表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラグナロクのNマスター! Continue for Real  作者: 北田 龍一
ep5・5 Conversation side Faith
177/192

模擬戦開始!

 それから二十分ほど待機していると、体育ホールの外周側に人影が見え始めた。スーツ姿の大人たちは、どこか落ち着きを失っているように見える。これから起きる非常識に緊張しているのだろうか? 少なくても、観客気分で待機している様子はない。大型のカメラを備え付けていて、まるで映画の撮影場面だ。

 けれど目つきは真剣。どういう意図か知らないが、記録映像に使い道はあるのだろう。携帯端末を耳に当てた井村が頷き、通話を切ってから声を張り上げた。


「えー……皆さん、お待たせしました」


 粛々と周囲への挨拶を終え、井村は組織の人々へ経緯を説明する。ゲームキャラの実体化現状と、今日に至るまでに発生した事件について。対応が後手後手ではあるものの、協力者の若者がいる事。そしてこれから、実際に起きた現象への理解を深めるために、戦闘演習を実施すると話した。


「樋口慎、阿蘇武蔵、両名前へ。お前らのいつも通りのスタイルで……あぁでも、あくまで演習だから加減を――」

「しゃあコラ!」


 武蔵少年の背後から、威勢よく金髪の騎士が飛び出す。一瞬で霊体から実体化し、黄金の騎士剣を引き抜く。周囲からどよめきが起こる中、元気いっぱいに阿蘇武蔵も腰の木刀を構えた。

 瞳を輝かせ、顔を高揚させている少年は……信じられない事に、キャラクターと共に戦うつもりなのか? ちらりと礼司へ目くばせすると、軽く肩を竦めた。それが答えだ。


「樋口先輩! 対戦よろしくお願いします!」


 一度背を正し、完璧な一礼の後に木刀を構える。試合に臨むスポーツマンの姿が重なり、自然と慎も背が伸びた。ゆっくりと一歩前へ歩き、拙いながらも一礼し、声を張る。


「よろしくお願いします!」


 それはスポーツマンとしてではなく、ゲーマーとしての習性だ。対人戦の相手、対面した相手に対し、ゲーム開始と同時に挨拶は基本。たとえ一対一の対戦であろうと、変な煽りはマナーが悪い。試合開始と終了後には、惨敗を喫しようとも一言残す。奇しくもそれは、柔道を習う少年の性質と合致していた。

 体育ホールな事もあり、学生同士の試合めいた空気が張りつめる。説明を遮られた井村だが、気を取り直して堂々と宣言した。


「オホン! ではこれより、二名のマスターによる模擬戦を実施します! ……一応言っておくが、二人とも最低限の加減は頼むぞ!」

「「善処するッス!」」


 熱くなったら、手加減できる自信は無い。いっそ実力が開ききってくれればありがたいのだが、どうも対面した相手の目つきを見るに、変な手加減や手抜きはむしろ失礼と感じた。本気で打ち込んだ事柄を、全力で燃焼させてこそ……勝負の醍醐味と言うものだ!


≪『いつもの』で行くぞ。『リビングアーマー』と『スライム』はワンセット。デミエルフは……初手運ゲーは失礼だから『ハーミッド』で様子見、残り二枠は――≫

「行くぞぉぉおっ!」

「⁉」


 金髪騎士にぶつける手札を考えていた所、マスターたる阿蘇武蔵が思いっきり木刀を振りかぶって襲って来た。反応が遅れた慎だけれど、自身の判断で『近衛騎士』が実体化。大盾で受け止めたが、側面から『アーサー・ザ・キング』が迫る。即座に脳裏に浮かべた三名を実体化して『リビングアーマー』が聖騎士の刃とぶつかった。自分の周囲で繰り広げられる戦闘に、冷や汗交じりに慎は声を上げた。


「ちょ、ちょちょちょっ⁉ いきなり直接攻撃ダイレクトアタック仕掛けるかフツー⁉」

「先手必勝! マスター狙って潰せは勝ちッスよ!」

「模擬戦でやる奴がいるか!」


 ちらりと見えたオッサンの顔も渋い。キャラクターの現実を、お偉いさん方に見せるための演習なのに……速攻で終わらせてどうするのだ。しかし仕掛けてくるなら、無抵抗ではいられない。そのまま『近衛騎士』に受けてもらいつつ、彼を支援すべく別のキャラを呼び出した。


「『巫女シスター』は『近衛騎士』をカバー! あ、あと『近衛騎士』!」

「大丈夫です。模擬戦の形で応対します」

「本気で来て大丈夫ッスよ⁉」

「冗談もほどほどにするの!」


『近衛騎士』が身に着ける武具は本物だ。それこそ模擬戦で、しかも生身の人間に打ち込む訳にはいかない。しばし迷った騎士は、剣を床に置いて鞘を握りしめて応対した。


「……少々不格好ですが、ご容赦を」

「別にいいッスけどね!」


 鞘と木刀が干渉し、模擬戦らしい演武が始まる。一方の『リビングアーマー』『スライム』のコンビと、ハーミットの三名が交戦していた。


「ちっ! 初手の急襲は失敗か!」

「あっさり勝負に決着がついても、何の面白みも無いだろうに!」

「それもそうだ。しかしお前……妙な中身をしてやがるな。通りが悪い」

「ふん。手品の種を明かす気はない!」

「そりゃそうだ!」


 黒い鎧と黄金の騎士が、近いサイズの剣戟を交わす。趨勢は『アーサー・ザ・キング』優勢に進んでいる。明らかに力で押され、黒の鎧に新たな傷が刻まれていった。

 このまま一対一タイマンが続けば、何なく騎士は『リビングアーマー』を打ち倒すだろうが……呪文を唱えられ、騎士の動きが鈍る。やや後ろにいる『ハーミット』の弱体呪文が、騎士の能力を下げているのだ。

 ギロリと睨んで敵意を向けるが、当然仲間をやらせはしない。漆黒の鎧が切りかかり、今度は剣戟が拮抗する。

 演習は奇妙な構図であるが……彼らの戦いを、大人たちは見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ