Continue for Real
終わりゆく世界の片隅で、その日五人が選ばれ『魔王』の討伐へ向かっていった。
その『マスター』が重用したのは、たったの15人。一人残らず弱弱しく、人々が無関心で当然の者たちは、とある『マスター』の下、本来の彼ら以上の戦果を上げ続けた。その彼らの、最後の戦い――
「……道を拓く」
『デミエルフ』の全体攻撃が、道中の敵を蹴散らす。
「アオーーン!!」
『飢狼』の咆哮が、全員に力を与え『魔王』の注意を逸らした。一撃でも貰えば即、戦闘不能になる攻撃を、彼は限界まで躱しつづけた。
「我もここまでか……」
『タタリ神』が無念と倒れた。けれども、魔王に掛けた弱体化魔法がまだ残っている。
「ちっ……まぁこんなもんか」
『オーク』も膝をつく。この時まで出番のなかった彼はこの瞬間、間違いなく輝いていた。魔王の攻撃を耐え、返しの一撃は深手を負わせている。
「……失せよ」
動けるのが不思議なぐらいに傷ついた『リビングアーマー』渾身の一撃で――『魔王』が、遂に斃れた。
幾度とない敗北があった。
数多の敗戦と苦渋があった。
そのすべてが、報われた瞬間だった。
――どこかから、歓声が聞こえてくる。
それはこの世界の終わりまで、最後まで付き合ってくれた人々の声。終わり間際の閲覧者と……自分たちを指揮した、一人のプレイヤーの歓喜の雄叫びだった。
誰も彼もの声が、祝福に満ちていた。全てがここで消えてなくなるにしても……最低レアリティと呼ばれた彼らには、身に余る大喝采だ。
その中で、自分たちの主も、画面越しに叫んでいた。
『成し遂げたー! 俺はやったぞーっ!! お前らもよくやったな!! オイ! 聞こえるか!! やったんだぞ? この歓声、聞こえねぇとは言わせねぇからな!!』
聞こえています。
みんなで、そう伝えられたらよかったのに。
彼ほど、私たちを想ってくれた人はいない。
彼ほど、私たちを理解して、使ってくれた人はいない。
いずれ、ゼロの泡に還る世界と、画面の向こうの世界と隔てていても。
私たちの想いが、決して伝わることがなかったとしても
あなたと共に歩いた道のりが――私達をデジタル画素の人形から、一人の個性に引き上げたのだと。
「今だ ! 式を発動させよ!!運営の手は力を失った! 世界を穿ち傲岸たる者どもに、報いを受けさせるのだ!!」
……歓声の奥、魔王の配下らしきローブを纏った誰かが、不意に叫んで終末の余韻を霧散させ――
終わったはずの幻想は
ここで終わらなかったのだ
≪Continue for Real≫
“……すたー”
一日が、過ぎた。
胸の空白はまだ埋まりそうにない。寝ぼけた頭と心身が活動を拒んでいる。
誰かが自分を呼んでいる。母が起こそうとしているのだろうが? 今日も気だるく、本音を言えばサボりたい。
“ま……たー“
再び呼ばれたその声に、慎は僅かに首を曲げた。
確かに呼ばれているのだが、これはいったい誰の声だろう? 男とも女ともとれる声なのだが、どうにもぎこちない。機械的な……いわゆる合成音声のような音質だ。
“ますたー…… キショウジコクを スぎています。オきてクダさい”
“ライフ・ロボ君。抜け駆けは関心しないな”
“いやいや、にしたってダンナは寝すぎでしょうサ。正直早いとこ起きてくれやせんかネ”
誰かが……いや、複数の誰かが話し合っている。
これはおかしい。樋口家は慎とその両親が暮らしているから、三人家族なのだ。だから、両親が来たとしても明らかに一人多い計算になる。眉をひそめながら、慎は瞳を開けて身体を起こした。
「……誰だ?」
警戒しながら彼が目にしたのは、非現実的な光景だった。
ベットのすぐ横には、白を基調とした全身に、緑色のラインが入っている金属の円柱があった。真ん中にはカメラらしきものやライトもついていて、よくよく見ると両脇にハッチらしき何かがある。
その背後に二人分の人影らしきものがあったが、両者ともに現代では考えにくい様相だ。片や黒いロープですっぽりと全身を覆い隠し、分厚い本を持った男で、もう片方は人であるかすら怪しかった。赤い帽子に小柄な身長、長い鼻を始めとしたいかにもワルな顔つきの……まるでイタズラ好きの小人のような風貌だ。
「えっ……? な……なっ!?」
慎は目を大きく見開き、信じられないと三人を見つめていた。
いきなり部屋の中に、訳の分からない三人組が現れたのだから当たり前の反応だろう。けれども、慎の瞳には恐怖はなかった。何故なら……その異常な彼らは『Nマスター』にとって、馴染みの面々だったのだから。
「『ゴブリン』『ハーミッド』『ライフ・ロボ』!?」
三人の名前を呼ぶと、ローブの男は穏やかに微笑みを返し、小人は「ニシシ」と歯を見せて笑った。円柱状の金属……いや、ロボットはライトを二回ほど点滅させた。
“驚くのも無理はありません。私たち自身も、正直なところ大変驚いているのです”
“ま、積もる話は後にしましょうぜダンナ。まずはやってほしいことがあるんでさァ”
“ワタシタチの ショクバイを エラんで クダさい”
「触媒……?」
突然の出来事に困惑している『Nマスター』は、彼らの要求を聞いてさらに混乱した。何かオカルトめいた儀式でもするのだろうか? それとも未だ自分は夢でも見ているのだろうか……?
“大雑把にいいやすとねダンナ。あっしらがこの世界で安定して暮らせる『本体』の場所を決めて欲しいんでさァ。それを持ち運んでいりゃ、ダンナの仲間はいつでもどこでもついていけるようになるんですヨ”
“ショクバイは ナンでも カマいません。ただし イマ キノウしている ドウグは サけたホウが ブナンでしょう”
“我々はあなたの下に来た者たちを代表して来ています。触媒を決めて下されば、他の者たちとも交流が可能になります”
三人の眼差しは、期待と信頼を強く含んでいて……『Nマスター』として応えたいと自然に思えた。そうして、上手く働かない頭をフル回転させながら、慎は質問した。