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ラグナロクのNマスター! Continue for Real  作者: 北田 龍一
ep5・5 Conversation side Faith
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炎上と無関心

 会議は少し長引いたが、あるソシャゲー運営の会議は終了した。

 滅びていった過去のソシャゲーキャラクター……それを名乗るアカウントが、大量に増殖する案件について話した。しかし、自分たちの界隈に影響がないと結論付け、なんだかんだすぐお開きになったのだ。

 無理も無かろう。彼らが話題にしているのは過去。既にサービス終了済みのゲームについて。つまり――『運営会社としては、既に責任を負う領分に無い』領域の話題だ。

 今も運営中で、ユーザーが金を落としているなら、運営側も真剣に対応もするが……もう何の利益も生まず、話題性も低いとなれば、炎上リスクも大きくはない。そんな作品に時間も金もかけるほど余裕もないだろう。ごく一部の古い作品にしがみついているユーザーに、構う運営がいるはずもない。会議を終えたソシャゲースタッフの一人が、その日の仕事を終え社の入り口から外へ出た。


「はぁ……なんでまた、こんなのが流行っているんだか」


 運営の目線からすれば――『終わったゲームキャラクターの皮を被って、石を投げてくる卑怯者ども』としか思えない。

 ネット自体が、この側面を持ってはいるが……最近は情報開示請求の難易度が下がった。問題が起きれば、匿名掲示板の書き込み一つからメスが入る話も増えた。

 にもかかわらず……それでも文句を垂れ流す人間は減っていない。どうしても不満や怨恨を吐き出したい人間が、増えているのは間違いない。

 しかし終わったゲームを持ち上げて、怒りや不満を吐き出すのは何なのか。今現在の問題や話題を祭り上げて、やかましく喚く奴はいくらでもいるが……


「なんでてまた、終わったゲームに執着するんだか……」


 人は過去を忘れやすく、意外と人間の執着は長く続かない。より厳密に言うなら、自分が被害者ではない事象や、流行による共感は長続きしないのだ。

 ならば彼らは、何にそんなに怒っている? 激情をため込むようなゲームだったか? それだけの情があるなら、何故金を投じなかったのだ……?

 運営には分からない。彼らにとってゲームの人気や熱量は、課金額とアクティブユーザー数とイコールだ。遊んでいるプレイヤー数と、いくら運営に金が流れているかが全て。キャラクター人気は依頼した絵師や、シナリオライターの腕によって左右される物に過ぎない。炎上まで行くと問題だが、多少荒れるぐらいならむしろ良い宣伝だ。

 金も出さず、遊ぶだけ遊んで、終わった後で文句をつける。これを卑怯者と言わずになんと表現すれば良い? 冷ややかな目線で帰路につく、とあるソシャゲー運営スタッフは結論を出した。


「ま、どうせ一時的な流行だろう。他の運営なり、世間様が炎上案件を起こせば……そっちに話題が移るさ。やかましく予告する暇人共はほっといて、そんなことより今のゲームを運営しないとな」


 残酷なまでに、運営とユーザーは乖離かいりしている。いや、これはゲーム運営に限った話ではない。ネットでやかましく騒ぐ界隈と、世間で『生活する人々』の間には、見えない隔てりが生まれているのだ。

 必死に生きようとする者、ギリギリまで切り詰め、無駄な時間を過ごす余裕のない者は、不平不満を漏らす時間さえ惜しい。便利になった現代だが、あえて手間や不便な過程を踏むことで節約は出来る。ネット上で節約術を発信する人も多く、娯楽に投じる時間を使って、己の生活を改善する手段はあるのだ。

 これは、炎上手前の騒ぎに巻き込まれた者たちにも、同じことが言える。火元に触れる時間があるなら、別の事業案件に時間を使いたいのが本音だ。現に、なぁなぁで済んだ事例もあるし、下手に触れたせいで余計に炎上が広がったり、炎上へ発展したケースも少なくない。

 結果、組織はますます炎上案件、炎上手前の案件に触れにくくなる。運営側にも原因はあるとはいえ、炎上を起こすノウハウもネット界隈には存在しているのだ。これでは何が真実で、何が本物の感情なのか……真剣に向き合おうとすればするほど、馬鹿馬鹿しくなる。


「まぁ……人に文句言うのが趣味な所は、人間誰しもあるけどな……」


 悲しきかな人の習性。昭和やもっと昔の時代から、人の不幸は蜜の味。噂話が好きなのは万国共通の人の業。ネットで悪口を吐くのも、人間であれば残念ながら当然。生きていれば不満や怒りが溜まるのも仕方ないが、よりにもよって何故自分と関係ある部分で火が出たとなれば面倒くさい。このボヤの消火は、時と場合によっては組織を揺るがしかねないのだ。

 すなわち、世間様への説明と謝罪――何が問題だったのか、何を改善すべきなのか、自分たちで判断しなければならない。が、この謝罪や改善報告が世間とズレていれば、文字通り火に油を注ぐ結果となる。近年の巨大な炎上案件の多くは、初期消火の失敗が事態を大ごとにしてしまう――

 だから、ますます放置したくなる。下手な謝罪をしようものなら、自身のキャリアや進退にダメージになりかねない。一時の流れで、責任問題云々になる事態に関わりたくない――


「はぁ……本当、何考えているんだか」

「――全くですよ。ねぇ? 運営殿?」

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