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ラグナロクのNマスター! Continue for Real  作者: 北田 龍一
ep5・5 Conversation side Faith
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認識

 焦点を慎から逸らした巫女さんにつられ、慎も背中側に意識を向ける。まさか何か危険なモノでもいるのか? 不安に駆られた彼に聞こえて来たのは、先ほどまで熱く語った世界の仲間たちの声だった。


“ボス……ちょっと恥ずかしいですよ”

“全くだ。赤の他人に熱っぽく話す事じゃない”

「あっ」


 ふと背中に目線をやれば、五人の勇者たちが慎の背に立っていた。声をかけて来たのは『オーク』と『餓狼』。他にも『リビングアーマー』『タタリ神』『デミエルフ』も控えている。最後の一戦において、ラスボスの魔王を討伐したメンバーだ。慎の中でも、特に思い入れの強いメンツである。彼がゲームについて……『オルタナティブラグナロク』について、熱く語ったことに触発されたのだろう。


“……悪い気は、しないけどね”

“うむ。我が主の本音を初めて聞けた”

「な、なんか恥ずかしくなってきた……って! あー……すいません! 身内で話しちまって」

“いやいや、主殿は悪くあるまいて。我々がつい、口を挟みたくなっただけの事。主殿の言いつけを破った我々も良くない。しかし惜しいなぁ……我らの事は巫女殿にも見えぬようだ。我は『タタリ神』故、もしやとも期待したのだが……”

「えぇと……どの『タタリ神』であらせられますか?」

“⁉”「⁉」


 おずおずと口を挟む、横山巫女。思わず慎と『タタリ神』が顔を見合わせ、残りの四人にも衝撃が走る。自分たちを……キャラクターの存在を認識できるのか? 確かに波長が合うなら、霊体状態でも見えると言っていたが……

 念のため、いやもうほぼ確定とは思うが、確認も兼ねて慎が『タタリ神』に目くばせする。すぐに意図を察したキャラクターが、巫女の質問に答えた。


“どの……と申されても困る。察するに、我の真の名を尋ねているのであろう?”

「……えぇ。そうです」

“すまぬが……我の名はあくまで『タタリ神』なのだ。大仰な二つ目の名や、明確に我を示す名も無い”

「……真の名が無い、と?」

しかり。恐らく明確なカタチのない、野良の『タタリ神』なのだろう”


 悠然と答える『タタリ神』に、巫女は深く二回頷く。間違いない。横山さんは完全に『タタリ神』を認知できている。両者の会話を補足するように、慎はゲーム上の設定を話した。


「あー……これはゲーム上の設定の話ですが、確か『タタリ神』は名前を失った古い神だった……って感じです」

「あぁ……語り手を喪失した神ですか」

「まぁ、もっとメタい話……ゲーム運営側の都合の話をすると、最低レアリティのキャラそんな深い設定はつけないんですよ。言い方悪いけど、最低レアリティは……ゲーム内で人権が無いと言われても、過言じゃない現状があります。そんな所に文章や設定を盛るより、レアリティの高い……もっと強くて花形のキャラに設定を盛った方が色々と良いですから」

「ず、ずいぶん酷い言いようですね⁉」

“巫女殿。残念ながら、主殿の言い分が真なのだ。我らがいた界隈では、最低のキャラクターは言わばモブ。そこら中に転がっている石ころと変わらぬ”

「……そう、ですか」


 自虐に見えるが、これもソシャゲー界隈の常識の一つ。こちら側の世界を知らない巫女は、深刻な表情でため息を吐く。タタリ神と慎は苦笑した後、作られた最弱は朗々と謳う。


“ま、ここにいる主殿は……石ころを一つ一つ拾い上げて、事細かに観察し、それぞれの石に適切な磨き方をして光らせていた男。他にいくらでも輝かしい宝石があるにも関わらず、石ころを愛でて磨き上げた、奇人変人の類であるからして”

「おい」

“はっはっは。だが、雑に転がったまま打ち捨てられた石ころよりは……幾分か我らもマシになったであろうよ。その恩義がある以上、我らは主殿に付き従う。理由では十分であろう?”

「…………改めて聞くとハッズいなこれ」

“先ほどまでの主殿の言動である。ささやかな意趣返しよ。許されよ”

「おう、許す!」


 またしても身内トークを繰り広げる両者だが、はっきりやり取りが見えている巫女は……忍び笑いで抑えようとして、こらえられず笑い出す。慎とタタリ神が気まずくなる中、失礼と一言告げてから、両者を生暖かく見つめる。


「ずいぶんと親しい仲なのですね」

「そっすね。なんだろう、同じ課題に立ち向かう仲間……って感じ?」

“以前の様にはっきりと『戦友』と申せばよかろうに”

「それはホラ、巫女さん目線だと……ちょっとイタくね?」

「なんであれ、真剣に熱中する事は悪ではないと思いますよ」

“うむうむ。違いない。ところで巫女殿、我は気になったのだが……『我以外』は見えているかね?”


 言われて慎は気が付いた。他の仲間たちは無言だが、今も魔王討伐の面々は慎の視界に映っている。発言はタタリ神だけだが、霊体として周囲に漂ったままなのだ。

 同じような霊体の『タタリ神』だからこそ、何かに気が付いたのかもしれない。巫女は幻想のタタリ神へ、素直に答えた。


「はっきりとは見えていません。ですが、ぼんやりと影が在る事を感じると言いますか……何かがいる事は認知できます。声は聞こえていません」


 予想通りなのか……タタリ神も大きく頷いて納得した。


“やはりか。口を挟んだのが我と主殿の会話の直後で、他の物への言及が無かった。そこからの推察である。試すような事を申して悪かった”

「いえいえ。事実の確認は重要です。しかし興味深い。あなたたちは、全員が明確な自我を獲得しているのですね……」

“うむ? どういう意味か?”

「幽霊の中には、己の事を曖昧にしか記憶していない者もいます。強い未練だけを覚えていて、他の細かな事を忘却して……意思が残っているのか、ただの厄災を起こすだけのような『現象』に近い霊的存在もいるのです」

“なるほど。確かに我らと異なる。我らとしても興味があるが……すまぬ巫女殿。そろそろ主殿の門限が迫っておってな”

「えっ……あっ⁉」


 言われてスマホに目をやると、既にかなりの時間が経過している。お互いに知りたい事、話したい事は多かったから、仕方ないと言えばそうだが……

 申し訳なさそうにちらりと巫女を見ると、彼女の方も詫びるような表情で言う。


「長く引き留めて、申し訳ありませんでした。宜しければ、また後日にお話を伺いたいです。今度は……あなたの言う『みんな』と」

「いやもう是非お願いします! 巫女さんが許可くれるなら……俺もみんなも、色々と語りたい事あるんで!」

「でも、あまり専門的な事を連呼しないでくださいね?」

「う……気を付けます!」


 ネット用語を並べ立てた事を反省し、一度ペコリと頭を下げる。

 バタバタしつつも荷物をまとめ、神社から去ろうとしたのだが――

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