メッセージ
その誘いは、特定の単語を強く叫ぶ者たちに向けて、無差別に送られていた。
界隈は……良くない噂が多い。身内をかばったり、かと思えば背中から刺したり、自分の言動を覚えていなかったり、平気で意見を二転三転させて、整合性がない。纏まりを見せているようで、実体のない烏合の集。はっきりと一つ明言できるのは……彼らは他者に対して、非常に攻撃的な点だろうか?
彼らは――『ツイフェミ』と呼ばれる人種。
社会の女性問題について、この国を改善しよう……と活動を続けているが、界隈外からの評価は、散々な人々である。
「コイツムカツク!!」
顔を真っ赤にして、界隈の一人が叫んだ。
大手SNSで、気に入らない発言や現象を発見しては、大々的に、声高にネット上に拡散。結果として身内の『ツイフェミ』も同調し、組織的に社会現象なり、記事なり、人物なりを徹底的に叩きのめす。
そこにあるのは、徹底的な怒り。親の仇と言わんばかりに噛みつき、自分の言葉をさも正論のように繕って、正義の名の下に断罪を下す。
今日も今日とて社会の不満を探し、怒髪天に触れるような言葉や記事を探した。
見つからない時は、互いに連携している仲間が、何か標的を見つけてくれないかと期待する。自分の怒りの矛先を求めて彷徨うが、一度も心からスッキリしたことはない。さながら地獄の餓鬼のように、飢えた『ツイフェミ』は正義を構えて、ネットの海を徘徊していた。
「あ? 何? メッセージ?」
他人に攻撃的であるが故に、彼ら彼女らは攻撃的な文言に晒される事も多い。
メッセージの受信は、少なからず身構える。ちょっとした言葉なら『馬鹿乙』で片づけられるが、徹敵的に論破され、自尊心をズタズタに破壊するような内容も含まれている。何が厄介かって、かつて自分がネット上で発信した言葉や履歴を引用しているから……下手に拡散すれば、一気に集中砲火を受けてしまう。過去を削除することもできるが、熱心な彼らは『削除前のメッセージを画像として保存』している事も多い。既にメッセージが飛んできた時点で、心に致命傷を負う事が確定している。
だから、どうしても身構える。仲間からの応援要請な事もあるし、どうでもいいことでもある。なのにメッセージの受信一つで、開く前は胃がすぼむ思いだ。
そうして開いた内容は……どうにも要領を得ない内容だった。
『このメッセージを受信したラッキーな貴方へ! 三日後の某ショッピングモールにて、法的に取り締まられる事のない『力』を配布します!! 先着三名様限定!! 好きなように社会を変革しましょう!!!』
「なにこれ? あほくさ……」
何が何だか、わからない。文句の一つでも言い返してやろうかと、送信先の相手にカーソルを合わせてタップする。確かに画面は開いたが……文字列が、実に奇妙だった。
――基本、アカウント情報に使える文字は限定されている。
アルファベットと数字、一部の特殊記号の組み合わせで、アドレスやアカウント、ネットワーク情報は構築される。それ以外の情報は『異物』と認定され、登録情報として処理することはできない。
だが……送信主のプロフィールは、明らかに異質としか言えなかった。
確かに、文字らしき何かは羅列されている。しかし読めない。それは日本語ではない。奇妙な言語としか表現できない何かが、そのアカウント情報を占めていた。
「は? 何語これ?」
珍妙な羅列だが……何らかの法則性の様な物、何かの形を成している事。空白や改行、句読点らしき記号などがある事から……恐らく『言語』な事は想像がつく。とりあえずコピー&ペーストを行い、検索サイトに入力するが……エラーを吐いた。
「え……どういう、コト?」
おかしい。こうしてSNSアカウントを保有している以上、少なくてもこのサイトは引っかかる。引っかからなければおかしい。検索を避ける構造をしているのか? いや、そもそもこれは何なのだ?
試しに様々な方法で検索を掛けるが、やはり該当は無し。となれば『世界的に極めてマイナーな言語』である可能性を考え、人類の言語を纏めているサイトを検索していくつか回る。が、この謎のメッセージの送り主が用いている言語と、該当する文字列が存在しない……
「じゃあなに? これは宇宙人か何かのメッセージ……ってワケ?」
宇宙人に、自分あてに送られた、特別なメッセージ? 法的に接触しないとは……まさか宇宙力的な超常の力を、自分に与えるという意味だろうか。
社会を変革する、法的に接触しない力……『ツイフェミ』の『フェミ』の部分は本来、女性を社会的に敬愛し、啓蒙を進める『フェミニスト』の単語の略称だ。彼ら彼女らにとって……『法に抵触しない、社会を変革する力』の文言は、あまりに魅力的に過ぎる。
加えて先着三名……このメッセージを送られたのは、自分だけではない。大勢の人間に配られた手紙の中から、早い者勝ちの特別な三人にのみ、スペシャルな何かが与えられるという……
「三日後って……日曜じゃん。暇な日だし、近いし……べ、別に気になってなんかないんだからね!!」
ならばどうして、無視出来なかったのだろう?
使い古された、詐術の手紙を。