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暗号文

 その文言を見つけたのは、ほんの偶然だった。

 樋口ひぐち まことと、彼らの下に来たキャラクター達……とある『ソーシャル・ネットワーク・ゲーム』のキャラクター達が、世界滅亡(サービス終了)後に使役者マスターの所へ駈け込んで来た。元々戦友のような間柄もあり、すぐに彼は共に居る事を了承。他にも同じような現象が起きていないかと、慎が探して回ってた、ある時だった。


「なんだこの噂……?」


 土曜日昼間、慎はある都市伝説、ネット上で育つ噂を目にした。今回、慎の所で起きた現象も、この界隈に属する事だろう。だから、当たりを付けて網を張っていたが……どう判断すればいいか、分からないネット記事を見つけた。


「未知の言語で書かれた、SNSアカウント……ねぇ」


 なんでも、元々活発な『活動家』の人間の多くに、奇妙な詐欺めいたメッセージが次々送られてきた……という。そのメッセージの送り主を調べてみると、妙な言語を用いた人物に繋がると言うのだ。

 最初は手の込んだイタズラ、文字化けしただけ、ただのバグなどと噂されたが、ネット民は時折、妙に博識な人物が紛れていたりする。言語学を専攻とする人物が降臨すると、彼は数時間と経たずに、スクリーンショットと共に、自らのアカウントで発信した。


『これは既存の地球言語と、完全な合致がありません。しかし羅列を見るに、確かに言語的規則性を有しています。よって……これは何らかの、未知の言語だと断言します』


 いくつかの議論と言うか、反論と言うか、ともかく突っかかる人種の言葉は、雑音が酷い。呆れて遠ざかろうとしたが、どうにも後ろ髪を引かれて、読みふけっていた。


――質問です。これは宇宙人からのメッセージでしょうか?

『断言しかねますが……個人的には否定的に見ます』

――何故でしょう? 未知の言語であるなら、未知の種族、未知の文明が発信した物ではないのですか?

『論拠としては……宇宙人であるなら、いきなりネットワークのSNSに侵入するとは思えない事。まずは電波送信のような形で、天文台に通信が行くはずです』

――密かに侵入した誰かが、仲間宛にメッセージを送った可能性は?

『それこそあり得ません。仮にそうだとするなら『宇宙人のスパイが地球に浸透しているぞ』と自分から公言しているような物。我々より高度に発展しているであろう宇宙人が、こんな初歩的なミスを犯すとは考えにくい』


 自称言語学者のSNSで、学者自身が弁明する。受け答えの内容に知性を感じ、少なくても軽い冗談で始めたのではなさそうだ。


――では、この言語はなんとお考えですか?

『ここまで話を進めておいて……と思われるかもしれませんが、もしかしたら暗号化された文章かも知れません』

――暗号とは……つまり読み替えただけ、あるいは文字化けした何かだと。何故そう思います?

『どうにも……文字や文体の癖、羅列される癖と言いますか……言語には一定のパターンが存在します。否定や肯定。敬語と粗野。読めませんが、確かに法則性が存在する。どうもね、この文体や法則性が……日本人的に思えるのです』

――日本人のセンスで、作られた文字だと?

『全く同じとは言いません。が、影響を受けていない……とも思えない。まだ解読に至れないのがもどかしいですが、そう遠くないうちに読めるかもしれない』


 自称学者だが、ハッタリと思えず慎は唸った。いつの間にか真剣な色の文章に呑まれ、最後まで慎は読み進める。


――なるほど……先ほど「宇宙人の言語云々」と質問しましたが、あなたはバッサリと切って捨てた。その理由は言語に『宇宙人的センス』を、あなたが感じなかったから……でしょうか?

『そのとおりです。この文字列は『地球人的』あるいは『日本人的』に見えました』

――となると、これはまたトンデモな説ですが……この言語が『並行世界の地球人の言語』の可能性はありますか?

『あー……専門外なので何とも言えません。ですが、宇宙人の言葉と言われるよりは、ずっと腑に落ちますね。並行世界とやらが今の地球文明と、どれだけズレているかにもよりますけど……』

――なるほど、ありがとうございました。解読、頑張ってください!

『もし読めるようになりましたら、また記事を更新したいと思います』

――ここはSNSですよw

『途中からインタビュー記事みたいになりましたねw』


 取材に慣れているのだろうか、それとも質問者が取材する職に従事していたのだろうか。途中から加速する質問や雰囲気は、確かにカジュアルなSNSの話し合いと異なっていた。適当に流してしまおうと考えたが、ふと慎は思いついたことがある。


≪ハーミット、いるか?≫

“お呼びでしょうか?”


 レアリティNの一人、ローブ姿の落ち着いた男性、ハーミットが念話に応じる。慎がスマホの画面を見せつつ、試しに彼に尋ねてみた。


≪この文字ってさ、もしかして読めたりする?≫

“読めるも何も……これは我々の世界で、用いられていたの言語の一つです”

≪なんだって?≫


 慎は顔を上げた。表情を緊迫させる慎に対し、ゲーム世界の住人『ハーミット』が応じる。


“時折世界の看板や紋様に、刻まれていた事もあると思いますが……”

≪悪い、攻略で手一杯で……細かくは見てないんだ。でも言われて見れば、見覚えがあるようなないような……ハーミット、翻訳できるか?≫

“やって見せましょう。少々、時間を頂きますが……”

≪なんだっていい。これはきっと……『オルタナティブラグナロク』住人からの、何らかのメッセージだ。絶対に読まないと≫

“その可能性は高いですね……分かりました、謹んでお受けします”


 スマホを預け、ハーミットに実体化を命じ、残っているノートの白紙とシャープペンシルを彼に貸す。

 出力された文章は……あまり穏やかな内容とは、呼べなかった。

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