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ラグナロクのNマスター! Continue for Real  作者: 北田 龍一
ep2 Revengeance

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幻想の空戦

「繰り返す……そこの所属不明機! 貴機ききは本国の領空を侵犯している! 所属と目的を明かせ! さもなくば――」


 一体自分は何をしているのか。煮え切らない心情で、航空機を乗り回す自衛官は警告を続けた。

 情報は錯綜さくそうしており、何が真実なのか分からない。しかし命令されたことは、確かに予断を許さない状況であった。


――所属不明機による、日本の領空の侵犯――


 どこの誰だか分からない奴が、国の頭上をうろうろしている。しかも明らかに、形状からして『戦闘機』な事が一目でわかった。

 問題は――その戦闘機の型番が分からない事。

 無論、軍事機密は何重にも保護される。未確認の新型機……その可能性を考えて、即座に否定した。隠し玉なら、使う時まで隠しきる。こんな些細な事で手の内をバラすなど考えにくい。警告の文言を浴びせつつ、自衛官はひたすら背後を追い続けた。


「なんなんだこの機体……味方でない事は確かだが、近辺国の機体でもない。フォルムは米軍機に近い特徴に思える」

『それなら、通信に応じない理由がありません。政府うえが慎重なのも、米軍所属の可能性を考慮して……でしょうか』


 敵か味方かはっきりしない。つまり下手に攻撃すれば、味方を撃つことになりかねない。突然の侵犯行為故に、国際法上は撃墜されても文句の言えない行動だが……戦闘機を追う彼らは、職務に忠実かつ、冷静な面もあった。


「あの機体から攻撃的な気配を感じない。だが、何もわからないのが不気味だ。一定距離を取って監視を続けろ。レーダー照射も禁ずる。だが……交戦許可が下りたら、即座に空対空ミサイルを撃ち込め」

『撃墜して下は大丈夫なんですか? さっきショッピングモールも見えましたよ』

「……放置すれば、あの機体は爆弾を投下するかもしれない。何にせよ本官らが成すべきは……上が下した判断を、忠実に実行する事だけだ」

『……了解ラジャー


 二機の戦闘機が、所属不明機を追跡する。不明機は……とっくに気が付いているだろう。が、気にしているのかいないのかさえ分からない。あくまで自由に空を飛んでいるようにも見える。

 そう、まるで――初めて空を飛んで、その広さと青さを楽しんでいるような――

 馬鹿な。子供でもあるまいし。直感的に受かんだ感想を振り切り、もう一度警告を飛ばそうとした刹那……初めて『ソレ』は声を発した。


『ふっ……ではお手並み拝見といこう。航空自衛隊とやら』

『は……?』

「!」


 挑みかかる気配を察し、パイロットがスロットルを入れる。アフターバーナーを噴かせ、一気に身体へGがかかる。呆然とする一機を置き去りにして、不明機もまた加速を開始。


『隊長!? 不明機! なんのつもりだ!?』


 声が聞こえるが、喋る余裕はない。不明機は低空飛行と加速で、こちらを振り切ろうとしている。しかし奇妙な確信がある。あの機体からは……危機感を感じない。

 他国の領空を侵犯する行為は、一歩間違えれば戦争に繋がりかねない。所属も答えないその態度では……撃墜されたとしても、誰も文句は言えないだろう。

 何より今……背中を取らせたまま、振り回ているのも……『連れ回して遊んでいる』と、そう思えてならないのだ。あの機体からは『危機感と殺気、責任感』を感じない――


「ナメやがって……!!」


 空を何だと思っている。ここはお前の遊び場じゃない。危うく機銃を打ち込みそうになるが、ぐっとこらえる。攻撃されないとナメているつもりなら……技量を持って圧倒するのみ。空が貴様だけの物ではないと、自衛官の機体が咆えた。

 急激に相手の機体が機首を上げる。合わせて操縦桿そうじゅうかんを引くと、身体に強烈な負荷がかかった。加速中の急制動は、パイロットへの負荷が大きい。相手はこちらを試している? 何様のつもりと血が上った。

 そのまま相手は急旋回やバレルロール、宙返りなどの動作を繰り返す。合わせて自衛官は敵のケツに食らいついた。何度かの挙動を繰り返した後、不明機は太陽を背にして飛んでいく……


「目くらましのつもりか!?」 


 鍛え上げた空間認識能力と、最新の高性能レーダを組み合わせ、追跡を続行する自衛官。一瞬相手が減速したのを見たパイロットは、スロットルを全開にした。

 どんなツラをしているか拝んでやる。空に上がっている癖して、その幼稚さは何なのかと睨んでやる。そんな心意気で敵機体の上方を取った自衛官は、自らの機体を背面で飛行させた。

 この位置関係なら、見上げれば敵のコックピットが見える。何らかの情報を得られれば、手がかりになるかもしれない……なんて理由は後付けだ。ファイターパイロットとして、国防を担う自衛官として、無責任なその機体と、それを操る何者かを許せななかったのだ。


 ――確認したコックピットに『誰もいなかった』

 なのに直後、パイロットらしき誰かからの声が聞こえて来た。


『――なるほど。悪くない』

「――どういう、ことだ……!?」


 今の発言は……間違いなく不明機の物だろう。しかしならば、この声の主は? 誰も載っていない戦闘機から、どうして声が聞こえてくる? そもそも無人で飛ぶ戦闘機など存在する訳が……

 急に精彩を欠く自衛隊機。『落ち着け』となだめる無線によって、辛うじて機体を制御できた。

 前方を飛ぶ不明機に、自衛官は目を離せない。真っ白に混乱する頭へ、不明機の声が届いた。


『この無線は記録しているな? 本機も捕捉しているな?』

「何が言いたい? 貴機は一体……」

『これから起こる現実がすべてだ。貴機が見たものも含めて。……しかし残念だ。ここがゲームなら貴機と――いや、止そう。恐らくオレの方がズレている』

「……!?」


 その言葉を最後に――眼前の不明機が蜃気楼のように歪んでいく。ジェットの排熱で歪められて……いや、そんな様子ではない。いつも間にか背景が透過され、空と雲が透けて見えている。

 やがてそれは肉眼からも、レーダー上からも、完全に消失してしまった。

 あっけに取られる中、背後から僚機の無線が聞こえた。


『不明機、レーダーからロスト! 隊長、まさか撃墜を!?』

「違う。あの機体……消えていなくなった」

『は!?』

「コックピットも確認した。だが、パイロットの姿がなかった。あ、あれは……我々は幽霊でも見ていたのか……?」


 混乱は去らない。何も納得出来ない。置き去りにされた空の中……自衛隊の航空機は指示を待ち、飛び続けるしかなかった。

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