
「王家の庭に入ってきて誰とは失礼な」
「誰でも入れる場所ではなかったんですか?」
「違うわよ。無知な勇者様は一体誰にきいたのかしら」
侍女の一人に教えてもらったのだ。ありがとうと言うとうれしそうにしていたが、もしかしたらわたしが何も知らないのを愉しんでいたのかもしれない。
知らずに入り込んで捕まる様でも見たかったのだろうか。そこまでいかなくても困る姿くらいは見たかったのかもしれない。
その侍女の好きな人は最初の手合わせの時に細い剣を差し出してくれた騎士らしい。名前も教えてもらった。ブライアンという。あれから何かと親切にしてもらっているから、嫌がらせの一つでもしたかったのかもしれない。
「その顔は誰かわかっているみたいね。教えてくれれば私が罰しておくわよ」
「いえ、誰だったか覚えてません。知らないことが多すぎて毎日誰かに教わっているので」
「かばうような相手なのかしら。私が勇者だからってレオに罰を与えないとは限らないというのに」
「よく確認もせずに立ち入ったことは事実ですから」
「許すと一度言ったのだから翻すようなことはないわ。いくら私がわがまま王女と呼ばれていても」
「わがまま……ああ」
「納得したって顔してるけど、不敬よ。わたしはフューリーディア。期待をされない末の王女なの。いつ会いに来てくれるかと思っていたけれど、なかなか来ないから私のほうから出向いてあげたのよ」
「申し訳ありません。ご挨拶に伺うべきだったのですね」
「そうよ?上の立場の相手に出向かせるなんていけないの。でも誰にも教わっていなかったというのならまあいいでしょう。綺麗な花を愛でる心をお持ちのようですもの。美しいものはそこにあるというだけで人の心を癒やすことができるというもの。そうは思わないかしら?」
「美しいものは美しいと思う相手がいることによってその美しさが証明されているのだと僕は思います」
「あら。遠くから来た割にレオは小難しいことを言うのね」
「申し訳ありません。王女様の美しさに当てられてしまったようです」
「ふふ。お世辞だったとしてもいいわ。その言葉に免じて許してあげる。さ、行くわよ。ここから見るのも綺麗だけれど、奥にはもっと見栄えするところがあるのよ」
腕をとられる。
「エスコートの仕方は知らないわよね?特別に教えて差し上げるから、お父様と会う時には私も連れて行きなさい」
「は?む、無理です!」
「やる前から無理と言うのは勇者様に似つかわしくないわよ?私は王家にとっていてもいなくても同じようなものだもの」
「そんなことは」
「陰で自分がどう言われているのかなんてこの歳まで城にいれば自然と耳に入ってくるもの」
わたしと同じような境遇なのかもしれない。そう思うと親しみが湧いた。
それから王女ヒューリーディアと仲良くなり、マグドルとも交流が続き悪いことばかりではないと思い出した頃、王の容態が悪化した。始めて城に来た時以来王とは話すことがないままで、ホルンとも顔を会わせることがなくなってからもう半年近くが過ぎた――
いつか命令されるのだろうと思っていた勅旨が下り、魔王を倒す旅に出なくてはならなくなった。
最初はわたし一人に行くようにとの話だった。
しかし王太子からの鶴の一言で最低限の同行者をつけることができるようになった。
さらにあらかじめ決められると足を引っぱる目的の人間が混ざりかねないと騎士団長から進言があったため、わたしが選べることなった。
誰にしようかと考えた時に、騎士の中から選ぶのであればマグドルかブライアンかな、くらいに考えていた。肉体的な強さよりもわたしが話しやすいとか守り切りたいと思えるかとか。
一人で動いたほうがもしかしたらずっと楽なのかもしれない。
訓練中にひっそりと小さく漏らすと
「一人で行くのはお勧めできません。私でよければ参りますよ」
と返事してくれたのはブライアンだった。
「私も行きますよ」
いつ来たのか横からマグドルが来た。
「騎士団長が離れては騎士団をまとめられる者がいなくなってしまうのではないでしょうか。私なら他に支障はありませんし」
「勇者殿に同行するのに何の肩書きも持っていない騎士をつけるわけにはいかないということは分かるだろう」
「しかし……」
「説明されていないのだから知らないのだろう。そもそも魔王の住まう城までたどり着けるかもわからないような旅なのだ。帰ってくることもできないかもしれない」
「なら余計です。私は行きます。レオがどれだけ強くてもまだ子供なんですよ。一人で向かわせるわけにはいかないと思います」
「だから騎士団長である私が同行すると言っているのだ。しばらくの間は混乱するかもしれないが、勇者殿が選出した相手にケチをつけようと待ち構えているだろう魔物を蹴散らすくらいならしてみせるさ」
「それともなんだ?ブライアンは私では役不足だとでも言いたいのか?」
「いえ。私ではレオの足を引っぱってしまうかもしれないでしょう」
悔しそうにブライアンは顔を歪ませた。
呼びに
「ヒューリーディア様にもお声がけしたほうがいいでしょう。あの方は城にいるよりも外に出たがっている方ですからね」
「遊びに行くわけではないので無理ですよ。そもそも危険な目には遭わせたくないので」
「仲がいい相手を巻き込みたくないというのはわかりますが、王の容態がよくない今、城に残していく方が危険である可能性が高いですよ」
「王太子と仲がいいと言われていますが実際にそうだとは限りませんからね。」
この半年でフューリーディアの末の王女としての立場の危うさを十分過ぎるくらいに理解していた。王位継承権は低くても王太子よりも母親の一族の地位が高いのだった。
フューリーディア自身には王太子に背く気はなく、王太子も理解しているからこそ均衡が保たれているが、周囲がそのまま二人を放っておいてはくれないだろう。
どこにいても死ぬかもしれないのなら一緒にいたほうが守れる。人間を相手にするより魔物を相手にするほうが心の負担が少ない。
騎士達が手を抜いているわけではなく、当たり前のラインが違うのだ。彼らを責める気にはなれない。
結局王女に旅の同行を頼むことにした。
「私のことも連れて行ってくれるの?」
「ええ、ヒューリーが嫌でなければ。きっと厳しい旅になるだろうから王女には難しいだろうけど。無事に帰ってこれればきっと周囲の目も変わるはずだよ」
「待ってなくていいのね?一緒に行けるのね?」
「ありがとう。必ず一緒に帰ろう。そうしたらみんなもっと過ごしやすくなるよ。魔物の討伐は騎士団のほうでも何度も遠征をしているけれど、狩るスピードよりも増える速度のほうがずっと早い。さっさと元を絶ったほうがいい。ごめんねフューリー。嫌だったら城にいてもいいんだ。僕が一緒に来てほしいと思ったんだ。近くにいたほうが守れるから」
「勇者に相応しい実力をつけるためとかもっともそうな理由で長いこと留めておいて、必要になったら少ない人数で放り出そうとするなんて。お父様は倒れてさらに頭が固くなられたのだわ」
「どうかな……どうやら王太子様の意見が汲まれたようだから」
「お兄様ったら!もしかしてあなた一人で旅立てなんて無茶を言われたんじゃないでしょうね?」
図星をさされてしまい、わたしは口ごもった。その様子から把握したのだろうヒューリーはため息をついた。
「私が一緒だとなればそれなりに予算を組むことが可能になるでしょう。必要なものはこの際良い物を用意させるようにするわ」
「うれしいけど、また無理を通すんじゃないの?そんなことしなくっても大丈夫だよ」
「レオが大丈夫だったとしても私が嫌なのよ。いい?質の悪い馬車なんて乗り心地最悪なのよ。まあ良い物でもそれなりって感じだけど!」
「ヒューリー、あのね多分馬車は無理じゃないかと思うよ。メンバーは僕と騎士団長の予定だったから馬が用意されることになっている」
「は?私が行くことに決めたのだもの。どうとでも変えさせるわ。なんだったら王家の宝物庫から古代の遺物引っ張り出してきてもいいんだもの。絶対に楽してやるんだから」
「意気込みはすごいけど、言ってることは怠け者の言葉だからね?」
「だってしょうがないじゃないの。私は馬に乗れないのよ!」
「うん、知ってる。知ってるけど。前から乗れるようになったほうがいいよって僕言ったよ」
「言われたわよ、レオだけじゃなくってマグドルにも。でもね苦手なものは簡単には上達しないものなのよ!」
苦手なことを苦手なままにしておける環境がヒューリーにはあったのだ。わずかに疼く胸を無視してわたしは笑った。
出発の日。
体の大きいマグドルが乗せたほうが安定すると言って、ヒューリーと共に乗ることになった。彼の騎馬は馬の中では一際大きく、気性も荒いためにわたしは一度も乗せてもらったことなどない。
眺めていると顔の横をぐいと押された。白馬が鼻先で押してきた。
「セレナ、よろしくね」
技術が拙い頃からの相棒。他の馬に乗れなくて困っていたら近寄ってきてくれた優しいコ。
王太子への献上品として城にきたセレナにわたしが乗ることで一波乱あったが、結局彼女以外に乗ることができなかったために反対の声は小さくなっていった。
「お待ちください」
ずっと聞きたかった声がしてわたしは振り向いた。
髪が乱れている。いつも隙なく整えていた印象の強いホルンの息の上がった様子に目を瞬かせた。
「明日に旅立たれると聞いて参りました」
「お久しぶりですホルンさん。お元気でいらっしゃいましたか?同じ所にいるはずなのになかなかお会いする機会がなくて」
「あなたもお元気そうでほっとしましたよ」
「実は遠征に駆り出されてしまって。つい数日前に戻ってきたところだったのです。溜まっていた仕事と遠征の報告書に埋もれていたら、勇者が旅立つという噂が流れていまして。上司に確認してみたところ、どうやら本当のことのようだったので、仕事をしている場合ではないと思って」
「なるほど。お会いしないわけですね。いらっしゃらなかったのなら探しても見つからないはず。わたしが作り出した幻だったのではないかと思い始めていたところで」
「幻だと思うほどあなたに都合のいい存在でしたか……」
「ホルンさんくらいわたしに優しくしてくれた人は初めてだったので」
「それは光栄ですね。勇者とはいえ、あなたはまだ若い。手本になる行いはまず先人たる者が見せるべきでしょうに」
「仕方ないですよ。誰だって知らないものに向かっていくのは怖い。それが自分の身を狙っているとなればなおさらでしょう」
このままずっと話していたかった。でもわたしがやらなくては誰もできない大切なことをさっさと終わらせてこなくては結局大切なものも守れなくなってしまうのだ。
自分を必死に説得する。
気を抜いたら泣いてしまいそうだった。
でも今わたしは一人ではない。
「そろそろ参りましょう。勇者様」
マグドルから呼びかけられ、後ろ髪引かれつつもわたし達は旅に出たのだった。
早く終えることができるだろうと思っていたのに、気づけば一年以上の時間がかかってしまった。何度も何度もいっそもう全てを投げ捨ててしまいたいと思った。人の住む地に向かえば、どこに行っても歓迎されて拝まれた。
魔物が多い場所になればなるほど人の命の重みは軽くなる。怯えて暮らす彼らにとって安寧の時が訪れるなら、もたらす勇者は神にも等しく見えるのかもしれない。
どこにいてもわたしは勇者で男で。「わたし」ではなかった。
どれだけ感謝されてもわたしではないままで、心はずっと悲鳴を上げていたのだった。
だから偶然裸を見られてマグドルに女だとバレた時、偽る日がやっと終わったと思った。
仲間だけでもわたしがわたしだと話すことができるなら、わたしの居場所は変わらずある。
いつ終わるともしれない旅の中で自然と仲間との距離は近くなった。
マグドルもフューリーも城にいた頃よりずっと話し合える仲間で友人になった。いつからかマグドルの眉間から皺が消え、笑顔すら見れるようになった。相変わらずヒューリーに対しては甘やかしているように見えた。マグドルに幼い頃から仕えていたと聞いて、彼の対応に納得した。
一度できた関係を変えるのは難しいし勇気がいることだろう。
旅に出てから半年以上の年月が経った。ある日、周りより何倍も大きな体をした魔物が発した言葉から魔王の住まいが判明しやるべきことが明確になった。
その地は未だ遠い。しかしどこに向かえばいいのか分からなかった時より気持ちが楽になった。遠くてもすべきことが多くても終わりが見えれば走りきることができるはず。
思い返せば旅は折り返したばかり。でもその時は終わりが間近であると思っていた。
限界が来る前に終わりが見えたことで思っている以上に気を抜いてしまったのだろう。
いつか言えたらいいと思っていたのに、自分から打ち明けるより前にバレてしまった。
宿に着き着替えをしようとしていたわたしの部屋にマグドルが入ってきた。胸を凝視した後すぐに背を向けた彼にわたしは告げた。
「隠していてごめんなさい。勇者は男子だと思われているのに、女だと言えなくて。誰かに知られれば消されるのではないかと思って、最初隠していたら今日まできてしまった。マグドル。こっちを向いてわたしを見て」
「レオ。俺は何も見ていない。このまま部屋を出るから、すぐに服を着るといい」
「行かないで。勇者じゃないわたしのことも見てほしい。わたしは」
「見るわけにはいかないだろう。俺にとってレオは仲間で勇者だ」
「女のわたしでは勇者と思えないということ?」
「違う。そうではなくて……」
「なら見てほしい」
そう言葉にしてわたしはやっと気づいた。
一緒に旅をする間に表情と声を和らげるようになった彼のことを好きになっていたことに。
「こっちを向いてわたしを見て……お願いよ」
戸惑いながらもゆっくりと振り向いたマグドルの瞳の奥には熱が籠もっていた。
お読みくださりありがとうございました!次回は明日更新致します。