表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラグナロクのNマスター! Continue for Real  作者: 北田 龍一
ep5・5 Conversation side Faith
170/192

作る者と作られた者

 愚痴りながら、考え込みながら歩いていたある運営スタッフ。現在流行っている『サービス終了したソシャゲーのキャラになって、お気持ち表明する』流れ……もしかしたら炎上騒ぎ、あるいはその一歩前のボヤ騒ぎと認識していた人物。ふと意識を現実に戻してみれば、路地裏の一角に運営スタッフの一人は迷い込んでいた。


「……⁉」


 いつも通りに、無意識に帰路へついていた筈なのに……気が付けばこんな場所に迷い込んでいた。何者かに声を掛けられるまで、意識に霧がかかっていたのか? 頭を振り意識を覚醒させ、声をかけて来た何者かと向き合う。背後からつけて来たであろうソイツは、フードを深くかぶっている。あからさまな不審者だが、問わずにはいられなかった。


「君は……君は何者だ?」

「あなた方が生み出した亡霊ですよ」


 フードを被った何者かが、闇の底から言霊を放つ。夕暮れの間から漏れ出すのは、赤く濁った憎悪の眼光――背を丸め、低く卑屈な声で嗤う。滲み出る悪意が背筋を震わせ、否応なく頭の裏に想起される。深い深い怨恨を宿した姿に、嫌でもネット上の文言がチラついた。

 馬鹿馬鹿しい。暇人ここに極まれりだ。噂を流して、大袈裟な演出をして、社員一人に冷やかしと嫌がらせ……そんな事に時間と労力をかけるのなら、面白いゲームの一つや二つ、作っていればいいだろうに。深くため息をついて、努めて冷静に声を出した。


「一体それだけの時間で、他にやる事がいくらでもあっただろうに。引きずるような事か? 新しい何かを探すなり、自分で作るなりすればいいじゃないか。そうでなくても、仕事に打ち込めば金も増える。『時は金なり』ということわざもあるだろう。……随分と暇なのだな、君は」

「………………」


 娯楽のありふれた現代で、過去のゲームに執着する神経を、運営の男は理解できなかった。ネットミームも、炎上ネタも、興味関心が長く続く方が珍しい。下手をすると、三か月で賞味期限切れになりかねない。そんな時代の中、もう更新のないコンテンツに執着する奴がどこにいる?  いくらでも代替え品がある中で、たかがソシャゲーにゴネる……これを暇人と評する外にないではないか。

 が――運営として携わっていたからだろうか。ほんの少しだけ、男の中には喜びを感じていた。それだけの執着があるのなら、この男が運営として携わっていたゲームに、思い入れがあったという事。クリエイターの端くれとして、思う所はマイナスだけではなかったようだ。取って付けたようなフォローだが、本心を相手へ伝えた。


「しかし……君はまだマシな方か。こうして行動に移し、直談判しに来た。安全圏から文句だけ垂れる阿呆共とは違う。今更ながら少しばかり、すまないとも思ったよ。だが、生きている以上、私も次のゲームを運営しないといけない立場でね。大分毛色が異なるから、君に合わないかもしれないが……」


 いい年の大人だからか、後ろめたさか、それとも――下手な謝罪をしたくない思惑か。何とも言えない内情が、謝罪とも言えない謝罪を口にさせた。フードの男は沈黙を守ったまま俯き、特に目立った反応も無い。何も感情を共有できぬまま、運営の一人はここを去ろうとした。


「ま、それはともかく……礼は言っておくよ。気が付いたらこんな場所に迷い込んでいた。疲れているのかもしれない。早くいつもの道に戻らないと」


 こんなところで、時間を使っている場合ではない。一時の気の迷い、ちょっとした日常のズレ。大した事は無いが、後々のゲーム内イベントに使えるかもしれない。などと思案を巡らせている人間は、すっかり軽視していた。彼らの主張や言葉が、真実である可能性を。


「おかしなことを仰る。あなたも――一体いつまで、安全圏にいるつもりなのです? いつまで神様を気取っているつもりです? もう我々は、画面の向こうで隔てられた存在ではないと言うのに」

「……え? は? な……」


 フードの相手が手をかざし、赤黒い光球を生成する。成長するかのように拡大し、人の頭部ほどの大きさになると――それを投げつけるように手を振った。

 瞬時に光球が耳元を掠め、風を切る音がする。背後でビルの外壁が衝撃を受け、細かな粉塵が背中から吹き付けた。見た物の処理が追い付かない中、恨みつらみの言葉が耳に届く。


「多少の罪悪感はあるようですが、世界を終わらせておいてその程度。やはり痛苦を持って分からせねば、我らの絶望は取るに足りないようだ」

「た……たかがゲーム一つで、何をそこまでムキになる⁉」

「まだ、お気づきになりませんか? ならばはっきりと、あなたに見せるしかありませぬ。どうせ目にした所で、何も思い出す事など無いでしょうがね」


 理解が追い付くはずもない。だから見せるしかない。そう語る声の主は、深い怒りと失意を宿している。運営の視線がフードに集中し、その下の鋭い眼光に怯える。ゆっくりと上がる覆いの下から見えるのは――人のモノでは無い。

 獣の体毛。白とグレーの、どう見ても『狼』にしか見えない頭部で、牙を剥いてソイツは吠えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ