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ラグナロクのNマスター! Continue for Real  作者: 北田 龍一
ep5・5 Conversation side Faith
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貸し切りの公民館

 二週間後、関係者全員の予定が空いた日――井村のオッサンが用意した舞台に、四名のプレイヤーが集っていた。集まった人員は以下の通り。

『Nマスター』樋口慎。

『マシンマイスター』天野礼司。

『最強を求める少年』阿蘇武蔵。

『秩序の守り手』井村蔵人。


 場所は町の公民館。入り口は『臨時工事のお知らせ』と書かれ、工員が出入りしている。一般人が目にしてもすぐに踵を返すだろう。慎も最初は気後れしたが、霊体の騎士が彼を励ました。


“問題無いでしょう。例の画面を表示させておけば、誤認もあり得ません”

≪悪ぃ悪ぃ。ちょいと緊張してたわ。何もビビる事ないのにな≫


 制服を纏う人の群れは、部外者が近寄りがたい空気を持つ。それが必要な作業員や事務員であれば、よりプレッシャーは増すだろう。恐らく井村のオッサンの組織は、こうした隠蔽手法のノウハウがある。こうした人の心理にある『近寄りがたい』を上手に使う事で、民衆を危険から遠ざけているに違いない。

 上着を整え、決戦に向かう表情で公民館入り口に近づく慎。さりげなく、しかし鋭い歩調で頭に『安全第一』を被った男性が声をかけた。


「すいません、今日は公民館開いてないんですよ。体育ホールに亀裂が見つかったので、緊急で補修工事をすることになって……全面休館です。申し訳ない」


 何も知らなければ、この言い分をすんなり受け入れて帰るだろう。誰がどう見ても、目の前の人物は『工事の人』にしか見えない。慎はおもむろにスマホを取り出し、オッサンから送られた一画面を見せた。

 表示されたのはQRコード。目の前の男性が微かに驚き、すぐ気を取り直してタッチパット端末を取り出す。やりやすいように慎が角度を変え、パット下のカメラで工事の人がコードを読み取った。

 無言で指先を動かし、操作を続ける相手。妙な緊張感の中、しばらくして固い声が返って来た。


「失礼した。君が……蔵人さんの協力者の子か。話には聞いていたが、随分と若い。高校生らしいね?」

「えぇ、まぁ……オッサ、井村さんと知り合いで?」

「同じ裏方部門なものでね。多少知った顔ぐらいの距離感かな。あの人、あまり他人と関わろうとする人種じゃない。今回の提案は驚いたが……状況を考えると妥当かな」


 神秘を隠蔽する組織……目の前の『安全第一』の方も、井村のオッサンと同じ組織に属している人物のようだ。公民館の工事は偽装工作で、実際は演習のための貸し切り。作業着も必要だから、目の前の人物は着用しているだけだ。


(しかし体育ホールの工事ってのは、上手い事考えたよなぁ……)


 演習戦を行うのは、ここの公民館の体育ホール。広さは十分で、工事と言い張って隔離すれば人目にもつかない。派手に暴れたとしても、作業音だとごまかせる。模擬戦にはぴったりだ。


「他の人たちは既に来ている。入って左手を進めば、道なりに行ける筈だ」

「ありがとうございます。……もしかして待たせています?」

「時間より二十分は早いよ。これで遅いと抜かしたらブラック企業だ」

「俺はまだ未成年ですよ。社会の闇を見せないで下さい」

「厄介ごとに首を突っ込んでおいて何を言うか」


 確かに今更である。自分から事件解決に動いておいて、社会の闇だの言えた義理ではない。それに慎は過去の騒ぎで耐性がついている方だ。軽口を叩いて奥へ進み、人の少ない公民館を歩いて行った。

 体育ホールに辿り着くと、知った顔が二人と知らない人物が一人。三人の中で一番背の小さい少年が、恐らく『阿蘇武蔵』だろう。全員が慎のに気が付くと、真っ先に少年があいさつした。


「うっす! 樋口先輩! お疲れ様です!」

「お、おぅ……よ、よろしく」

「はい! 対戦よろしくお願いします!」


 礼司から聞いていたが、阿蘇少年は柔道部に所属しているらしい。大会で成績を残せる強豪中学の部活動らしく、一目で『揉まれている』のが分かる。礼司や慎より年下だが、筋肉量はこの中で一番かもしれない。下手をしたら、年上の井村よりよっぽど運動できるのでは? ちらりと井村を見たのがバレて、オッサンは苦々しく慎を睨んだ。


「なんだ? 何か言いたい事でもあるのか?」

「いえ、ナンデモナイデスヨ?」

「露骨な片言やめろ。自分で分かってるよ、不健康なオッサンな事ぐらい」


 ふてくされる井村に、若者全員は苦笑い。年齢による体力の衰えは、十代の人間に理解出来ないものだ。多少怠けていたとしても、若ければ意外と無理は効くし馬力も出る。その代表格が武蔵少年だろう。

 その後も軽い自己紹介を終えてから、井村がこれからの段取りを伝えた。


「もう少ししたら、お偉いさん方がやって来る。そしたら模擬演習を始めるぞ」

「総当たりッスか? それともトーナメント?」

「いや、下手な消耗を避けるためと、時間が押しているからな。全員が一戦ずつ行う形で終わらせる形だ」

「組み合わせはどうします?」


 礼司の問いかけに少し考えてから、井村は模擬戦相手を指名した。


「そうだな。オレと慎は互いの手札を知っている。確か慎と……礼司だったか? 二人は友人関係だったな。そして礼司と武蔵も一度戦闘済み……となると、オレと礼司で模擬戦するのがいいだろう。慎と武蔵も初対面だし、親交を深めるにもこれがいいんじゃないか?」


 知らない人物同士で対戦したい……その意図を組んだ若者三人は頷き、井村の上司たちがやって来るのを待つ。

 不謹慎かもしれないが――慎は、少しワクワクしていた。

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