ライバルとの思い出話
「とまぁ、こんな感じかな。俺達の出会いは」
「理解不能」
「「ですよね」」
実体化した『エクスマキナ』を挟んで、礼司と慎は昔話を始めていた。
場所は『天野』の表札の奥、庭付きの一軒家だ。一階のリビングでくつろぎつつ、礼司と慎はお互いにキャラクターを実体化させてダベっていた。古いゲーム機とソフトを取り出し、久々に礼司が『二人が出会ったゲーム』を起動しつつ説明する。コントローラーが足りないので、この場で二人で遊ぶのは難しそうだ。
ゲームが発売されたのは中学二年だったか? 真剣にドンパチやりあったのは中学三年生の後半。高校進学がかかった受験を終え、ゲーム世界に復帰した直後の事だ。
「あの頃互いに荒れてたからなぁ……受験ストレスから解放されて、さァ久々に遊ぶぞー! って所で初対面だっけ?」
「そうそう。もうゲーム人口も減ってて……三連続でマッチングしたよね」
二人が出会ったのは、高校が初めてではなかった。現代ではネットに繋がったゲームを遊ぶのが常識となりつつある。顔を名前も見えないままで、誰かと触れ合う事もよくある事。それがまさか……高校に進学して、直接出会えるとは。思い出しながら礼司がゲームを起動し、画面を見た慎が気まずそうに言う。
「初回は……礼司ご自慢の狙撃砲台に撃ち落とされたっけか。礼司はロボットの操作も、自作したAIに任せていたよな」
「そうそう……あ、ダメだ。リプレイデータ保存し忘れてる。残ってるのはその後のだから……多分バージョン3ぐらい?」
「バージョン云々は知らねぇけど、単発の超高弾速タイプのやつにやられた筈」
「よく覚えているね……」
「ありゃインパクトあったからなぁ……こっちが高速移動してんのに、信じられねぇ精度で直撃させてくるからさ。こっちのチームは大パニックだったぜ? 反則と勘違いして、俺もお気持ちメール送った覚えが……」
誰とでも交流出来る弊害だ。対戦相手に対し、怒り狂って直接メッセージを送る事も出来てしまう。対戦系のゲームなら……これが一対一ならまだいいのだが、チーム戦の場合さらなる混沌を産むことがあった。
『お前が足を引っ張ったせいで負けたんだ』と、味方だったプレイヤーに対して文句を言う人間がいる。ただ、これは傾向の話だが……結構な割合で『強いお気持ちの籠ったメッセージ』を送る側に、何らかの落ち度があるケースが多い。
慎と礼司のケースの場合は……『礼司側がイレギュラーだった』事もあるが、慎が疑ったような反則行為はない。思い出せば黒歴史。掘り起こしたくない内容だが、礼司は苦笑しつつ画面にメッセージを表示させた。
「今も鍵をかけて保存しているよ?」
「うわマジじゃん……内容もひでぇ。顔真っ赤だな当時の俺。てかなんで取ってあるの? もしかして根に持ってらっしゃる?」
「……証拠として法廷に突きだそうか。最近、侮辱罪厳罰化されたよね?」
「ごめんなさい俺が悪かったです! ホント許して下さいお願いします!」
「あはは、冗談冗談」
「いやもう、冗談で済まないっての……」
お互いに冗談と分かり切った上で、古い文章を肴に騒ぐ。『エクスマキナ』は淡々としていて、二人の関係性をじっと観察している。
それでもやはり、彼女は機械なのだろう。画面越しに別世界を介して、本気で殴り合った挙句友情を育む……というのは、理解に苦しむ物のようだ。むしろこれに関しては、実体化した慎側のキャラが頷いていた。
「俺達の世界に会う前から、ボスと慎サンは、別のゲーでライバル関係だったって事ですかい。でもそれじゃ、同じ学校に行くって話にゃならない……ですよね?」
顔を見合わせる礼司と慎。二人は軽く笑ってしまった。何か勘違いしているらしいので、あえて少しだけ焦らし、二人は自分たちの戦いについて喋った。
「一番ひどい時は、会うたびに煽りあっていたよね」
「お互いに軽く黒歴史だよな……」
「そうそう。味方としてマッチした時も罵倒し合って……あれは、他の味方の人に迷惑かけたよなぁ……」
「勝率は良かったからマシじゃね? 腕前に関しちゃ信用していた」
「『憎めばそれだけ学ぶ』……真理だよね」
何度も敵として戦い、しのぎを削っていた二人。だが、ゲームの種類によっては……次の対戦で味方として出会う事もある。
昨日の敵は今日の友
昨日の友が今日の敵
それがしょっちゅう起こる世界でもあったがために……互いにいがみ合いながらも、味方となれば癖や強みを把握している。そうしている内に、二人はある事に気が付いた。
「んで、互いに何度もドンパチやっている間に……あのゲームに対する熱量は本物って事を理解したんだよなぁ」
「そうそう。発想やプレイスタイルは別なのに、真剣さは同じぐらいって気が付いて……互いに相手から学んだり吸収したり……確か僕から慎に『このロボットに改良点はありませんか』とか聞いたような気が」
「覚えてるわ。アレは頭真っ白になったわ。よりによってお前が質問するの!? ってビックリしたわ!!」
「こういうのって、他人から指摘されて初めて気が付く事ってあるよね? 何度も戦った慎からなら、学べる事も多いかな? って。それで帰って来た冒頭文、今でも覚えているよ」
「俺も覚えている」
「「クソ真面目か!?」」
そのメッセージもまた、礼司はしっかりと保管していた。
これこそ、二人の交流の始まり。かつて敵同士だった礼司と慎は、電子世界で殴り合う仲だった。しかし真剣であったが故に、研鑽を積む関係へと発展した。
そして二人の仲は、意外な運命へ結びついていく。談笑の進む礼司と慎の関係は……ここにいるキャラクター達とも、大きな関わりを持っていた。




